結論:生成AIサイクルの恩恵を「出荷→検収→売上」の全段階で確認できる、質の高い増収増益である。売上高は1,143億円(前年同期比27.1%増)、営業利益は490億円(同42.2%増、営業利益率42.9%)、純利益は342億円(同44.0%増)。自社が4月に開示した第1四半期予想に対しても売上高で7.7%、営業利益で16.7%の上振れとなった。会社の説明では、上振れの理由は「機械製品の検収が想定より進捗した」こと——ディスコは装置売上を検収時に計上するため、出荷済み装置の立ち上がりが早まった分だけ売上が前倒しされた形だ。
先行指標はさらに強い。出荷額は1,359億円と過去最高を更新し(前年同期比22.3%増)、貸借対照表では契約負債(前受金)が前期末比45.9%増の730億円へ急増した。売上より先に動く出荷と前受けの両方が伸びており、需要の実勢が損益計算書の数字を上回っていることを示す。
「1四半期先まで」しか業績予想を開示しない同社が今回初めて示した中間期(4-9月)予想は、売上高2,428億円(前年中間比24.8%増)・営業利益1,049億円(同33.0%増)。業績連動の配当政策(連結半期純利益の25%)を機械的に適用した中間配当予想171円(前年中間比32.6%増)も同時に開示した。生成AI向けIC需要の持続に加え、ダイサではパワー半導体向けの増加にも言及があり、需要の裾野の広がりが確認できる四半期でもある。

億円表示は百万円開示の換算。本四半期決算短信は公認会計士等によるレビュー前。
1. 業績の変遷——「出荷」と「検収」の時間差を読む
ディスコの決算を読む第一歩は、同社固有のKPIである「出荷額」と会計上の「売上高」の関係を押さえることだ。同社は精密加工装置(ダイサ=切断、グラインダ=研削)の売上を顧客での検収完了時に計上する。装置は出荷から検収まで時間差があるため、出荷額が需要の実勢を示す先行指標となり、売上高はそれを追いかける遅行指標となる。当四半期はその両方が強かった。出荷額1,359億円は過去最高であり、売上高1,143億円は「検収が想定より進捗した」ことで自社予想を上振れた。

出典:決算短信・補足資料・差異に関するお知らせより作成。
前年同期出荷額は開示増減率(+22.3%)からの逆算値、2Q値は上期予想から1Q実績を差し引いた編集部算出値。
前四半期(2026年3月期4Q、売上1,331億円)との比較では14.1%の減収だが、これは期末に検収が集中する装置ビジネスの季節性の範囲であり、前年同期比では売上・利益とも大幅な増加である。増収の中身について会社は、高性能半導体向け高付加価値製品を中心とする装置出荷の好調と、顧客の設備稼働率に連動する消耗品(精密加工ツール)の高水準の出荷を挙げる。装置(フロー)と消耗品(ストック)の両輪が回っている状態だ。
収益性はさらに際立つ。売上総利益率(GP率)は71.3%と前年同期から3.2ポイント、前四半期からも0.4ポイント上昇した。会社の説明では為替の影響と高付加価値製品等によるもので、人件費・研究開発費を中心とする販管費の21.4%増(325億円)を吸収して営業利益率42.9%を確保した。装置メーカーとして例外的なこの利益率水準が、生成AI向けの高付加価値ミックスでさらに切り上がっている。

出典:補足資料「四半期決算 概要」より作成。
営業利益率は開示数値から算出(FY25 1Q:38.3%、FY25 4Q:44.2%)。
2. 会社計画と進捗の読み解き——「1四半期先開示」という様式と、初の中間計画
ディスコの業績予想は独特だ。「半導体・電子部品業界において顧客の投資意欲が短期間で激しく変動することから需要予測が困難」という理由で、開示は「1四半期先まで」に限定している。通期予想は存在せず、四半期ごとに次の四半期(または半期)を示す方式である。この様式を理解しないと、進捗率や上方・下方修正の議論がかみ合わない。
まず4月22日公表の第1四半期予想との差異。売上高は予想1,061億円に対し実績1,143億円(+7.7%)、営業利益は420億円に対し490億円(+16.7%)、純利益は295億円に対し342億円(+16.0%)だった。理由は前述のとおり検収の進捗である。増収率を上回る増益率の上振れは、GP率の高い機械製品の検収が想定超だったことと整合する。

