SEMICON.TODAY 特別インタビュー ── 半導体の挑戦者たち
半導体や電子部品が壊れたとき、その原因を突き止める――。1cm四方のチップに数百億個もの回路が詰め込まれた現代、たった一つの不良箇所を探し当てる仕事を、社内では「ミクロの世界の探偵」と呼ぶこともあるという。滋賀県大津市に本社を構える株式会社アイテスは、この故障解析・信頼性評価を中核に、検査装置、電子機器修理、ウェハー加工の4つの事業を営む技術者集団だ。従業員は約100名。その原点は、1993年、日本IBM野洲(やす)事業所の品質保証部門が独立したことにさかのぼる。第1回は、五十嵐靖行社長に、会社の成り立ちと、いくつもの淘汰を生き抜いてきた歴史を聞いた。
「大型コンピューターの巨人」が揺らいだ日
アイテスの歴史を語るには、母体となったIBMの転換点から始めなければならない。
「今のIBMは、AIやワトソンといった名前で知られるIT企業というイメージですが、もともとは大型コンピューターで大きな利益を上げた会社でした」と五十嵐社長は振り返る。1960年代から70年代にかけて、世界の銀行のバンキングシステムなどを支え、まさに向かうところ敵なしの成長を遂げた巨人。しかし1980年代後半、時代の潮目が変わる。
ワークステーションやパソコンが急速に高性能化し、「そこまで重たい大型コンピューターが本当に必要なのか」という問いが突きつけられた。いわゆるコンピューターのダウンサイジングの波である。この流れに乗り切れなくなったIBMは、全世界的な大改革に踏み切る。ナビスコ出身のルイス・ガースナー氏を経営トップに迎え、社内で「リエンジニアリング」と呼ばれた大規模なリストラに取り組んだ。それが、ちょうど1993年の少し前のことだった。
日本IBMにおいても、日立・富士通・IBMの3社が握っていた銀行のバンキングシステムなどが、同じダウンサイジングの波にさらされていた。生き残りをかけ、社内の各部門は「自分たちのやっていることを、社外に製品やサービスとして提供できないか」を模索することになる。
そこで打ち出されたのが、「外部にビジネスを展開できる部門は、独立せよ」という方針だった。全世界的に、外へ売り込める部門の独立が促され、日本IBMの中でも、頭に「アイ(I)」を冠した会社が次々と生まれていく。IBMの「I」を受け継いだ社名だ。アイテスもその一つだった。
野洲事業所は、もともと半導体・液晶・実装基盤の開発製造を担っていた拠点である。その中で、これらの製品群の品質を保証していた品質保証部門が分離・独立し、「アイテス」という社名で歩み始めた。今日まで続く故障解析・信頼性評価という中核事業は、まさにこの品質保証部門を源流としている。
顧客の9割がIBMだった時代と、幾多の淘汰
「いきなり独立しろと言われても、外のお客様がたくさんいるわけではありません」。独立当初のアイテスは、実質的にIBM向けのサービスで支えられていた。1990年から2000年ごろまで、顧客の実に9割以上をIBMが占めていたという。
当時のアイテスは、今の約100名という規模とは様相が異なっていた。品質保証部門だけでなく、電子回路の技術部門や、水回りなどのインフラを担う施設部門も抱え、最も人数が多い時期には200〜300名が在籍していたこともあった。いわば、性格の異なる事業が寄り集まった集団だったのである。
しかし、独立させたからといって、すべての事業が単独の会社として成り立つわけではない。野洲で生まれた独立会社の中には、姿を消したものもあった。サービスそのものには価値があっても、一社として続けるのは難しい――そう判断された事業は、社名を変えて他社に吸収されていく。アイテスが抱えていた電子回路や施設の部門も、結局は別の会社へと移っていった。
