半導体製造装置の中古市場を語るとき、注目は中古装置そのものに集まりやすい。実際、この1年でも中古装置の流通基盤は拡張した。韓国の半導体中古製造装置および部品を扱うSurplusGLOBAL(サープラス・グローバル)は、2025年5月23日、同社サイトを同年6月2日から、同社運営の半導体製造装置および部品に特化したオンラインB2Bプラットフォーム「SemiMarket」へ移行すると告知した。さらに2025年11月21日には、同プラットフォームの掲載件数が12万件を超えたと公表している。このように中古装置市場の存在感は依然として大きい。
一方で、この1年の企業発表をみると、関心の対象が装置本体だけでなく、補修部品や再生部材にも広がっていることが分かる。RFモジュール、PCB、真空部材、ESC(静電チャック)、チャンバー部品、洗浄品、再コート品といった領域で、供給、修理、再生、洗浄、表面処理の体制が、従来以上に前面へ出ているのである。
これらの部材は、装置本体のように大型投資の議論の中心にはなりにくい。だが量産現場では、交換の遅れや再投入後の不安定さが、そのまま停止時間や歩留まり悪化につながる。このため、装置の新規導入に比べて目立ちにくい領域であっても、工場の安定稼働を支える重要性は小さくない。論点は「何の装置を買うか」だけでなく、「いま動いている装置を何日で戻せるか」「戻した部材がどの程度安定して走るか」に広がっている。
本稿では、この1年の企業発表をもとに、中古装置と並走する運用市場としての補修部品・再生部材市場の現状を考察する。
揺らがない中古装置市場

中古装置市場の重要性は、この1年でも揺らいでいない。「SEMICON Japan 2025」でサープラス・グローバルは、「最新の中古装置情報」に加え、「各種パーツの販売」も始めたと案内し、SemiMarketを「中古装置と予備部品をつなぐB2Bプラットフォーム」と位置付けた。さらに同社の2025年11月21日公表資料では、SemiMarketの掲載件数が12万件を超え、販売者登録が2025年6月比で175%増えたとしている。
この動きが示すのは、中古装置の流通が続くなかで、補修部品や再生部材の流通基盤も厚みを増している、ということである。装置本体の売買に加え、補修部品や代替品、再生済み部材をいかに円滑に流通させるかが、実務上の重心として浮上しているのである。
ここで注目されるのは、SemiMarketが単なる中古装置の掲載サイトではなく、部品、代替品、修理、物流、輸出管理対応まで含めた取引基盤として設計されている点である。サープラス・グローバルは「SEMICON Japan 2025」で、同サイトについて検査結果、写真、仕様書、改修オプション、ECCN支援、国際物流まで扱うと説明した。これは、部品の売買が成立する条件が、価格だけでなく、情報の整合性、適合性確認、書類整備へと広がっていることを示す。
補修部品や再生部材への関心の高まりはOEMにも波及

補修部品や再生部材への関心が一過性ではないことは、OEMの収益構造にも表れている。米Lam Research(ラムリサーチ)の2025年6月29日終了年度の米国の上場企業が米証券取引委員会(SEC)に毎年提出する包括的な年次業績報告書「Form 10-K」によると、2025年度の売上高は184億3,559万1,000米ドル、そのうち顧客支援関連売上は69億4,431万1,000米ドルだった。これは計算上、顧客支援関連売上は全売上の約37.7%を占めることになる。
ラムリサーチはこの区分に、顧客サービス、スペア、アップグレードに加え、同社が展開する「Reliant」製品群による非先端向けの新品・再生品を含めている。これから装置メーカー自身が、装置販売後の保守、延命、改修、再生を大きな事業として組み込んでいるという事実がわかる。
同社は報告書の中で、Customer Support Business Group部門が装置性能、予見性、稼働効率の最大化を担い、スペア供給では製品寿命延長と資本効率向上を重視すると説明している。これは、補修部品や再生部材が、廉価な代替品という位置付けにとどまらず、設備投資回収を支える運用資産として扱われていることを示す。
重要なのは、ここが新設投資の増減だけでは決まらない収益領域である点だ。既存設備をいかに長く、安定して使うかは、装置ユーザーにとってもOEMにとっても継続的な経営課題である。補修部品や再生部材への関心の高まりは、この装置販売後ビジネスの比重拡大と整合している。
重要性増す洗浄・再コートの存在
補修部品市場のなかでも、洗浄、再コート、表面封止、微小汚染分析の重要性は増している。米国のUltra Clean Holdings(ウルトラ・クリーン・ホールディンクス)は2025年12月提出の年次報告書で、サービス事業として超高純度部品洗浄、プロセスツール部品の再コート、表面封止、高感度の微小汚染分析を掲げた。さらに、チャンバー部品の洗浄・コーティング、部品寿命延長、最適化ソリューションを提供すると明記している。
この発表が示すのは、再生部材の価値が価格だけで決まるわけではないということである。清浄度、再投入時の安定性、寿命延長効果、微小汚染への対応力まで含めて評価している。洗浄や再コートは、単に古い部材を再利用するための工程ではなく、量産条件で使い続けるための品質確保工程としての意味合いを強めている。
Enpro(エンプロ)も2025年8月5日の2025年4~6月期決算で、Advanced Surface Technologies部門の売上高が1億90万米ドルとなり、前年同期の8,810万米ドルから14.5%増えたと発表した。会社側は増収要因として、先端向け精密洗浄ソリューション、光学コーティング、チャンバー内ツール・アセンブリー需要を挙げている。
この数字は、洗浄や再コートが景気後退局面の節約手段としてだけ扱われているわけではないことを示す。先端向け投資が続く局面でも、量産を支える供給網の一部として需要が伸びている。洗浄・再コートは、保全費の一部というより、安定稼働を支える品質確保工程として位置付け直されている。
日本の補修部品・再生部材周辺の動き

