半導体の「人手不足」はなぜ続くのか!?国内投資の拡大と技能の細分化、育成網の再設計

SEMICON.TODAY
この記事を読むのにかかる時間: 6

半導体産業は、設計(回路・ソフト)から前工程(成膜・露光・エッチング等)、後工程(組立・封止・テスト)まで工程が長く、装置・材料・物流・品質保証まで含めると裾野が広い。さらに生成AI向けプロセッサや高帯域幅メモリ(HBM)、ネットワーク関連部材の需要増が、最先端ロジックだけでなく試験・検査装置、前後工程材料にも波及し、国内外で供給能力の増強が続いている。

このため、市場が拡大する局面では「増員=即増産」になりにくいという側面もある。例えばGartnerは2026年1月12日、2025年の世界半導体売上高が約7,930億米ドル規模に達し、前年比で2割超伸びたと公表した。ところが、需要の拡大と同時に、工程の高度化と品質要件の厳格化が進むため、人員の採用を増やしても立ち上げ・歩留まり・認定の制約で生産能力がすぐには積み上がらない。

国内でも、人材需給の逼迫を示す資料が相次ぐ。関東経済産業局の資料(2025年7月)は、主要企業の試算として「今後10年間で少なくとも4万人以上の追加人材が必要」と記載し、地域横断での育成体制を課題として挙げた。半導体の人材不足は「採用難」にとどまらず、技能形成の設計、地域移動、制度対応まで含む“産業インフラ”の論点へ移っている。

需要増の局面で「工程が増える」。人員計画を押し上げる3つの要因

第一は、工程数と専門領域の増加である。経済産業省の資料(2025年12月23日)は、AI主導で素子が高付加価値化していく過程で、先端装置の高付加価値化とともに「工程が増える」構造を示している。工程が増えるほど、設備立ち上げ、条件出し、保全、歩留まり改善に必要な人員が増え、特に立ち上げ局面では「熟練者の密度」がボトルネックになりやすい。

第二は、供給責任と品質保証の負荷増である。自動車・産業機器・データセンター向けでは、長期供給に加え、変更管理(製造条件・材料・サプライヤ変更を管理し、必要に応じて顧客認定を取り直す作業)が重い。製造現場の増員だけでなく、品質保証、顧客監査対応、サプライヤ監査、規格・法規対応といった周辺領域にも工数が発生し、人手不足が工程外へ波及する。

第三は、国内の人材ストックが長期にわたり減少してきた点である。日本政策投資銀行(DBJ)は、国内半導体関連産業の従事者数が1998年の23.3万人から2018年の15.7万人へ減少したと整理している。経験の蓄積が必要な職種ほど、投資拡大局面でギャップが顕在化しやすく、「育成の時間」を取り戻せないことが慢性化の背景になる。

「人材不足」は設計だけではない

半導体の人材不足は、職種別にみると単一ではない。DBJは、半導体産業の裾野が広いことを前提に、設計・前工程・後工程・テスト工程に関わる従業員を「半導体人材」と定義している。現場の議論が、設計者の不足だけでなく製造・テストまで含む“工程全体”へ拡張していることを示す。

同レポートは、JEITA半導体部会の政策提言に関与した9社の試算として、今後10年間で必要とされる半導体人材が4.3万人規模にのぼる旨を紹介している。関東経済産業局資料が示す「少なくとも4万人以上」という記載とも整合的で、必要人員の見立てが“設計だけ”では完結せず、製造・テストを含む工程横断の人員計画を前提にしている点が重要になる。

不足の表れ方を把握する際は、「工程」と「周辺機能」を分けて眺めると整理しやすい。DBJが列挙する主な職種には、製造オペレーター、設計エンジニア、プロセスエンジニア、装置エンジニア、テストエンジニア、生産管理、品質管理、研究開発などが含まれ、求められる技能としてEDAツール操作、統計分析、トラブルシューティング等が並ぶ。

一方、周辺機能側では、輸出管理、サプライチェーン・トレーサビリティ(部材の追跡可能性)、原産地・環境規制対応、顧客監査対応など、技術と制度が交差する業務が増えている。人手不足が「現場の頭数不足」だけでなく、「複雑化に追随する技能不足」として表面化しやすい構造がある。

各地で進む「育成の共同体化」

人材対策は、企業単体の採用競争から、地域単位の育成網づくりへ重心が移りつつある。関東経済産業局の資料(2025年7月)は、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国・九州の6地域で半導体人材育成コンソーシアムが立ち上がっていると整理した。教育機関・企業・自治体を束ね、講座設計、実習設備、インターンシップ、資格・認定などを組み合わせる発想が中核となる。

