欧州初のTSMC主導ファブが加速――ESMC、2027年稼働へ向け建設フェーズ本格化

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2025年9月15日、ドイツ・サクソニー州の州当局(Landesdirektion Sachsen:LDS)は、ドイツのエベル川谷間のドレスデン北部で建設が進むESMC(European Semiconductor Manufacturing Company)の新工場について高層建屋の第1次「部分許可(Teilgenehmigung)」を発表した(公表は9月18日)。

この決定により、製造棟とエネルギー供給棟を含む主建屋および複数の付帯建屋の建設が正式に認められ、外装躯体(シェル)形成に向けた本格工事が可能となった。ESMCはTSMCが70%を出資し、Bosch・Infineon・NXPが各10%を出すジョイントベンチャー(JV)。生産開始目標は2027年で、主に自動車・産業向けの成熟ノードを製造する。

本稿は、今回の「部分許可」発表の意味するところを、①段階許認可の実務、②建築工程のマイルストーン、③稼働ターゲット(技術・能力・雇用)、④クラスター効果から読み解き、次のシナリオを考察する。

屋内ユーティリティ据付・試運転へ早期橋渡し

欧州のギガ・プロジェクトでは、環境・安全審査の全体計画を担保したうえで、工事を段階的に承認する運用が一般化している。今回のESMCもその典型で、LDSが高層建屋に関する第1次部分許可を出したことで、製造棟・エネルギー供給棟・付帯建屋の着工が一気に進む。そのメリットは次のとおり。

•(1)基礎・地中インフラ→(2)高層建屋シェル→(3)ユーティリティ一次側接続→(4)クリーンルーム内装→(5)装置搬入という“前倒し可能な順路”を確保でき、全体許可の完了待ちによる季節・工期のボトルネックを回避しやすい。半導体製造棟では深基礎・防振・沈下対策がクリティカルパス化しやすいが、「シェル先行/ユーティリティ後追い」で工程を重畳できれば、2027年立ち上げに向けた時間的バッファを稼ぐことができる。

LDSは今回、主建屋(製造・エネルギー供給)と付帯建屋を含めた範囲での高層建屋許可を明示している。これは2026年の屋根・外装完了(外装封止)に照準を合わせ、以降の屋内ユーティリティ据付・試運転へ早期に橋渡しする「レール敷き」に当たる。一次側(電力・用水・ガス)の系統増強および冗長化の承認を段階的に積み上げることで、内装(クリーンルーム)の品質安定に必要な条件を安全側に寄せながら整えていく設計だ。

2026年の屋根・外装完了を目指す

ESMCは2024年の起工後、地業・地中配管・基礎を進め、2025年は躯体の立ち上げフェーズに入った。今回の部分許可により、シェルの連続施工が可能になり、2026年の屋根・外装完了を目指す。そこから先は、半導体特有の綿密な工程だ。

• 内装:クリーンルーム、ツールピット、足場・架台の構築
• プロセス・ユーティリティ(PU):超純水、プロセスガス、ケミカル、排気・スクラバーの据付とパージ/リークチェック
• 装置フェーズ:ムーブイン(搬入)→フックアップ(配管・配線接続)→IQ/OQ(据付適格性・運転適格性)
• ライン統合・初期ロット→歩留まり立ち上げ→顧客監査・信頼性評価

とりわけ車載向けは、PPAP(生産部品承認プロセス)や長期信頼性試験(HTOL/TC/HAST等)のハードルが高い。よって微振動・温湿度・薬液管理を含むハード側の安定化が立ち上げTATを規定する。ムーブイン開始の目安が2027年半ばという現地報道は、外装封止→PU→IQ/OQ→初期生産開始までのタイムラインが現実的に動き始めていることを示す。

TSMCの設計センター開設が「設計—製造—監査」の距離を縮める

ESMCは300mmの成熟ノードを核に、自動車・産業向けのアナログ/ミックスドシグナル/ロジックを供給するいわゆる“オープン・ファウンドリ”だ。2027年の生産開始、約2,000人の直接雇用という定量は、州内報道で繰り返し伝えられている。

