自動車向け半導体戦略に大きな変化が!――SDV時代に進むSoC・パワー半導体・OTAの主導権争い

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自動車産業における半導体の位置付けが変わりつつある。従来は、必要な機能を満たす部品を外部から調達し、車両側で組み合わせる発想が中心だった。だが現在では、SoC、コックピット、ADAS、クラウド接続、OTA(無線更新)、さらに電動化を支えるパワー半導体までを、車両価値を左右する中核技術として一体で捉える動きが広がっている。

CES 2026では、米国のQualcomm(クアルコム)とGoogleが車載向け協業の拡大を発表し、AAOS(Android Automotive OS)や仮想SoC開発環境、クラウド連携、長期の重要ソフト更新を含む基盤整備を打ち出した。自動車の競争軸が、ハード単体からソフト更新を前提にした継続的な機能実装へ移っていることを示す。

国内でも、同じ潮流をうかがわせる動きが出ている。デンソーは2026年3月6日、2025年5月に公表したロームとの半導体分野における戦略的パートナーシップの基本合意に基づき、ローム株式の取得を含む様々な戦略的選択肢を検討していると公表した。一方で、現時点で具体的に決定した事実はないとも明記している。ロームも、デンソーから株式取得の提案を受領したのは事実だが、具体的な決定事項はないと発表した。ここで重要なのは、買収の成否そのものよりも、自動車側が半導体を単なる調達品ではなく、供給力と技術進化を左右する戦略資産として扱い始めている点にある。

英国のPwC(プライスウォーターハウスクーパース)は、自動運転やソフトウェア化が進むほど、車両に必要な半導体の数と高度化が進み、センサー、計算資源、通信、制御を束ねるソフトウェアが競争力の前提になると指摘している。

フランスのYole Group(ヨールグループ)も、Tesla(テスラ)、中国のBYD(ビーワイディー)、同じく中国のNio(ニオ)など一部OEMによる垂直統合が目立ちだしたと指摘する。

Volkswagen Group China(フォルクスワーゲングループ中国)は2025年11月、中国で初の自社設計SoC開発を公表し、米国のRivian(リヴィアン)も同年12月、自社開発シリコンと次世代自動運転基盤を前面に出した。業界全体が一律に同じ段階へ進んでいるわけではないが、少なくとも先行企業では、半導体を「買う」だけでなく「設計思想ごと握る」方向が鮮明になっている。

本稿はこのような自動車向け半導体戦略に訪れている大きな変化を、考察する。

なぜSoC・ADAS・パワー半導体の一体設計が重要か

背景にあるのは、車両アーキテクチャそのものの変化である。PwCは、レベル3車両では1,000個超の半導体に加え、高性能計算、ADAS、電子制御、V2X通信などが必要になるとみる。EV化が進めば、これにインバータやバッテリーマネジメント向けのパワー半導体需要が重なる。つまり、クルマの価値は、個別ECUや単品デバイスの性能だけではなく、中央演算、センシング、電源、通信、ソフト更新がどのように結び付くかで決まりやすくなっている。

この変化は、SoCの採用競争を、単純な性能比較から、車両OSや開発環境との整合を含む競争へ押し広げる。クアルコムとGoogleがCES 2026で示したのは、クアルコムの車載デジタルプラットフォーム「Snapdragon Digital Chassis」とGoogleの車載基盤を、AAOS、Google Cloud、仮想開発環境、生成AI活用まで含めて接続する方向性だった。ここでは半導体は演算部品の一つではなく、ソフト更新の継続性、開発期間の短縮、クラウドを含む検証効率を左右する基盤として位置付けられている。

自動車側が半導体を供給安定と性能進化の両面から押さえにいく

この結果、車載半導体メーカーに求められる要件も変わる。クアルコムとBMWは2025年9月、共同開発したソフトウェアスタックを組み込んだ自動運転システムを発表した。クアルコムとフランスの自動車部品メーカーValeo(ヴァレオ)も同月、ADAS/AD向け協業の拡大を発表し、機能安全や量産対応を意識したスケーラブルなシステム提供を打ち出している。

ここで重視されているのは、チップ単体の演算性能や消費電力だけではない。車両ごとの安全要求、センサー統合、ソフト更新、量産時の検証負荷まで含めて、OEMやTier1が実装しやすい形で束ねられるかどうかである。

デンソーとロームの一連の動きも、この文脈で読むと理解しやすい。2025年5月の基本合意では、両社は車載向け半導体の取引・開発を通じた連携強化に加え、電動化や知能化を支える高品質デバイスのラインアップ補完、開発面での連携、安定供給、付加価値向上を掲げた。2026年3月の開示では、資本を含む戦略的選択肢の検討が表面化したが、現時点で具体的な決定事項はない。断定的に読む段階ではない一方、自動車側が半導体を供給安定と性能進化の両面から押さえにいく構図は、より明確になったといえる。

パワー半導体・材料・装置メーカーへの影響

この流れからすると、車載半導体の提案競争は三層化する。第一に、SoCやパワーデバイスそのものの性能である。第二に、機能安全、サイバーセキュリティ、OTA、仮想開発環境を含むソフト・運用基盤である。第三に、長期供給、品質保証、ノード継続性、変更管理を含む供給設計である。SDV時代の受注競争は、性能表の優劣だけで完結しにくい。車両ライフサイクルの長さを前提に、「長く使い続けられるか」「更新し続けられるか」を示せるかどうかの比重が増している。

材料・装置メーカーにとっても、商談の入口は従来より前倒しになる公算が大きい。ヨールグループは、OEMの垂直統合と中央集約型アーキテクチャへの移行が、従来のサプライチェーンを揺さぶるとみる。そうであれば、SiC向け基板やエピ、車載アナログ・高耐圧プロセス、先端パッケージ、信頼性評価、検査・計測まで、個別工程の性能だけでなく、最終的にどの車両アーキテクチャへ、どれだけ長期に整合できるかが問われる。材料や装置もまた、単独の性能値ではなく、車両全体の設計思想にどこまで組み込めるかで選ばれやすくなる。

半導体に求められる運用可能なアーキテクチャで応える姿勢

EVとSDVの競争は、もはや「どの半導体を搭載するか」だけではない。どのSoCを中核に据え、どのパワー半導体で支え、どのソフト基盤で更新し続けるか。その全体設計を誰が握るかに競争軸が移りつつある。CES 2026でのクアルコムとGoogleの協業拡大、デンソーとロームを巡る資本を含む戦略検討、フォルクスワーゲングループ中国やリヴィアンの自社設計シリコン強化は、その方向を示す材料である。

車載半導体メーカー、パワーデバイス営業、ADAS/SDVの事業企画、材料・装置メーカーにとって重要なのは、単品提案から抜け出し、機能安全、OTA、長期供給、検証容易性まで束ねた提案へ進めるかどうかである。自動車が半導体を握りにいく局面では、半導体側にもまた、デバイス単体ではなく、運用可能なアーキテクチャで応える姿勢が求められている。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。

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