AI半導体の実効性能は、演算器だけでは決まらない。数万規模のAIアクセラレータを束ねると、データの移動がクラスタ全体のボトルネックになるからだ。Broadcomが2026年10月8日に発表した、OCP Global Summitでのネットワーク製品群の展示は、AIクラスタの“通信の層”を押さえる戦略として読む必要がある。
| この記事のポイント ■ Broadcomは2026年10月8日、OCP Global Summit 2026(10月12〜15日、米サンノゼ)でAIネットワーク製品群を展示すると発表した ■ スイッチのTomahawk 6、Tomahawk Ultra、Jericho 4、AI Ethernet NICのThor Ultra(800G)とThor 2(400G)、第3世代CPO「TH6-Davisson」が含まれる ■ パートナー各社は102.4TのCPOスイッチ(Tomahawk 6-Davisson)を展示する ■ AIクラスタの競争は、scale-up、scale-out、scale-acrossを支えるネットワーク全体へ広がっている ■ CPOは有力だが、プラガブル光モジュールとの併存が現実的である |
ひとことで言うと
AIの計算を何万個ものチップに分担させると、チップ同士の“会話”の量が爆発的に増える。Broadcomは、その会話を支える通信用チップと光接続を、業界標準のEthernetで一式そろえようとしている。
何が発表されたのか
Broadcomは10月8日、OCP Global Summit 2026で、AIインフラ向けのネットワーク製品群を展示すると発表した。対象は、EthernetスイッチのTomahawk 6、Tomahawk Ultra、Jericho 4、AI Ethernet NIC(サーバーをネットワークにつなぐカード用チップ)のThor Ultra 800GとThor 2 400G、そして第3世代のCPO「TH6-Davisson」である。Celestica、Delta Electronics、Micas Networksは、102.4TのCPOスイッチ「Tomahawk 6-Davisson」を使ったデモを行う。

出典:各社・各団体の公表資料をもとにSEMICON.TODAY編集部作成
基礎から理解する:scale-up、scale-out、scale-acrossとは
Broadcomは、AIクラスタのネットワークを「scale-up」「scale-out」「scale-across」の3つで語っている。発表資料に詳しい定義はないが、一般的には次のように整理できる。scale-upは近くのアクセラレータ同士を超低遅延でつなぐ層、scale-outはラック間やクラスタ内を広くつなぐ層、scale-acrossは離れたクラスタやデータセンター同士をつなぐ層である。

出典:各社・各団体の公表資料をもとにSEMICON.TODAY編集部作成
学習ではGPU間の同期通信、推論やRAGではストレージや検索基盤との接続、Agentic AIでは複数ステップにわたるデータ移動が増える。どの処理でも、ネットワークの能力がクラスタ全体の実力を左右する。
なぜEthernetなのか
BroadcomがEthernetを重視するのは、AIクラスタのオープン化とマルチベンダー化の文脈で重要だからだ。NVIDIAのNVLink/InfiniBand系に対し、Ethernetは運用人材の多さ、標準化、ベンダーの多様性に強みがある。ただし、AI向けには低遅延、混雑の制御(輻輳制御)、パケットロスの抑制が欠かせず、従来の汎用Ethernetとそのまま同じではない。
CPOはプラガブルを置き換えるのか
CPOは、スイッチASICと光エンジンを近くに配置し、電気配線を短くする方式である。電力効率や帯域密度を高める有力候補だが、保守性、熱、標準化、部品交換に課題が残る。NVIDIAとCiscoが発表したUSFPのような高密度プラガブル光モジュールとの併存が、当面の現実解になりそうだ。

出典:各社・各団体の公表資料をもとにSEMICON.TODAY編集部作成
日本企業への示唆
製造・材料面では、光部品、シリコンフォトニクス、DSP、ドライバ、TIA、基板材料、熱材料、コネクタ、光計測が重要になる。GPUやHBMの外側にある光ネットワーク、精密実装、検査・計測の需要は、日本企業にとって見逃せない商機である。
注意すべき点
今回の発表は展示会での製品群の紹介であり、各製品の採用規模や出荷数量は示されていない。また、scale-up/scale-out/scale-acrossの定義と製品の対応は、Broadcomの発表資料で明示されたものではなく、本記事の整理である。
CPOは有望だが、データセンターの運用現場ではプラガブル方式の実績が大きい。どちらが主流になるかを短期で断定するのは避けたい。
まとめ
BroadcomのOCP 2026での発表は、AIインフラの主役がGPU単体からネットワーク全体へ広がっていることを示す。Tomahawk、Jericho、Thor、CPOは、AIクラスタのscale-up、scale-out、scale-acrossを支える部品群である。
AIの処理が学習、推論、RAG、Agentic AIへ広がるほど、データの移動は増える。日本企業にとっては、光部品、基板材料、熱対策、検査・計測、精密実装が重要な商機になる。
用語解説
| 用語 | 説明 |
| Tomahawk | Broadcomの高帯域EthernetスイッチASICシリーズ。 |
| Jericho | Broadcomの大規模ネットワーク向けスイッチASICシリーズ。 |
| AI NIC | AIサーバーをネットワークへ接続する高性能なネットワークカード(またはそのチップ)。 |
| CPO | Co-Packaged Opticsの略。スイッチASICと光エンジンを近接配置し、電力効率や帯域密度を改善する実装方式。 |
| Ethernet | 最も広く使われている有線ネットワークの標準規格。 |
| 輻輳制御 | 通信が混み合ったときに、データの詰まりや損失を抑える仕組み。 |
出典(Sources)
本文での主な参照箇所:Tomahawk 6/Ultra、Jericho 4、Thor Ultra 800G/Thor 2 400G、TH6-Davisson、102.4T CPOデモ、OCP会期
本文での主な参照箇所:Tomahawk 6-Davisson CPO、AI Ethernet文脈
※本記事は各社・各団体の公表資料および報道をもとに作成したものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の公開情報に基づきます。
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