Tataが拓くインド半導体エコシステムの本当の姿

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インドの半導体戦略が「点」から「面」へと広がっている。2025年は、インドのグジャラート州にあるグリーンフィールドスマートシティ「Dholera」の前工程計画(Tata×PSMC)、インドの工業都市「Sanand」とインドの半導体産業における重要な拠点となることを目指すUttar Pradesh州で進むOSAT/ATMP、電力制度のVPPA提案、そして再エネの伸長が同時並行で進展した年だった。

設計・製造・電力・人材が個別に並ぶのではなく、政策と投資の同期で“連動”し始めた結果、参入機会の地図が描き換わっている。本稿はこの1年の公式発表と大手国際報道を踏まえ、海外企業にとっての本当の参入機会を模索する。

前工程:Tataが進める「Dholera」のファウンドリ構想

Tata Electronicsが進める「Dholera」のファウンドリ構想は、300mm/28–110nmという成熟ノード帯が柱だ。対象は車載・産業・通信・コンピューティングなど量産近傍の用途が中心で、最先端微細化の性能全振りではなく、需要の厚みと立上げの確度を優先する。

特徴は、工場単体の計画にとどまらず、工業都市の枠組みの中で道路・配電・工業用水・物流導線を先置きする点にある。ユーティリティが外部要因で遅れたり、突発の系統トラブルで立上げスケジュールが崩れたりするリスクを、都市計画の段階から縮減していく設計だ。

2025年3月5日にはTata×PSMC×Himaxの3者連合が発表され、ディスプレイドライバ(DDI)や超低消費AIセンシングなど、設計—製造—実装の連動を前提とするテーマが可視化された。成熟ノードでも機能価値が立つアプリケーションを押さえ、前工程側が“どの量産に接続するのか”を初期から示す格好である。

海外サプライヤにとっては、前工程に紐づく薬液・特殊ガス・超純水(UPW)・FMCS(施設監視)や、薬液搬送・廃液処理・ケミカルリスク管理といった必須ユーティリティの商談が、計画段階から具体化しやすい。

後工程:Sanand/Uttar Pradeshが量産の受け皿を前倒しで構築

需給の目詰まりが顕在化しやすいのは、現在では後工程(OSAT/ATMP)だ。Uttar PradeshではHCL×Foxconnの半導体ユニットが政府承認を受け、月産2万ウエハ相当/DDI 3,600万個・2027年商業稼働の計画が示された。DDIはスマートフォンから車載まで裾野が広く、装置回転が良く、歩留まり学習の効果も出やすい。最初の量(ボリューム)を着実につくるには理にかなった製品選定といえる。

Sanand(Gujarat)ではCG Semi(Murugappaグループ)が段階投資(G1/G2)でエンドツーエンドのOSATを掲げ、5年で7,600億ルピー規模のコミットメントとピーク能力を企業公式で打ち出した。組立・封止に加え、検査・バーンイン・信頼性評価までの動線を内包する姿は、歩留まりカーブを押し上げる“品質の地力”を国内で育てる狙いが色濃い。

テストハンドラ、ソケット/治具、画像検査、故障解析(FA)ツール、自動化ソフトなど、不良低減とタクト短縮に効く領域で海外企業の貢献余地は大きい。

MicronのATMPについては、直近1年の許可ソースで定量の裏付けが限定的なため、本稿では「クラスタの一角として進展」にとどめる。ただ、Sanand—Uttar Pradeshの“二極”が見せるのは、試作→テスト→量産のボトルネックを国内で吸収し、キャッシュ化を前倒しするための工程順序だ。設計支援、材料、後工程装置、品質保証まで、複数の歯車が同じ方向に回り始めている。

設計エコシステム:“量産に直結する設計”が主戦場へ

エコシステムについての政府の設計支援(DLI等)は、続いている監視・計測・ネットワーク・モータ制御のような量産間近のIP/SoCが目立ちつつある。3者連合(Tata×PSMC×Himax)が象徴するのは、設計→試作(MPW)→OSAT(後工程に特化企業)→量産という流れを国内に引くことだ。