日本市場でも、この領域では納期、国内対応、保証条件を前面に出す動きがみられる。2025年4月24日、リックスは半導体製造装置部品の修理・再生サービスとして、RPSとジャケットヒーターのページ公開を発表した。RPSとはリモートプラズマソースの略で、処理チャンバーの外でプラズマを発生させ、そのプラズマでチャンバー内の洗浄や薄膜形成を補助する装置である。
リックスは関連ページで、最短1週間以内の短納期、三重県四日市での国内対応、修理後6か月保証を打ち出した。ここで前面に出ているのは、単価ではなく、納期、国内完結、保証条件である。補修部品市場の判断軸が、価格だけではなく、実際にどれだけ早く、確実に現場へ戻せるかへ広がっていることを示す事例といえる。
2025年3月25日にはトーカロが、福岡県京都郡の北九州工場で新工場棟を建設すると発表した。用途は半導体製造装置部品向け表面処理加工の生産能力強化で、建設費用は約32億円、着工は2025年7月予定、操業は2027年5月予定とされた。表面処理は新品部材の製造だけでなく、装置部材の寿命、耐食性、耐プラズマ性、安定稼働に関わる基盤技術でもある。
この投資は、補修部品・再生部材そのものの流通拡大を直接示す事例ではない。ただ、装置部材の延命や再投入を支える周辺インフラとして、表面処理能力の増強が必要になっていることは明確である。日本でも、国内で早く戻せるかどうかが、重要な差別化要因として意識されている。
工場運営を支える独立した実務市場として捉える必要性

この市場で売買されるのは、単なる中古品ではない。「SEMICON Japan 2025」でのSemiMarket紹介では、検査結果、仕様書、写真、改修オプション、輸出管理支援、物流手配まで含めた取引を可能にすると説明されている。サープラス・グローバルも2025年11月21日の発表で、信頼性と透明性を強調し、情報の信頼性とデータ完全性を中核に置くとしている。
ここから見えてくるのは、補修部品・再生部材の売買で重視されるのが、真贋判定、履歴の明確さ、代替品の整合性、輸出管理対応であるという点だ。装置の稼働を早く正常に戻すには、部品を早く買うだけでは足りない。どの状態の部品を、どの条件で、どの書類付きで戻せるかが問われる。安さだけではなく、履歴と再現性が取引条件になるのである。
ウルトラ・クリーン・ホールディンクスやラムリサーチの説明を合わせると、この領域では洗浄、再コート、寿命延長、最適化、スペア供給が一体化している。部品単体の卸売ではなく、再投入後の安定稼働まで含めて価値が評価されているためだ。中古装置市場が資産取得の市場だとすれば、補修部品・再生部材市場は稼働率を維持する市場と整理できる。両者は競合関係ではなく、補完関係にある。
中古装置への関心が続く局面ほど、その装置の稼働を止めないための部品、再生、洗浄、表面処理の重要性も増す。補修部品・再生部材市場は、中古装置の周辺市場としてではなく、工場運営を支える独立した実務市場として捉える必要がある。
補修部品と再生部材は中古装置と並ぶ運用市場と捉える段階に

この1年の開示を通じて確認できるのは、中古装置の重要性が低下したということではない。中古装置はなお有力な調達手段であり、流通基盤も拡張している。そのうえで、補修部品と再生部材が、別の論点として前に出てきた。
OEMの収益では、装置販売後のサービス、スペア、アップグレード、再生関連が大きな柱となり、洗浄・再コート企業では先端向け需要が売上を押し上げ、日本では国内短納期の修理・再生が差別化要因として打ち出されている。
補修部品・再生部材市場は、中古装置の「次」に来る周辺分野ではない。中古装置と並んで、量産現場の現実を支える運用市場として存在感を高めている。半導体工場の競争力を読み解くうえでは、装置本体だけでなく、その周辺にある修理、再生、洗浄、表面処理の供給能力まで含めて見る視点が欠かせない。
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