半導体そのものの好況は、それを「作る道具」をつくる装置メーカーにも当然及ぶ。半導体製造装置の業界団体SEAJ(日本半導体製造装置協会)が2026年1月15日に公表した需要予測によれば、2026年度の日本製半導体製造装置の販売高は前年度比12%増の5兆5,004億円(JPY)に達する見通しだ。
この数字は何を意味するのか。AI向けの投資は、装置産業のどこを押し上げているのか。そして、この好況はどんな「質」を持っているのか。
本稿では、装置・部材・保守に携わる読者に向けて、この「過去最高ラッシュ」の中身を分解していく。
SEAJ予測が描く「3年連続の高水準」

SEAJの2026年1月予測によれば、日本製半導体製造装置の販売高は、2025年度が前年度比3%増の4兆9,111億円、2026年度が同12%増の5兆5,004億円、2027年度が同2%増の5兆6,104億円と見込まれる。2025年度の伸び率が低めに見えるのは、前年の2024年度実績が前年比29%増の4兆7,681億円にまで上振れて着地したためで、絶対額としては高水準が続く。
FPD(フラットパネルディスプレー)製造装置を含めた全体では、2026年度は前年度比11.2%増の5兆8,494億円となる見通しだ。さらにSEAJは、2025年度・2026年度・2027年度のすべての年度で、前回(2025年7月発表)の予測金額から上方修正したと明らかにしている。つまり装置産業は、単年の急騰ではなく、複数年にわたって高い水準を維持する局面に入っているのである。
国内市場に限った日本市場販売高でも、2026年度は前年度比5%増の1兆3,805億円、2027年度は大手ファウンドリの第二期投資や2nmロジックの量産投資が加わり同10%増の1兆5,185億円と、伸びの加速が見込まれている。
日本製装置(海外拠点を含む日系企業の国内外向け販売)と日本市場(国内向けの日系・外資系装置販売)はそれぞれ別の指標だが、いずれも右肩上がりであることが、装置産業の地合いの強さを裏づけている。
牽引役は2nmとHBM──「非メモリ」と「DRAM」の2本柱

SEAJは2026年度の伸びの背景として、DRAM投資拡大の継続に加え、AIサーバー向け先端ロジック投資の拡大を挙げる。前者は台湾ファウンドリの2nm(GAA)投資の本格化、後者はHBM(広帯域メモリ)を中心とするメモリ投資が代表例だ。
この傾向は、装置最大手・東京エレクトロンの決算でも裏付けられる。同社の2026年3月期(2026年4月30日発表)では、新規装置のアプリケーション別で「非メモリ(ロジック・ファウンドリ等)」が59%を占めて1兆円超となり、DRAM分野も31%を維持した。AIサーバー向けの最先端設備投資が活発だったことを、同社は売上構成の変化として示している。
要するに、ロジックの微細化(2nm)とメモリの高性能化(HBM)という2本柱が、今の装置需要を同時に支えているのだ。AIという一つの需要が、前工程装置の複数分野へ波及している構図だ。なお、NAND型フラッシュについても、AIデータセンター向け需要の拡大やHDD(ハードディスク)の供給不足を背景にデータセンター向けSSDの需要が急増しており、ASP(平均販売単価)は上昇基調にある。SEAJは、収益性の改善に伴って今後の投資が加速することを期待している。
装置メーカーの決算が映す「好況の質」

好況の中身は、装置メーカーの数字に表れる。東京エレクトロンの2026年3月期は、売上高が2兆4,435億円(前年度比0.5%増)で過去最高、純利益が5,744億円(同5.6%増)で過去最高を更新した。一方、営業利益は6,249億円(同10.4%減)と減益で、研究開発費の増加(前年度比11.1%増の2,778億円)などが利益を圧迫した。
売上はほぼ横ばいでも純利益は過去最高、しかし営業利益は減益——この組み合わせは、目先の利益より将来の成長に資源を振り向けている局面を映している。同社は2026年9月中間期の予想を売上高33.1%増の1兆5,700億円とし、力強い回復を見込んでいる。
市場構成にも変化がある。地域別では通期で中国向けが最大(34.1%)だが、第4四半期(2026年1〜3月期)単体では先端投資の伸びが顕著な台湾向けが前四半期比40%増へと急拡大した。需要の重心が、最先端プロセスを担う地域へ移りつつある。
なお、出荷タイミングの関係で一時的に落ち込んだ第3四半期から、第4四半期単体は売上高7,118億円・営業利益2,056億円へと大きく回復しており、足元の勢いは強い。
「保守・部品」という地味だが強い柱
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装置は、売って終わりではない。据え付けた装置を動かし続けるための保守・部品供給・改造(フィールドソリューション)が、安定した収益の柱になる。
東京エレクトロンのフィールドソリューション事業の売上高は6,260億円(前年度比16.3%増)と大きく伸びた。顧客の工場稼働率の上昇に伴い、保守や部品、改造の案件が好調に推移したためだ。
新規装置の販売は投資サイクルや価格に左右されやすいのに対し、保守・部品は設備の「稼働」に連動するため、相対的に振れが小さい。部材・保守に近い事業者にとって、この“ストック型”の収益は、市場の波に対する緩衝材になる。好況の数字を読むときも、新規装置と保守・部品を分けて見ることが欠かせない。装置が世界に据え付けられるほど、それを維持・更新する需要も積み上がる。先端投資の波が一巡しても、稼働する設備が残る限り、保守・部品の市場は緩やかに拡大し続ける性質を持つ。
1兆ドル到達前倒しと装置産業の中期像