母体だったIBM野洲事業所自体も、大きく姿を変えていく。2000年を過ぎたころ、IBMコーポレーションは「日本では基本的にハードウェアを手掛けない」という方針を打ち出した。野洲にあった半導体部門はセイコーエプソンへ、その後オムロンを経て、現在はミネベアミツミの半導体子会社へと譲渡されている。野洲駅前にある8インチの半導体ラインは、いまもこの流れの先で稼働を続けている。液晶や実装基板の事業は京セラへ売却され、今日も京セラが引き継いでいる。
こうして、IBMとしての野洲の実態は2000年代に姿を消した。数々の部門が売却・移管される中で、品質保証部門を核とするアイテスは独立した会社として生き残り、現在の4事業体制へとたどり着く。「幸いにも、独立した会社としてやっていけるところに至ることができました」と五十嵐社長は語る。

新入社員も社長を「五十嵐さん」と呼ぶ ── 米国企業のDNA
いくつもの淘汰を乗り越えてきた同社だが、その社風には、母体がアメリカ企業だったことに由来する独特の色がある。
「もともとUSの企業だったので、わりとドライで、自由にものが言える。これは一つの特徴だと思います」
その象徴が、社員同士の呼び方だ。全従業員を「さん付け」で呼ぶ文化が根づいており、五十嵐社長自身も「社長」と呼ばれることはほとんどない。新入社員からも「五十嵐さん」と呼ばれる。「さん付けでやり取りすることで、あまり上下を意識せず、フランクに話ができる」近年でこそ同様の日本企業も増えてきたが、こうした文化が古くから根づいている点は、同社の土壌をよく物語っている。
一つの技術を、世の中にどう活かすか
アイテスは自らを「解決提案型企業」と位置づける。その価値観の根っこには、ある技術を核として、それを世の中にどう活かせるかを問い続ける姿勢がある。この考え方を体現するのが、同社の光学検査技術をめぐる、転用と再生の物語だ。
もともとアイテスには、IBM野洲時代から液晶パネルの検査装置を開発する小さな部隊(10名程度)があった。使い勝手のよい液晶検査装置が市場に乏しかったため、独自に開発したものだ。この事業は2000年代前半まで好調で、中国へ輸出したほか、東芝や松下系のディスプレイメーカーなど国内大手にも数多く納入し、実績を重ねた。
ところが、中国勢が同等の評価ができる装置を安価に投入しはじめると、事業は傾いていく。出荷済みの装置の修理や保守等の現地対応で中国出張が重なり、事業全体を押し下げていった。岐路に立った部隊の大半は離れていったが、一部のメンバーが残り、新たな事業に挑む。よりどころとしたのは「光学」という技術の核だった。
液晶検査はきっぱりと諦め、まず当時台頭しつつあった有機ELの検査装置を手掛けた。日本では有機ELパネルの大手メーカーが育たず(大型パネルを手掛けたのはソニーやサムスンなど)、需要そのものが限られていた。それでも関係者は考え抜き、ほぼ同じ技術を、次に伸びると見込まれた太陽電池の検査装置へと応用する。2008年ごろのことだ。
有機ELで培った検出原理の蓄積が効いた。国内の競合が作る装置に比べて一桁ほど安く、それでいて画像をきちんと捉える装置を実現できたのである。以降、国内の大手太陽電池パネルメーカーにはほぼ全て納入し、産業技術総合研究所(産総研)にも複数セットが導入された。ニッチな領域ながら、「知る人ぞ知る」存在として太陽電池業界に名を刻んだ。
もう一つ、同社の性格をよく表すのが、1999年に始めたウェハー加工(半導体評価用ウェハーの取り扱い)だ。半導体のラインは24時間365日、電源を落とせない。一度止めれば再立ち上げに費用がかかるため、いかに稼働率を上げるかが収益に直結する。アイテスは、生産ラインの合間を縫って行える短工程の成膜加工などを外部から取り込み、ラインの稼働率向上に貢献する橋渡し役を担った。IBM時代から半導体ラインとやり取りがあったからこそ捉えられたニーズだった。現在も引き合いは絶えず、取引先の加工ラインは海外も含めて10〜20ほど、シリコンだけでなく化合物半導体や6インチ、300mm(12インチ)まで扱う。担い手はわずか2名だ。
液晶検査から有機EL、太陽電池へ。あるいは半導体ラインの「隙間」を埋めるビジネスへ。異なる事業の背後には、一貫した思想が流れている。