九州では、九州経済産業局と九州半導体・デジタルイノベーション協議会(SIIQ)が「九州半導体人材育成等コンソーシアム」を運営している。2025年10月17日に開催された第7回会合には、産業界・教育機関・金融機関・行政機関など121機関が参加し、各ワーキンググループの活動報告や、今年度計画の共有、期待・課題に関する議論が行われた。複数主体が同じ“不足職種像”を共有し、教育側のカリキュラム設計へ落とし込む動きが可視化されている。

高専ネットワークと「設計教育」の体系化

供給源の拡張では、高等専門学校(高専)と設計教育が軸に据えられている。国立高専機構は2026年1月20日、全国51校のネットワークを活用した「半導体人財育成エコシステム構想」を本格始動すると公表した。九州・北海道で教育パッケージ開発と教育環境整備を進め、全国展開の体制が整いつつあることを背景に、実施段階へ移行するとしている。高専教育の特徴として理論と実践の融合を掲げ、継続的な人材輩出の仕組み化を明確にした。

設計人材では、大学院新卒の採用に加え、リスキリング(既存人材の学び直し)を制度化する動きが広がる。最先端半導体技術センター(LSTC)は2025年5月、NEDO委託事業として最先端デジタルSoC設計人材育成(ADIP)を開始し、初級・中級・上級に分けた段階的教育を掲げた。上級では海外企業と連携した長期の実践的教育を設計し、設計者・アーキテクト層の不足に対して“育成の時間軸”を前提にした打ち手を提示している。さらに同年5月30日には、初級・中級コースの募集開始を公表し、EDAを用いた設計・検証等を体系的に扱う枠組みを示した。

同時に問われる海外人材の受け入れ・地域生活基盤・省人化

人材不足の解消策は育成だけではない。海外人材の受け入れ、地域の生活基盤整備、そして省人化・自動化が同時に問われる。

宮城県は2026年1月30日、国家戦略特区を活用した「外国人エンジニア就労促進事業」を公表した。在留資格「技術・人文知識・国際業務」の標準処理期間(1〜3か月)に対し、県が企業の経営安定性を事前確認することで、約1か月で資格認定を受けられる仕組みを示している。受付開始日は2026年1月19日としている。

また内閣府の資料(産業拠点形成連携“絆”特区に関する整理)は、宮城県・熊本県において、外国人材の受入環境整備を含む人手不足対応を、半導体関連産業の拠点形成と並列で位置づけている。熊本では、外国人が入国・就労・定住しやすい体制の必要性を明記し、生活基盤の論点が「採用・在留」だけで完結しないことを示唆する。

同時に、省人化・自動化も不可欠になる。DBJは、人材育成と並行して省人化の取り組みを論点に挙げ、労働市場制約の強い領域ほど、データ基盤整備、予兆保全、検査工程の自動判定などで「人に依存する部分」を工程設計で減らす必要があると整理している。加えて、設備投資計画調査の結果として、製造業全体の大企業・中堅企業で「技術職・エンジニアが不足」と回答した割合が44.4%であるのに対し、電気機械業種では65%だった旨を示し、半導体を含む領域で人材制約がより強い可能性を示している。

人材不足を「供給網リスク」として扱う段階へ

半導体の人手不足は、国内投資の拡大と工程の高度化が同時に進む局面で、技能形成の遅れとして顕在化した。「今後10年で4万人超」という規模感は、単年採用で埋まる水準ではなく、育成の仕組み、地域間連携、制度運用を束ねた長期の設計課題である。

各地で示されている方向性は共通している。第一に、工程横断で技能を定義し、移転可能な形で標準化すること。第二に、企業単体ではなく、地域コンソーシアムや教育ネットワークで“共同体化”すること。第三に、海外人材の制度整備と、生活基盤整備を同時に扱うこと。第四に、省人化を前提に工程と品質保証の設計を見直すこと。

DBJが「設計からテストまで」を半導体人材と定義したように、課題は特定職種ではなく工程全体に及ぶ。育成網とスキル標準の整備が進めば、人材の循環と配置転換の余地が拡大し、供給網の耐性を高める方向へと向かう。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク

この記事で取り上げた分野では、現在も採用が活発です。以下は、semicon.todayの編集部が記事のテーマをもとに選定した求人情報です。広告・PRではありません
※採用状況により求人内容が更新される場合があります
TOP
CLOSE
 
SEARCH