• 機能安全(ISO 26262)やAEC-Q系の認証は、プロセス安定性・長期供給・二重化(デュアルソース)の相性がよく、成熟ノードの信頼実績と欧州内サプライ近接がOEM/Tier1の在庫政策・BOM設計に効果的だ。
• E/Eアーキテクチャの集中化(ゾーン/ドメイン化)、xEV化の加速で、電源IC・センサ周辺・ミックスドシグナルSoCなどのローカル・デザイン×ローカル・ファブの価値は上昇する。

TSMCはミュンヘンに設計センターの開設を(2025年Q3予定)予定しており、「設計—製造—監査」の距離を縮める動きが並走することになる。設計と製造の地理的近接は、モデル年更新の応答性や監査・是正の往復時間を短縮し、結果として認証取得の確度を高めることになる。

TSMC×欧州の結合が前工程の装置・材料サプライヤにも直接波及

資本構成はTSMC70%/Bosch・Infineon・NXP各10%。運営面は、TSMCの製造オペレーティング・システム(MOS)を中核に、欧州勢が車載品質・顧客アクセス・サプライ連結を担う補完関係だ。

• TSMC:量産運転ノウハウ、EHS、トレーニング体系、建屋・ユーティリティ設計の最適化
• Bosch/Infineon/NXP:PPAPや監査スキーム、長期供給契約、ASIL-D対応など、車載品質文化の実装

この結合は前工程の装置・材料サプライヤにも直接波及する。化学・安全規制に沿った薬液・排気・スクラバー仕様は、設計初期(フロントローディング)での織り込みが不可欠だ。レジスト、スラリー、CMPパッド、特殊ガス、ウェットケミカルなどの材料系も、SDS・廃液処理・輸送規制の欧州基準に合わせた初期承認を前倒しで手配するほど、立ち上げ後の変更管理(MOC)を抑制しやすい。

“シリコン・サクソニー”の現場吸収力とは

ドレスデンの半導体クラスターは、メーカー・装置材料・大学・研究機関が折り重なる欧州有数の集積地である“シリコン・サクソニー(Silicon Saxony)”と呼ばれる。ここは、メーカー、装置・材料、大学、研究機関が集積し、施工・物流・人材・研究のエコシステムを形成する。現地報道では、屋根の完成目標が2026年、装置搬入開始が2027年半ばとされ、約2,000人の雇用や、最大30基規模のクレーン/約1,200人の施工体制/ほぼ24/7に近いオペレーションといった、巨大現場を“吸収”する地域能力も伝えられている。

こうした施工需給の吸収力は、工期の確度と安全・品質ガバナンスの両立に直結する。車載サプライチェーンの視点では、設計(ミュンヘン)—製造(ドレスデン)—認証(顧客監査)—物流(域内)の距離短縮が、リードタイムの予見可能性や是正の即応性を高める。成熟ノード×パワー/ミックスドシグナルの欧州内製化は、長期供給・機能安全・認証維持を重視する車載品質の価値観と合致し、アジア/北米とのポートフォリオ分散にも資する。

“欧州オープン・ファウンドリ”を定着させるシナリオへ

2025年9月15日の第1次部分許可(高層建屋)は、ESMCが2027年生産開始へ向け、建屋シェルの早期完成と内装・ユーティリティ・装置フェーズの前倒しを同時に成立させる時間的余裕をもたらした。段階許認可のもとで、基礎→躯体→外装→内装→ユーティリティ→ムーブイン→IQ/OQ(→必要に応じてPQ)→初期生産開始の一連を重畳させ、セキュリティ等の顧客監査に必要な信頼性リードタイムを確保しやすくなる。

ESMCはTSMC主導×欧州大手の品質文化という分業体制で、成熟ノード特化の“欧州オープン・ファウンドリ”を定着させるシナリオを固めつつある。焦点は2026年の外装封止(屋根・外装完了)と、2027年の装置搬入・初期の生産開始。ここを確実に通過できれば、車載サプライ近接×成熟ノードという欧州内需が、量と品質の両輪で回り始めるのだ。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
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