「ある技術を核にして、世の中に活かせないかという目を持っている人がいるかどうか。あとは、思い切って踏ん張れるかどうかだと思います」
その目と粘りがあれば何とかなる。なければ消えていく――。寄せ集めから始まった事業群が、一つの独立企業として生き残ってきた理由が、この一言に凝縮されている。
「装置を買えば結果が出る」時代の、勝ち筋── 4事業の融合、SiCという新市場、そして九州へ
分析・解析・信頼性評価事業、太陽電池検査装置、電子機器修理、ウェハー加工――。もとをたどればバラバラだった4つの事業を、いかに一つの武器へと束ねるのか。第2回のテーマは、アイテスの「現在地」と「戦略」だ。SiC(炭化ケイ素)という新素材市場への挑戦、TSMC進出で沸く九州への進出、そして最新装置がそろえば誰でも解析できるかに見える時代に、それでも同社が選ばれ続ける理由。五十嵐靖行社長に、勝ち筋のありかを聞いた。
「寄せ集め」を、一つの武器に束ねる
アイテスが現在展開する事業は4つ。故障解析・信頼性評価、検査装置、電子機器修理、そしてウェハー加工である。だが、五十嵐社長はこれらを「もともとは寄せ集め」と率直に語る。すべてIBMのいずれかの部門から引き継いだ事業ではあるが、互いに関連があって始まったわけではないからだ。
解析・信頼性評価は、半導体・液晶・実装基板の品質保証を源流とする、最大で40数名を擁する中核部隊。検査装置は、太陽電池で培った光学検査技術を核とするグループだ。電子機器修理は、もとはIBMのパソコン(ThinkPadやデスクトップ)の保守修理を担っていた部隊にさかのぼる。そしてウェハー加工は、わずか2名の技術者が担う事業――。発生源も、扱う対象も異なる4つが、一つ屋根の下に集うことになった。
転機は約4年前に訪れる。それまでアイテスは、京セラへ譲渡された野洲の建屋の一部を借りて解析事業を行い、検査装置・電子機器修理・ウェハー事業は隣接する栗東市の拠点で――と、3か所に分散していた。これを、現在の大津市に新社屋を建てて1か所に集約したのである。
「せっかく一か所に集まるのだから」と五十嵐社長は考えた。従業員は約100名。それぞれが全く別の顧客を相手に別々の方向を向いて働くよりも、4つの事業が持ち寄る技術を融合させ、一つのターゲットに対して付加価値の高いサービスを提供できないか。それが、集約に込めた理想だった。
SiC ── 新素材が生んだ、事業横断のシナジー
その理想が、具体的な形をとりつつある領域がある。SiC(炭化ケイ素)をはじめとする新素材の半導体だ。
SiCは主にパワー半導体で使われる素材で、すでに市場にかなり出回っている。しかし、従来のシリコンにはない、SiC特有の欠陥が存在し、これがいまなお課題として残る。この欠陥をいかに早く検出し、顕在化させるか――。ここに、太陽電池で磨いた光学検査技術が生きると見た。同社は現在、光を使ったSiCの欠陥解析検査装置を開発中だ。着想からすでに7年ほどが経つという。
一方、解析・信頼性評価の事業でも、この5年ほどで、SiCや窒化ガリウム(GaN)といった新素材に対する分析・解析・信頼性評価の依頼が確かに増えてきた。ここに、事業をまたいだシナジーが生まれる。
「同じお客様に対して、検査装置という角度からも、分析解析サービスという角度からも、製品やサービスを提供できるようになってきています」
実際、同じ顧客が検査装置の技術を評価し、かつ解析サービスも利用する、という関係が現実に生まれている。さらに、限られた分野ではあるが、電子機器修理の部隊は半導体テスターの保守事業にも着手した。分析解析、欠陥解析装置の提供、そしてテスターの保守修理――一つの顧客に対して、複数の窓口から応える。「何かあった時にはアイテスに頼めばいい」と思ってもらえる関係を、複数の角度から築こうとしている。検査手法と分析手法を組み合わせた新しい解析サービスの開発も、すでに動き出している。
スピードを届けるために ── 九州、そして地域戦略
