「SEMICON Japan 2025」から見えてくるE187・Scope3・HBM供給網の整合状況

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2025年12月17〜19日、東京ビッグサイトで開催される「SEMICON Japan 2025」。AIインフラ投資の勢いが落ちないなか、今年の会場で最も“現場実務”に響くテーマは、E187(装置のサイバーセキュリティ)、GHG(温室効果ガス)算定のScope 3、そしてHBM(高帯域幅メモリ)供給の三つだろう。

これらは本来、別々の専門部門(情報セキュリティ、サステナビリティ、サプライチェーン/技術企画)が扱う領域だが、AIサーバーの量産局面では一つの「購買ストーリー」に統合して扱わないと、受注・資材確保・投資家説明のどこかでストップしてしまう。加えて、業界需要の追い風はデータで裏づけられている。

本稿は、「SEMICON Japan 2025」の出展状況から見て取れるであろうE187・Scope3・HBM供給網の整合状況をあらかじめ整理してみる。展示ガイドとして、参考にしてほしい。

E187──“規格”から“契約条項”へ

E187は、ファブ装置のOS管理、ネットワーク分離、ログ運用、脆弱性対応など、装置ライフサイクル全体のセキュリティ要求が標準となる。2025年、SEMIのサイバーセキュリティ・コンソーシアム(SMCC)はE187コンプライアンス・ガイダンス白書を公開し、企業が用意すべきアーティファクト(証跡)を具体化した。これは“準拠”の曖昧さを減らし、調達仕様に落とし込むうえでの共通言語になる。

国内でも、JEOL(日本電子)がE187の適合性証明(VoC)を取得。先行事例の出現は、発注側が「VoCの有無」を入札条件にしやすくなることを意味する。実務上は、以下の三段階で“粒度”を設計するとよい。

  • ベースライン:E187必須要件の網羅+VoC提出(調達の最低ラインを明示)
  • ミドル:OSパッチ方針、ネットワーク構成図、監視ログ保全、インシデント連絡体制の文書証跡を必須化(レビュー容易化と誤差の抑制)
  • アドバンス:第三者ペネトレーションテストやEoL時のメディア消去・廃棄手順、継続モニタリングまで契約に織り込む(クリティカル装置向け)

ポイントは、「一律」ではなく装置の重要度で段階化すること。歩留まりや機密度に直結する装置はアドバンス、周辺設備はミドル、といった“差配”が、コストと安心の均衡を生む。加えて、輸出規制の運用見直し(年次承認やサイトライセンス案など)の報も出るなか、装置のセキュリティ証跡は対外説明の盾にもなる。

Scope 3──顧客からのESG要請は可視化へと拡張

投資家・顧客からの、Scope 1・2にとどまらずScope 3(サプライチェーン間接排出)の可視化へと拡張している。規制・開示の地合いも揺れているが、欧州の報告簡素化提案や米国の気候開示修正の動きがあっても、サプライチェーン全体の説明責任は薄れない。むしろ、任意枠組み(VCMIのScope 3行動コードなど)やデータ推計の充実(Bloombergの企業GHGデータ拡充)で、「説明可能性」を問う実務が強まっているのが現実だ。

半導体で最初に手を付けるべきは、Category 1(購入した製品・サービス=材料・部材)とCategory 4(上流輸送・配送)。ここを算定境界の“第一層”として固定し、取引先に排出係数(可能なら実測)の提出を求める。次に、後工程(パッケージング)に伴うエネルギーや廃棄の扱い、装置稼働時の消費電力(顧客側Scope 2/3に関与)を第二層として拡張する。

契約面では、

  • 調達仕様書に「GHGデータ提出」「第三者検証対応」「データ粒度(期間・原単位)」を条項化
  • 見積書の内訳に“GHG原単位”欄を設け、価格と同列で比較できる体裁に
  • 将来のSBTi整合を見越した年率削減カーブをベンダーごとに合意

をセットで回すと、購買・IR・法務が同じ表を見て意思決定できる。McKinseyは半導体のScope 3削減を「サプライヤー協働」「仕様変更」「材料最適化」の三点で進める実務論を示す。“減らせる所から確実に”が要諦だ。

HBM──顧客の選好が「高速>低価格」に

生成AIの中核部材であるHBMは、AIアクセラレータの性能・電力効率を左右する。SK hynixは2025年の決算・事業見通しでHBM販売の倍増を掲げ、2030年まで年率30%成長の期待を指し示す。Samsungは12層HBM3E(12H)の開発・量産計画を進め、MicronもHBM3Eの量産出荷とプラットフォーム採用を相次ぎ発表。Bloomberg IntelligenceはHBM市場の長期拡大観測を提示し、「高速>低価格」という顧客選好の変化を指摘する。

一方で、供給不安は“後工程×素材×受注枠”に凝縮する。具体的には、(1)積層・封止・TSV等の高難度プロセス能力、(2)封止材・レジスト等の材料のリードタイム、(3)メモリ大手の受注枠の三点がボトルネックになりやすい。地政学や輸出管理の再運用(年次審査化など)の観測も、安定供給へのリスクプレミアムを押し上げる要因だ。

ここで購買は、長期・多層の“ひも付き”確保に切り替える。

  • チップメーカー向け長期枠+後工程サプライヤー(OSAT・材料)との長期契約を同時に設計
  • 歩留まり改善PJ(後工程条件最適化)を共同開発条項として契約に書き込む
  • クリティカル材料の代替候補と安全在庫のKPIを設定
  • 価格だけでなく納期遵守率・歩留まり改善貢献度でサプライヤー格付けを運用

といった“供給確度KPI”へ舵を切る。「納期が読めるか」が最強の差別化である以上、受注枠×後工程×素材を一体でマネージする仕組み化が決定打になる。

SEMICON Japan 2025は、見取り図の“断片”が最も集まる機会に

E187、Scope 3、HBM――この三つの論点は個別の技術課題に見えて、実務では購買・法務・品質・サステナビリティ・IRが同じ指標を共有できるかどうかに帰着する。装置市場が再拡大する2025年は、要求の厳格化と部材の逼迫が同時進行する年でもある。だからこそ、どの装置でどの水準の証跡(E187)を求め、どの境界(Scope 3)で排出を説明し、どの工程(HBMの後工程・素材)に長期コミットするのか――意思決定の“見取り図”を社外にも読み取れる形で示す企業が、受注と投資家評価の両面で歩を進めるだろう。

SEMICON Japan 2025の3日間は、その見取り図の“断片”が最も集まる機会だ。各社のブースやセッションで提示されるのは、単なる新製品の要目ではなく、契約条項に落ちるセキュリティ要件、開示に耐えるGHGデータの粒度、そして納期確度を裏づける供給関係であるはずだ。来場者が持ち帰る価値は、カタログの束よりも、自社の調達仕様に写し込める具体的な項目と数値である。

結局のところ、競争力を分けるのはスローガンではない。“整合”を外部から検証可能な形で示すことだ。年末の東京は、その準備状況を静かに照らし出す。ここで見せた整合の度合いが、2026年の量産スケジュールを左右する――それが今季のコンセンサスである。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
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