#04【竹内健】「何をやるか」より「誰とやるか」。激動の半導体業界をサバイブするキャリア論

SEMICON IS MY LIFE
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Portrait of a man in a pale shirt speaking, with the slide title 'Silicon is my life' and Japanese subtitle on the right — #04

世界を動かす半導体産業。その最前線を牽引してきたトップランナーたちは、どんな選択と決断を重ねてきたのか。知られざる半生に迫る連載企画、「Silicon is my life」。

今回話を聞いたのは、東芝でNANDフラッシュメモリの研究開発に従事し、世界初の64Mビットから16Gビットに至るNANDフラッシュメモリの商品化に成功した竹内健氏だ。スタンフォード大学でMBAを取得後、東京大学准教授、中央大学教授を経て、現在は東京大学大学院工学系研究科教授として「Computation in Memory(CiM)」の研究を牽引している。 産業界の最前線で半導体の革新に挑んだのち、アカデミアへ転身。常に自分が変化できる場所を求め、技術とビジネス、そしてアカデミアの世界を越境してきた竹内氏のキャリアヒストリーに迫る。(全4回)

(プロフィール)
東京大学大学院工学系研究科 教授
竹内健
1993年、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了後、株式会社東芝入社。NANDフラッシュメモリの研究開発に従事し、世界初の64Mビット〜16Gビットに至るNANDフラッシュメモリの商品化に成功。マルチレベルセル技術の基礎を築き、現在もすべてのNANDフラッシュ製品に採用されている。2003年スタンフォード大学経営大学院修了(MBA)。2007年東京大学大学院工学系研究科准教授、中央大学理工学部教授を経て、現職。脳型データセントリックコンピューティングおよびComputation in Memory(CiM)の研究を牽引する。著書に『世界で勝負する仕事術』(幻冬舎新書)など。

◾️TSMC、Rapidus、そして「優秀で安い」日本人

最近の半導体業界を語る上で、TSMCの熊本誘致やラピダスの設立は欠かせないトピックです。世間はこれらをひとくくりに「日本半導体の復活」と持て囃していますが、両者の置かれた状況や事情はまったく異なります。

たとえばTSMCの誘致は、日本にとって非常にラッキーなケースでした。現在、TSMCはリスク分散のために欧米などへも拠点を広げていますが、その中で日本の工場が一番うまく立ち上がっていると聞きます。

理由はおそらく日本人が「優秀だから」でしょう。円安の影響もあり、今や人件費は中国以下。真面目に働き、文句も言わずに高品質な仕事をする。

「安い」と言われることに複雑な思いを抱くかもしれませんが、ビジネスの世界でそう評価されて選ばれた事実は、率直に日本の強みになっています。

一方で、キオクシアやソニー、そしてゼロから最先端を目指すラピダスなど、国内企業が直面するハードルはそれぞれ全く別物です。業界全体の課題を一括りにはできませんが、唯一、どの企業にも共通する宿命があります。それが「シリコンサイクル」※1と呼ばれる景気の波です。

※1 シリコンサイクル:半導体産業が数年周期で好況と不況を繰り返す現象。需要予測と設備投資のタイミングのズレによって、供給過剰・供給不足が交互に発生することから生じる。半導体メーカーの経営にとって最大級の構造リスクとされる。

「今回はもうシリコンサイクルは来ない」と強気な声が出る時ほど、たいてい直後にドンと大きな不況の谷がやってきます。今がどれだけ好調でも、いずれ必ず訪れる谷を耐え抜く「体力」を組織としていかに持っておくか。それが常に問われているのです。

◾️AIに設計が代替される時代。「もの(物理)」に近い領域こそが生きる道

そんな激動の業界で、次世代のエンジニアはどう生き残るべきか。

避けて通れないのが「AIによる仕事の自動化」です。現在、半導体設計は膨大な人手を要する労働集約型ですが、自動化の波も猛烈な勢いで押し寄せています。国際学会のISSCC ※2 でも、AIが設計したチップの性能が人間に追いついたという発表が普通に出る時代になりました。

※2 ISSCC(International Solid-State Circuits Conference):半導体集積回路の分野で世界最高峰とされる国際学会。「半導体のオリンピック」とも呼ばれ、毎年2月にサンフランシスコで開催される。採択論文は厳しい審査を経て選ばれ、各社・各大学の最新成果が一堂に会する場となっている。