2つ目の柱が、地域戦略だ。同社は熊本に事業所を新設した。背景には、半導体産業をめぐる九州の勢いがある。
九州はかつて、日本がメモリーで世界を席巻した1980年代後半から90年代にかけて「セミコンアイランド」と呼ばれた土地だ。そこへ近年、TSMCが進出し、国の補助金も手厚く投じられたことで、多くの半導体関連企業が改めて強い関心を寄せている。「TSMCをきっかけに、大きく一歩を踏み出した部分は間違いなくあると思います」と五十嵐社長は見る。
なぜ現地に拠点を構えるのか。答えは「スピード」にある。半導体メーカーにとって、問題が起きた時にいかに早く解決できるかは、そのままラインのコストに跳ね返る。だからこそスピード感が重視される。試料を受け取ってから解析結果を出すまでの時間短縮に努めるのはもちろんだが、物理的・地理的に近くにいること自体が、連絡のしやすさや試料の受け渡しやすさに直結する。

「フェイス・トゥ・フェイスですぐに話ができれば、心理的にも近く感じていただける。サービス力は間違いなく上がります」
現状の熊本事業所では、まだ限られた解析作業しかできないというが、これを窓口・きっかけとして、いずれは装置を拡充し、本社の装置を一部移すことも視野に入れる。狙う地域は九州だけではない。国が最も資金を投じる北海道・千歳周辺、そしてパワー半導体の需要が根強い中部・東海地方の車関連――。同社の実績はもともと最先端の微細化(AI半導体)より、大電力を扱うパワー半導体側にある。東海は本社のある滋賀県から2時間ほどで回れる。北海道はまだ立ち上がりの途上にあることから、「まずは九州で実績を」と、九州からのスタートを選んだ。
装置がそろっても、たどり着けない ── 解析という「負けない領域」
競争が激しさを増す半導体業界で、アイテスの勝ち筋はどこにあるのか。五十嵐社長がまず挙げたのは、デバイス・チップの故障解析技術だ。
いまや半導体の検査解析装置は自動化が進み、1台2億円を超えるものも珍しくない。使い勝手や解析手法も充実し、エンジニアが半年から1年その装置と向き合えば、かなりのデータは取れる時代になった。大手企業なら、装置を買えばある程度の解析はできてしまう。「その意味では、装置を買えば結果が得られる世界は、我々の独自性が活かせないところなんです」と五十嵐社長は認める。
だが、それでも大手からも仕事が舞い込む。理由は、装置だけでは届かない領域があるからだ。
故障は千差万別で、そもそも想定していなかったものが不良になる。テスト不良として渡されるのは、いわばブラックボックス。1cm角のチップに数百億個もの回路がある中で、たった一つでも不良があれば故障は起きる。その一点を特定するには、装置に依存しない解析手法と、試料そのものを解析装置にかけるまでの「前処理」「試料加工」がものを言う。
アイテスはIBM時代から数えて30〜40年近く、米国本社の解析部隊とも交流しながら、この装置に依存しない技術を蓄積してきた。「こう見れば、こう試料を加工すればゴールが見えてくる、という部分こそ、解析の本当に技術的なところ」。そこに最新装置の機能が加わって初めて、微細化の進んだ現代の微小な欠陥にたどり着ける。少なくとも国内では「負けていない領域」だと、五十嵐社長は言い切る。
もう一つの強みが、断面加工と観察だ。壊れた電子部品はミクロの世界。断面を切って観察するのだが、切ること自体が、もともと起きていなかった変化を断面に生んでしまう。真実を見ているつもりが、切ったせいで表面状態が変わってしまう――そんなことは山ほどある。見たい部分を正確に、断面を崩さずに加工・観察する技術は、簡単なようで、きっちりできる会社は多くない。過去の経験からさまざまな手法を取り入れてきたアイテスの解析部隊は、ここでも他社に引けを取らないという。チップレットの世界でも、いま強く求められている技術だ。
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