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AIが細胞生物学の共通基盤を構築、12種1.12億個の細胞データを統合解析する新モデルが登場

2026.09.21
この記事を読むのにかかる時間: 3 分

この記事のポイント

  • スタンフォード大学などの研究チームが、細胞解析を高度化するAIモデル「UCE」と「TranscriptFormer」を開発しました。
  • 12種・計1億1200万個の細胞における遺伝子発現データを学習し、生物種を超えて細胞同士を比較可能な共通座標系を確立しました。
  • 神経細胞の進化プロセスの解明や病変細胞の識別が可能となり、将来的な細胞治療の設計に向けた共通基盤として期待されています。

細胞の「遺伝子発現」を読み解く課題

顕微鏡による観察では細胞の形態しか把握できません。細胞の実際の機能を解明するには、どの遺伝子が活性化しているか(発現しているか)を特定する必要があります。現在、世界中の研究者が蓄積した細胞の遺伝子データは数億個規模に達しており、その膨大な情報量は人間の脳で直接処理できる限界を超えています。

すべての細胞は同一のゲノムを持っていますが、すべての遺伝子を一斉に使うわけではありません。膵臓のβ細胞はインスリン関連の遺伝子を発現させてホルモンを生成・放出し、B細胞は抗体関連の遺伝子を発現させて疾患に対抗します。また、皮膚細胞では毛髪や色素に関連する遺伝子が発現します。活性化する遺伝子の違いによって細胞の種類が分かれ、正常な細胞と病変細胞、さらには生物種間でも発現パターンが異なります。

近年、数万の遺伝子と数億の細胞データを網羅したシングルセル(単一細胞)アトラスが多数構築されていますが、この膨大なデータを同時に理解する手法が求められていました。スタンフォード大学バイオエンジニアリング学のStephen Quake(スティーブン・クエイク)教授らの研究チームは、アルゴリズムによって複雑なデータを処理し、研究者の解析能力を拡張するAIモデルを開発しました。本研究成果は学術誌『Nature』および『Science』に掲載されています。

「共通座標」の構築と「穴埋め推論」を担う2つのAIモデル

研究チームは明確な役割分担を持つ2つのモデルを開発しました。

第1のモデル「汎用細胞埋め込み(UCE: Universal Cell Embedding)」は、異なる研究室、異なる組織、さらには異なる生物種に由来する細胞を、同一の抽象的な数学空間へ配置します。これは物理空間ではなく、細胞間の「類似性と差異」を定量化できる座標系です。地球上のあらゆる生物の細胞をこの空間にプロットでき、距離が近ければ関係性が近く、遠ければ差異が大きいことを示します。これにより、従来は個別に分断されていたデータ群に統一された共通基盤がもたらされました。

第2のモデル「TranscriptFormer」は、言語モデルのChatGPTと同様のアプローチで学習を行います。ChatGPTがテキスト内の欠落した単語を推測するように、TranscriptFormerは遺伝子発現データの欠落部分を推測・補完します。一部の遺伝子データが欠けた大量の細胞データを繰り返し学習することで、細胞内における遺伝子の協調動作ルールを獲得しました。

学習データには、ヒトや酵母のほか、マウス、ウサギ、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、アフリカツメガエル、マラリア原虫、ウニ、海綿、線虫(C. elegans)など多岐にわたる12生物種、計1.12億個の細胞データが使用されました。単細胞生物からヒトに至る進化の幅広さを持つ多様なデータを学習させることで、種を超えて共通する細胞の「言語」の獲得に成功しています。

進化の謎の解明から将来の細胞治療設計へ

このAIモデルはすでに具体的な成果を挙げています。例えば、神経細胞を持たない海綿において、神経細胞の祖先に最も近い細胞がどれであるかという長年の疑問に対し、モデルは「襟細胞(choanocyte)」が線虫やカエルの神経細胞と発現空間上で極めて近いという解析結果を示しました。これにより、神経細胞の進化プロセスの解明や海綿内での襟細胞の役割の再評価が進んでいます。

また、海綿の「neuroid(神経様細胞)」と呼ばれる細胞は、名称からは神経系が想起されるものの、遺伝子発現パターンはカエルの腺細胞に近く、実際には消化に関与している可能性が高いことが示されました。

さらに、学習データに含まれていない未知の生物種であっても、遺伝子発現データさえ入力すれば細胞の種類を大まかに特定でき、正常細胞と病変細胞の識別にも成功しています。

将来的には、現時点では自然界に存在しない機能性細胞をモデル上で設計し、細胞治療の開発に応用することも視野に入っています。本研究には、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)、アメリカ国立科学財団(NSF)、Amazon、GlaxoSmithKline(GSK)など複数の機関が参画しています。単なる解析ツールの追加にとどまらず、生物種や疾患の枠を超えて汎用的に活用できる共通プラットフォームとして、今後の細胞生物学研究に寄与することが期待されています。

出典: 元記事を読む

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