
半導体業界のトップたちは今、何を語り、どこへ足を運んでいるのか。その一挙手一投足を追いかけると、すばやく半導体の新しい潮流を把握することができる。本企画では、半導体の主要企業やメモリ企業のCEOなどトップたちの動向を追い、それが業界と読者にどんな示唆を与えるのかを読み解く。
9月、トップたちの言葉はさらに一段エスカレートした。フアン氏はXで「AGIは到達した」と宣言し、メロートラ氏は「AIはスーパーインテリジェンスになりつつある」と語った。同じ月に、NVIDIAはHugging Faceを、AMDはWorld Labsを買収——GPU2強が揃って「AIラボ」を取り込みに動いた。
第1部|GPU・ロジック編
NVIDIA|ジェンスン・フアン(Jensen Huang)CEO

「“AGIは到達した” 次は40万基が稼働する」
【今月の主な動き】
- 9月3日:オープンソースAIプラットフォーム大手のHugging Faceを129.3億ドルで買収すると発表(NVIDIA公式ブログ)。「AIエコシステム全体に開かれたプラットフォームであり続ける」と表明し、開発者・機関へのAIアクセス拡大を掲げた。
- 9月7日:OpenAIの新モデル「GPT-6 Astra」が10万基超のGrace Blackwell NVLink72で学習されたことを受け、Xで「ChatGPTからo1、そしてAstraまで4年。AGIは到達した(AGI has arrived)」と投稿。「次は40万基が稼働する」と続けた。
- 9月10日:ゴールドマン・サックスのカンファレンスで、2028年1月期の約70%成長(約6,730億ドル)見通しの根拠を説明。「NVIDIAはあらゆるモデルを走らせており、未来が見える」とし、AI企業への出資は「実契約・実収益のある企業に限る」と強調。
- 9月17日:スコットランドでの国際サミット前に「来年はチップの販売数量が今年の2倍になる」と発言。9月28日には自社株買い枠の1,500億ドル増額(残存授権枠2,350億ドル)と、エージェント保護のオープン基盤「Open Agent Safety Platform」の提供開始を正式発表。AIモデルの蒸留(distillation)については「窃盗ではなく競争」と述べた。
| 【この動きが示唆するもの】 「コンピュートは売上」(8月)から「AGI到達」(9月)へ——トップの言葉は1カ月でさらにインフレした。AGIを自社GPUの納入実績とセットで宣言する構図は、AGI論争が科学の議論からマーケティングの主戦場へ移ったことを示す。言葉が強くなるほど、月次売上や出荷数という「実数」で検証する姿勢が読者には求められる。Hugging Face買収は垂直統合の総仕上げだ。チップ→システム→AI工場→金融ときて、ついに開発者コミュニティという「エコシステムの入口」まで手中にした。「販売数量2倍」はサプライチェーン全体への総需要宣言であり、TSMCの2nm増産前倒しやメモリ各社の増産計画と整合する。 |
AMD|リサ・スー(Lisa Su)CEO

「次世代AIの計算基盤を作るには、モデルがどう進化するかの深い理解が必要
【今月の主な動き】
- 9月28日:AI研究所World Labsを買収する最終契約を締結と発表(買収額は82億ドルと報道)。「AIのゴッドマザー」と呼ばれるフェイフェイ・リー博士がEVP兼チーフサイエンティストとしてスー氏直属で参画する。World Labsはテキスト・画像・動画から3D環境を生成する空間知能(世界モデル)とロボット学習技術を手掛ける。
- スー氏は「次世代AIの計算基盤を作るには、モデルがどう進化するかの深い理解が必要だ」とコメント。9月下旬には、女性CEOが率いる企業として初めて時価総額1兆ドルを突破した。
- 9月末:10月の訪韓を発表。10月8日にソウルでサムスン電子・SKハイニックス・韓国AIチップ企業の経営陣と会談予定と報じられ、HBM調達網の深耕が狙いとされる。10月12日のOCPグローバルサミットでは「エージェント型AIのためのオープンなフルスタックインフラ」を掲げて基調講演に立つ。
| 【この動きが示唆するもの】 NVIDIAのHugging Face買収と同じ月のWorld Labs買収——GPU2強が揃って「AIラボ」の取り込みに動いた事実は重い。競争軸はチップ性能→システム→そして「次のAIがどう進化するかを知る力」へ移った。リー氏の空間知能はロボット・自動運転などフィジカルAIの核心技術だ。NVIDIAが日本の製造業と組んで進めるフィジカルAI戦略への、研究力による正面からの対抗軸と読める。発表直後の訪韓計画は、HBM確保がAMDの最優先経営課題であることの表れ。調達される側の韓国メモリ2社の交渉力は、一段と強まっている。 |
※本記事の事実関係は各社の公表情報・報道(2026年8〜9月時点)に基づく。示唆・見解の部分は編集部の分析である。