出典:「2027年3月期第1四半期業績予想値と実績値との差異ならびに
第2四半期業績予想および配当予想に関するお知らせ」(2026年7月23日)より作成。
そして今回、これまで未開示だった中間期(4-9月)予想を初開示した。連結で売上高2,428億円(前年中間比24.8%増)、営業利益1,049億円(同33.0%増)、経常利益1,048億円、中間純利益738億円(同32.0%増)、EPS 680.39円。第1四半期実績を差し引くと、第2四半期単独では売上約1,285億円(第1四半期比12.4%増)、営業利益約559億円(営業利益率43.5%)を織り込む計算になり、利益率は一段の改善を想定している。上期の出荷額は2,769億円の予想で、差引の第2四半期出荷額は約1,410億円と過去最高の更新を見込む水準だ。想定為替は7-9月期で1米ドル159円である。

出典:差異に関するお知らせ・決算短信より作成。進捗率・第2四半期差引値は編集部算出。
3. KPI・先行指標——契約負債+45.9%、完成品在庫+22.5%が語る需要の実勢
貸借対照表は損益計算書より雄弁である。契約負債(装置の引き渡し前に顧客から受け取った前受金)は前期末の500億円から730億円へ、3カ月で229億円(45.9%)増加した。装置の受注・据付が売上計上に先行して積み上がっている状態であり、中間計画の強気を裏づける最も直接的な物証といえる。棚卸資産も1,413億円から1,530億円へ8.2%増加し、内訳では「商品及び製品」が390億円から478億円へ22.5%増と最も伸びた。検収待ち・出荷準備段階の完成品が積み上がる構図は、出荷額と売上高の時間差というディスコのビジネスモデルそのものを映している。

出典:決算短信(四半期連結貸借対照表)より作成。
棚卸資産は商品及び製品・仕掛品・原材料及び貯蔵品の合計。
用途別のコメントも需要の質を伝える。精密加工装置の出荷額は、前四半期比・前年同期比とも生成AI向けを中心にIC向けが増加。ダイサでは「ICおよびその他半導体(主にパワー半導体)向けが増加」、グラインダでは「生成AI向けの需要が継続し、IC向けが高水準維持」とされた。生成AI(HBM・先端ロジック)一本足ではなく、パワー半導体向けの増加に言及がある点は、需要の裾野を測るうえで注目に値する。海外売上高比率は90.8%と、需要の地理的な広がりも維持されている。
4. 財政状態——自己資本比率77.3%、現金2,839億円の要塞型バランスシート
第1四半期末の総資産は7,511億円と前期末比77億円増加した。主因は棚卸資産を中心とする流動資産の増加である。負債は1,686億円へ133億円増加したが、その中身は契約負債(+229億円)と電子記録債務(+36億円)の増加であり、未払法人税等(△85億円)と賞与引当金(△110億円)の季節的な支払いを吸収している。前受金という「良い負債」が負債増加の主役である点は、装置業界の好況局面に共通する形だ。
純資産は5,825億円と前期末から56億円減少したが、これは前期末配当(1株376円、総額約408億円)の支払いが四半期純利益342億円を上回ったことによる一時的なもので、自己資本比率は77.3%(前期末比1.6ポイント低下)と引き続き極めて高い。現金及び預金は2,839億円。有利子負債は実質的に見当たらず、手元流動性と自己資本に厚みを持つ「要塞型」の財務基盤が、需要急変時の耐久力と株主還元の原資を同時に支えている。なお四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成を省略している(第1四半期の任意開示事項)。
5. トピックス——配当171円の「機械的な」算出根拠と、役員インセンティブ