設計企業にとっては、OSATへ依頼することを前提にした開発提案が求められるだろう。たとえば、DDIの評価で求められる高温動作・長期信頼性の要件を設計段階から見越し、テストベンチ・バーンイン条件・加速試験プロファイルをOSATと共通言語化する。これにより、試験仕様の解釈差による手戻りが減り、サンプル—ES—MPの移行で無駄が出にくくなるからだ。

電力:VPPA提案と再エネ伸長で「PPA×蓄電」の運用が主役に

2025年6月17日、規制当局は再生可能エネルギーの「環境価値」のみを取引する契約であるVPPA(Virtual PPA)の導入を提案した。これで、差金清算(CFD型)を用いて、物理的には系統から一般電力を受けつつ、再エネの価値(環境属性)を価格差の清算で取得できるようになった。拠点と電源の地理・系統制約が一致しないケースでも、契約で供給を束ね、脱炭素とコストの目標を同時に追えるのが利点だ。

再エネの能力も底上げが続いている。2025年上期の再エネ出力は前年比24.4%増、6月の非水力再エネ比率は17%超に達したと報じられ、7月には非化石電源の設備比率が50%に達したと伝えられた。

前・後工程の立上げタイミングと長期PPA(15–25年)、蓄電(BESS)の導入を同期させれば、電力コストの平準化とScope2削減を両立できる。瞬停や電圧降下といった不慮の出来事で装置が誤停止すれば、初期歩留まりに悪影響を及ぼしてしまう。UPS、系統側の無停電切り替え、負荷平準化の制御も含め、“契約×設備”のハイブリッドで電力を製造KPIの管理対象に組み込む発想が必要となる。

海外プレイヤは、電力データ解析・最適調達・蓄電アグリゲーション・DR連携といった専門分野に参入する余地があると言える。半導体工場の電力は固定費ではなく、TAT・稼働率・歩留まりに直接影響する“生産資源”であり、PPAのポートフォリオ設計が設備投資計画と同列で論じられる段階に入ったのである。

人材:大学・企業・公的機関による人材育成が着実に前進

大学・企業・公的機関による人材育成は、分散発信ながら着実に前進している。現場で求められるのは、OSAT/テスト、パッケージング、品質保証、EHS(薬液・ガス・高電圧安全)、設備保全といった稼働直結スキルだ。座学(安全・基礎理論)→シミュレーション(装置・ラインのデジタル模擬)→OJT(実機での手順習得)を階層化し、評価→改善→再評価の短サイクルを回す。テスト仕様・治具・自動化ソフトの標準化が進めば、教育の覚えやすさと現場定着が一体となり、立上げ初期の品質・歩留まりの“山なり曲線”を低く抑えられる。

また、人材の“受け皿”設計も無視できない。地方拠点での住環境・通勤導線・多言語医療・通訳支援の整備は、初期離職の抑止とTAT短縮に直結する。採用広報や人件費の単価だけでなく、定着率・教育TAT・現場の多能工化率まで含めて投資評価する視点が広がっている。

設計と後工程が先導、前工程は都市計画で追随

インド半導体は、Sanand/Uttar Pradeshの後工程が先に量産の受け皿を作り、DDIのように需要の厚い成熟領域で装置を回し始めた。Tata Electronicsが進める「Dholera」の前工程は、成熟ノード×ユーティリティ同梱で、立上げの確度を高める。VPPA提案+再エネ伸長により、長期PPA×蓄電の“契約×設備”ハイブリッドが、コスト平準化とScope2削減の両面で実効性を帯びた。

人材面では、稼働直結スキルに先行投資し、標準化された治具・テスト仕様・自動化でRamp-Upの再現性を上げるアプローチが主流になりつつある。海外企業の参入余地は次の4つと思われる。①検査・信頼性・テスト自動化、②設計IP/EDAとOSAT接続を前提にした“量産落とし”支援、③ユーティリティ(UPW・ガス・薬液)安全供給とFMCS、④長期PPA設計×蓄電アグリゲーション×瞬停対策。

ポイントは、制度・電力・人材・立地を単発ではなく連動で設計することだ。インドが目指すのは、輸入依存からの段階的な自立であり、どの工程を現地化し、どこを国際分業に残すかの線引きが、参入の速度と収益性を決めるのだ。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク

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