設計が自動化されきった後、エンジニアには何が残るのか。そこで僕が一つの解として注目しているのが、「もの(物理)に近い領域の方が生き残る」という考え方です。

Person soldering a circuit board at a wooden workbench, using a soldering iron and small tools under focused light

データ上の設計図はAIによる再現が容易ですが、実際の製造プロセスや現場は違います。わずかな揺れや環境変化で歩留まりが変わるため、熟練エンジニアによる物理空間での調整が今も不可欠です。だからこそ僕自身も、データ上の設計で完結させず、物理的な動きや実時間サービスにまで踏み込んだ研究へとシフトしています。

未来を正確に予測することなど誰にもできません。生き残るためには、「自分自身が変わり続ける」しかないのです。

企業というものは、外から見ている以上に「したたか」です。「JTC(伝統的な日本企業)」と揶揄されながらも、彼らは「この工場は閉じます」「明日からこの部署は廃止します」とドラスティックな判断を下して生き残ってきました。

個人も、その「会社のしたたかさ」に負けないスピードで自分をアップデートし続けなければなりません。過去の専門分野に固執せず、環境の変化に合わせて変わり続けること。これは企業でも大学でも変わらない「生き残りの原理」なのです。

◾️流行は数年で真逆になる。でもそれでいい

よく学生へのアドバイスを求められますが、僕が何を言っても最初はあまり響かないだろうと思っています(笑)。世の中の流行は、驚くほどあっという間に変わるからです。

僕が東大に来た2020年当時、半導体分野は人気が低迷しており、研究室のホームページから半導体の文字を消してAIの文脈を前面に打ち出したほどでした。親御さんから学生の将来を心配されていた数年前から、今ではすっかり真逆の風景になっています。

これだけ簡単に流行が変わる中で、波に流されないようにと伝えても、人はやはり時代の波に乗って動いていくものです。でも、それでいいんです。自分で選んで波に乗り、失敗してみないと分からないことの方が多いですから。

実際、うちの研究室でAIばかり研究していたにもかかわらず、「AIは陳腐化が早い。半導体の回路設計の方がノウハウの塊で差別化できる」と半導体メーカーへ就職した学生もいました。学生は学生なりに、ちゃんと自分の頭で考えているのです。このように学生から学ぶことも多いです。

ですから、僕のアドバイスが本当に届くのは、自分で壁にぶつかってモヤモヤしている人に対してでしょう。自分で痛い目を見て初めて、行き詰まった時にたとえばMBAといった別の選択肢が響くようになります。

僕が10年以上前に出した『世界で勝負する仕事術』(幻冬舎新書)がいまだに若手エンジニアに読まれているのも、彼らがキャリアの「モヤモヤ期」にいるからでしょう。東芝から東大へ移った直後、お金も設備もない中で、アイデアとパワポだけを武器に泥臭く研究費を集めて回った。そんな格好悪いエピソードが彼らの琴線に触れると聞いた時は、書いてよかったと思いました。

◾️「何をやるか」より「誰とやるか」。信頼できる仲間と共に、新しい領域へ変わり続ける

これからキャリアを歩み始める若い人にどうしてもアドバイスをするなら、「自分が鍛えられる場所に行くのがよい。ただし、業種の流行は読めないから、最後は人で決めるのがよい」と伝えます。

僕自身、東芝という看板ではなく、舛岡先生という人を見て入社を決めました。仕事の内容以上に、この人と一緒ならやれそうだという直感は、案外バカにできません。

年を重ねるほど、仕事において結局一番大事なのは信頼できる仲間なのだと痛感します。苦しい時期を共にし、逃げ出さずに約束を守ってくれた人たち。

そうやって少しずつ広げてきた「のりしろ」のような人の輪が、今の自分を支えてくれているのです。未来は誰にも予測できません。

しかし、計算の基礎である半導体がなくなることはなく、プレイヤーが入れ替わっても技術の進化は決して止まりません。

だからこそ僕は、これからもメモリの専門家としての軸足を残しつつ、新しい領域へと自ら変わり続けていきます。それが、たまたま半導体という面白い世界に出会えた僕にできる、せめてもの恩返しだと思っています。

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取材:榎並⼤輔、君和田 郁弥(balubo)
執筆・編集:君和田 郁弥(balubo)
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