出典:「差異ならびに第2四半期業績予想および配当予想に関するお知らせ」より作成。
中間配当予想171円は、裁量的な増配ではなく配当政策の適用結果である。ディスコの配当政策は業績連動型で「連結半期純利益の25%」(利益水準にかかわらず安定配当として半期10円は維持)。中間純利益予想738億円の25%を期中平均株式数で割ると約170円となり、予想171円はこの政策と整合する。前年中間129円からの32.6%増は、中間純利益の32.0%増をほぼそのまま反映した数字だ。期末配当は現時点で未定だが、政策上、年度末に配当・法人税等支払い後の現預金残高が予定必要資金額を超過した場合、超過額の3分の1を目処に上乗せする条項があり、前期の期末376円にはこの上乗せが含まれていた経緯がある。業績と配当が四半期ごとに機械的に連動する設計は、業績予想の修正がそのまま配当予想の変化につながることを意味する。
同日開示の関連事項
役員インセンティブとして、①執行役6名に対する譲渡制限付株式報酬(RS)3,000株の新株発行(発行価額68,590円、総額約2.06億円、払込期日2026年8月7日)、②執行役6名に対するストックオプション(新株予約権36個・3,600株)の募集を決議。RSは2024年に株式報酬型ストックオプション制度から移行した長期インセンティブ制度に基づくもので、株主との価値共有を目的とする。
6. 中期方針——「予想しない」ことを制度化した経営
本決算資料に中期経営計画の数値目標は存在しない。通期予想すら開示しない「1四半期先まで」の方式は、需要予測が困難な業界特性への対応として同社が制度化したものであり、その代わりに①出荷額という先行KPIの毎四半期開示、②業績連動型配当政策(半期純利益の25%+期末上乗せ条項)という機械的な還元ルール、③自己資本比率77%・現金2,839億円の耐久力ある財務——という「予想に頼らない経営の枠組み」を提示している。投資家にとっては、会社の見通しを信じるのではなく、出荷額・契約負債・GP率という開示された先行指標を自ら追跡することが、この銘柄との正しい付き合い方ということになる。
7. 市場環境——生成AIのデータセンタ投資が牽引、HBM・先端ロジック高水準
会社の環境認識は明快だ。生成AIの需要拡大を背景にデータセンタ向け投資が継続し、先端ロジックやHBM(High Bandwidth Memory:高帯域幅メモリ)などの高性能半導体向け需要が高水準で推移した——。ダイサ・グラインダはHBMの薄化・積層やチップの個片化など後工程の中核工程を担うため、HBM増産と先端パッケージング投資の恩恵を直接受ける位置にある。加えて当四半期はダイサでパワー半導体向けの増加にも言及があり、AI以外の需要回復の兆しも読み取れる。一方で会社自身が「顧客の投資意欲が短期間で激しく変動する」と明記する業界であり、足元の好調と将来の不確実性を分けて扱う姿勢は、開示様式そのものに織り込まれている。
8. 今後のチェックポイント
- 第2四半期の出荷額(計画差引約1,410億円)と検収ペース。過去最高更新を見込む水準であり、出荷→検収の転換速度が売上の上振れ・下振れを直接左右する。
- 契約負債730億円の消化と積み増し。前受金の残高推移は受注環境の最良の代理指標。次四半期に増勢が続くかどうかで、下期(未開示)の需要の強さを推し量れる。
- 需要の裾野——パワー半導体向けの持続性。生成AI(IC向け)に加えて言及されたパワー半導体向けの増加が一過性か、回復トレンドの起点か。
- GP率71%台の持続性。為替と高付加価値ミックスに支えられた収益性が、製品ミックスの変化や為替変動(想定1米ドル159円)でどう動くか。円高進行は下振れ要因となる。
- 販管費の増勢と利益率のバランス。人件費・研究開発費の増加(+21.4%)が続く中、第2四半期計画の営業利益率43.5%を達成できるか。
- 期末配当の行方。中間171円に対し期末は未定。年度末の現預金超過額に応じた上乗せ条項の適用が、前期(期末376円)同様の厚い還元につながるかは年度末の資金状況次第となる。
9. 主要データ一覧

増減率は開示値。億円表示は百万円開示の換算(切捨てベース)。
前年同期の営業利益率・EPS増減率は編集部算出。
出典・免責
本記事は、以下の会社開示資料(いずれも2026年7月23日開示)に基づき作成した。
1. 株式会社ディスコ「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」
2. 同「2026年度 第1四半期 決算説明資料」(決算補足説明資料)
3. 同「2027年3月期第1四半期業績予想値と実績値との差異ならびに第2四半期業績予想および配当予想に関するお知らせ」
4. 同「譲渡制限付株式報酬としての新株式の発行に関するお知らせ」および「当社執行役に対するストックオプション(新株予約権)の募集事項に関するお知らせ」
5. 同 英文開示(Consolidated Financial Results/Differences between Financial Forecasts ほか)
6. 同梱の決算速報記事(半導体銘柄 決算速報ツール自動生成)※2025年3月期以前の通期実績の参照
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券の取得・売却等を勧誘するものではない。記載した業績予想・配当予想・市場環境の見通しはすべて会社公表資料に基づくものであり、その達成が約束されたものではなく、既知・未知のリスクや不確実性により実際の結果と大きく異なる可能性がある。本四半期決算短信は公認会計士等によるレビュー前のものである。投資に関する最終判断は、読者自身の責任において行っていただきたい。数値は原則として百万円単位の開示を億円に換算している。
-
求人
後工程プロセス開発 この分野に関連する最新の求人情報はこちら›
-
求人
設備エンジニア この分野に関連する最新の求人情報はこちら›
-
求人
メモリデバイス この分野に関連する最新の求人情報はこちら›