世界のパワー半導体市場はどこへ向かう?2025年以降の成長予測と競争環境

市場動向
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パワー半導体市場の急拡大、その背景とは?

パワー半導体市場は、EV(電気自動車)、再生可能エネルギー、産業オートメーションの成長とともに急速に拡大している。特にSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代パワー半導体の需要が急増し、従来のシリコン(Si)デバイスからのシフトが進んでいる。この技術転換の背景には、電力変換効率の向上や熱管理の高度化が求められるという市場ニーズの変化がある。2025年以降、パワー半導体市場はどのように成長し、どの企業が競争をリードするのか。本記事では、業界の深層構造に踏み込みながら、技術的なブレークスルーと市場動向を分析する。

成長のカギを握る技術と市場動向

1.2025年以降の市場規模と成長率予測

市場調査会社のYole Groupによると、パワー半導体市場は2025年に約500億ドル(約7兆5000億円)規模に達し、2030年には800億ドル(約12兆円)を超えると予測されている[1]。特に、EV向けパワー半導体は年平均成長率(CAGR)30%超で拡大しており、シリコンカーバイド(SiC)デバイスがその成長をけん引している。

この成長の背後には、EVメーカー各社のパワーエレクトロニクス統合戦略がある。例えば、テスラはSiCデバイスの使用量を最適化しつつも、従来Siデバイスとのバランスを取ることでコスト削減を図っている。これに対し、トヨタはSiCのさらなる活用を進め、EVと水素燃料電池車の両輪戦略を強化している。

2. SiCとGaNの台頭、シリコン(Si)との競争

現在、SiCとGaNが従来のSiベースのパワー半導体に取って代わりつつある。特にSiCは、EVのパワートレインや充電インフラでの採用が進んでいる。**テスラ(Tesla)**は既にSiCパワーデバイスを車載インバータに採用し、**STマイクロエレクトロニクス(STMicroelectronics)オン・セミコンダクター(onsemi)**などのサプライヤーとの連携を強化している。

一方、GaNは高周波特性高速スイッチングを活かし、データセンターや通信基地局向け電源に採用が進む。Navitas SemiconductorPower Integrationsといった新興企業がGaN市場を牽引しており、2025年以降、さらなる普及が期待される。特に、AIサーバー向けの超高効率電源の需要が増加し、GaNの活用範囲が広がると予測される。

3. 主要企業の競争環境

(1) STMicroelectronics(ST)

  • SiCデバイスのリーダーとして、SiCウエハーの自社製造能力を強化。
  • BoschInfineonといった欧州自動車メーカーと提携。

(2) Infineon Technologies

  • 世界最大のパワー半導体メーカー。
  • SiC・GaN両分野に積極投資し、EV市場向けの統合型パワーモジュールを開発。
  • 2024年には、次世代インテグレーテッドパワーモジュール(IPM)技術を投入予定。

(3) onsemi(オン・セミコンダクター)

  • SiC市場に本格参入し、2023年にはGT Advanced Technologiesを買収。
  • EV市場向けにSiCウエハーの供給体制を強化。
  • 独自のSiCエピタキシャル技術により、低コスト化を実現。

(4) Wolfspeed(旧Cree)

  • SiCウエハー生産の世界最大手
  • 2024年には、世界最大規模のSiC生産施設を建設予定
  • 米国政府からの補助金を活用し、製造プロセスの自動化を推進。

4. 地政学リスクとサプライチェーンの分断

パワー半導体の原材料であるSiCウエハーやGaNエピタキシャル成長材料の供給は、中国、米国、欧州、日本の4極で競争が激化している。特に、中国政府は国家的支援を背景に中国企業(BYD Semiconductor、San’an Optoelectronicsなど)のSiC技術開発を加速。米国は対中輸出規制を強化し、Wolfspeedやonsemiなどの米国企業を支援する動きを見せている。

さらに、日本のローム(ROHM)や三菱電機は、独自のSiCパワーモジュール技術を確立し、日系自動車メーカーとの強固な関係を活かして市場競争力を高めている。

2025年以降のパワー半導体市場をどう捉えるべきか?

パワー半導体市場は、EV、自動運転、データセンター、再生可能エネルギーの成長とともに新たな成長フェーズへ突入している。特に、SiCとGaNの普及は今後5年間で加速し、従来のシリコンデバイスの市場構造を変える可能性が高い。各企業は技術開発、製造能力の拡張、サプライチェーンの確保を進めながら、次世代のパワー半導体市場で覇権を争うことになる。

読者がこの市場の動向を先読みし、戦略的な意思決定を行うことができるよう、本メディアでは引き続き最新情報を発信していく。

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