SEAJは、当初2030年とされていた世界半導体市場の1兆ドル到達が、従来の想定より大幅な前倒しとなる可能性が高まっているとし、装置も中期的に高い成長が見込まれるとする。
実際、WSTS(世界半導体市場統計)は2026年6月2日の春季予測で、2026年の世界市場を前年比89.9%増の1兆5,112億米ドルへと大幅に上方修正し、1兆ドルを初めて超える見通しを示した。装置産業の追い風は、市場全体の数字とも整合している。
需要の源泉はAI・データセンターだ。SEAJは、現在のLLM(大規模言語モデル)を基盤として、計画・意思決定・行動が可能なAgentic AIや、現実世界を認識して物理空間で行動するPhysical AIへと発展していくとみる。用途が広がれば、半導体の高性能化・低消費電力化・大容量化の要求は一段と高まり、先端投資はさらに続くだろう。
SEAJは、GAA構造のさらなる進化やHBMの高積層化に加え、ロジックの性能向上に対しメモリ帯域がボトルネックとなる「メモリーウォール」問題への対応として、HBF(High Bandwidth Flash)など新たなメモリ技術の登場にも期待を寄せる。こうした技術の世代交代は、いずれも新たな装置投資を伴う。装置産業にとって、当面の地合いは強い。
数字の裏にある「二つの読み筋」

5.5兆円という数字は、日本の装置産業がAI時代の中核に座っていることを示す。ただし読み方には二つの筋がある。一つは新規装置——2nmやHBMという先端投資の波に、自社がどこまで乗れるか。もう一つは保守・部品——据え付けた設備の稼働を支える事業を、どれだけ厚くできるか。前者は華やかだが投資サイクルに揺れ、後者は地味だが安定している。装置・部材・保守に携わる事業者にとって、この二つを切り分けて自社の立ち位置を測ることが、過熱気味の市場で足元を見失わないための視座になる。好況の数字に乗るだけでなく、その“質”を見極めたい。市場が強いときほど、振れに強い収益構造を併せ持つ企業が、次の調整局面で差をつける。5.5兆円という追い風を、一過性の特需で終わらせるか、持続的な事業基盤に変えるか——その分かれ目は、足元の数字の読み方にある。
用語解説
SEAJ(日本半導体製造装置協会):
日本の半導体・FPD製造装置メーカーで構成する業界団体。装置の販売高実績や需要予測を年に複数回公表し、装置産業全体の動向を測る代表的な指標を提供している。会員企業の調査結果を総合して予測をまとめている。
半導体製造装置(前工程):
ウエハ上に回路を作り込む工程で使う装置の総称。露光・成膜・エッチング・洗浄などがあり、微細化が進むほど高度で高額な装置が求められる、半導体産業の基盤を支える分野である。日本メーカーが世界で高いシェアを持つ領域も多い。
HBM(広帯域メモリ):
複数のDRAMを垂直に積層した高速メモリ。AI用GPUと一体で使われ、その先端投資がDRAM向け装置需要を押し上げる主因の一つになっている。世代交代のたびに新たな装置投資を伴う。
フィールドソリューション:
装置メーカーが手がける保守・部品供給・改造などのサービス事業。据え付けた設備の稼働に連動するため、新規装置販売に比べて収益が安定しやすく、景気の波に対する緩衝材になりやすいのが特徴である。
2nm(GAA):
回路線幅が2ナノメートル級の最先端プロセス。トランジスタにGAA(ゲートオールアラウンド)構造を採用し、台湾ファウンドリの量産投資が前工程の装置需要を強く牽引している。AI向け高性能チップの製造に用いられる。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- 2026年1月発表 半導体・FPD製造装置 需要予測(日本半導体製造装置協会/SEAJ)
- 2026年3月期 決算短信・決算説明会資料(東京エレクトロン IR)
- 半導体市場の成長率過去最高、26年90%に 初の1兆ドル突破(日本経済新聞)
- 世界半導体市場は2026年に1.5兆ドル超え、WSTS予測が大幅に上方修正(ジェトロ)
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