“米中半導体経済分断”が描き出す新たなサプライチェーン図とは!?

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半導体は、スマート社会を支える心臓部として、国家・企業の命運を握る戦略資源と言える。ところがこの業界は、ここ1年ほど米国と中国の間の経済分断(デカップリング)が加速している。この米中の「技術と供給網の分断」は、単なる輸出規制を超え、産業エコシステムの再編という本質的な構造変化に発展しつつある。そして、日本を含む諸国の輸出管理(Catch All規制:キャッチオール規制)も強化され、世界のサプライチェーンは大きく揺れ動いている。

本稿では、この米中“半導体経済分断”の現状を紹介し、それによる輸出規制が世界のサプライチェーンにどのような影響をもたらすかを考察する。

“西側ブロック”と “非西側ブロック”に分かれるサプライチェーン

2024年10月以降、米国はAI向けGPUや先端ロジックの製造装置に対し、中国への輸出を原則禁止とする措置を段階的に発動。これにより、ASMLのEUV露光装置、ラムリサーチやアプライド・マテリアルズの成膜・エッチング装置の輸出にも実質的な制限が課された。

この動きは米国の友好国にも波及しており、日本とオランダが米国に歩調を合わせて規制対象を強化。結果として、特定の技術が“西側ブロック”で囲い込まれる構図が加速し、サプライチェーンは中国を中心とした“非西側ブロック”と、米国を中心とした“西側ブロック”に分かれている。

この分断は単なる地理的な問題だけではなく、製造、流通、設計、装置、材料、IPライセンスなどサプライチェーン全体に及ぶものであり、各国企業は戦略的な再構築を迫られている。

米国の輸出規制の進展と影響

2025年に入り、米国は中国企業への直接制裁を拡大し、AIチップを含む先端半導体の提供制限をさらに厳格化した。特にNvidiaの「A800」「H800」など、従来の規制を回避するために設計された“制限緩和モデル”にも規制がかかるようになり、中国市場向けGPUは事実上出荷停止となった。

ところが、こうした規制がかえって中国の技術開発を加速させているとの指摘もある。実際、Baidu、Alibaba、Huaweiなど中国大手テック企業は、自社内でAIチップの共同開発や、ロジック設計ツール(EDA)の国産化を進め、米国製品への依存度を低下させつつあるのだ。

さらに、中国は「チップ・アズ・ア・サービス(CaaS)」のような新たな技術提供モデルを模索し、外部依存の少ないサービス志向型の半導体活用を構想中。規制が想定外の技術イノベーションを刺激しているという意味で、米国側も対中国戦略の再考を迫られている。

日本のキャッチオール規制導入と反響

日本は、2025年5月に外為法に基づく「キャッチオール規制」の拡大により、先端チップ製造に関わる42品目を新たに輸出審査対象に指定した。これには、EUV関連露光装置、超精密洗浄装置、レーザー計測機器、真空冷却部品などが含まれ、事実上の中国特定制限と受け止められた。

これにより、多くの中堅装置メーカーや材料サプライヤが、中国との取引を再検討せざるを得なくなり、短期的な収益悪化と契約見直しが発生している。

しかし、一方で企業からは「規制の適用基準が不明瞭」「透明性が欠如しており判断が困難」といった声も上がっており、政府と民間との足並みの不ぞろいが業界の混乱を招いていることも明らかになった。

サプライチェーンへの影響と各国の対応

米国の輸出ライセンス処理の停滞は、数万件の審査未処理を生み出し、出荷の遅延・キャンセルが頻発している。これにより、GPUや先端SoCを含む製品が、中国向けに輸送される前にストップするケースが急増している。

この混乱を受けて、中国は装置や材料の“内製化”を急ぎながら、調達先の多様化(インド、ASEAN、ロシアなど)を加速。一方、韓国や台湾は“中立的パートナー”として再評価され、取引増を実現している。実際、韓国の2025年7月半導体輸出は前年比39.3%増と急増している。これは、リスク回避型調達と「非中国調達」シフトの象徴といえる動だ。

さらに、TSMCやSamsungの一部顧客は、「中国回避」を前提にサブファブ構築や地域別量産ラインの「ダブルトラック戦略(競合関係にある2つの企業が同じ市場で同時に事業を展開すること)」を導入。日系企業もこれに応じ、製造拠点や物流ネットワークの再構築を迫られる状況にある。

再構築への3つの対応策

1. リスク分散から“機能分散”へ

これは、単に地域的な多様化を図るのではなく、設計、開発、製造、評価、物流といったバリューチェーン機能を複数地域に分散配置するという構想である。

2. 自社主導のコンプライアンス体制や輸出管理ノウハウの社内定着

米中いずれの陣営にも依存しすぎないためには、自社主導のコンプライアンス体制や輸出管理ノウハウの社内定着が重要。これにより、突発的な政策変更にも柔軟に対応可能な「地政学レジリエンス」が確立される。

3. 自国主導の技術体系に向けた布石を打つ

EDA、IP、半導体設計ソフトなど米国主導の技術に依存しない代替技術の開発や、日本・欧州発の標準化規格への参画によって、自国主導の技術体系に向けた布石を打つことが、中長期的には競争力を左右するだろう。

柔軟な発想と対応こそが次世代を支える基盤に

今、経営層やSCM部門、戦略担当者が取るべきは、短期の混乱にのみの対応ではなく、中長期的に強靱かつ柔軟なサプライチェーンと技術体系の設計である。「分断」を避けるのではなく、そこからどうやって自社に有効なルートを再構築していくか——柔軟な発想と対応こそが次世代のサプライチェーンを支える基盤となるのだ。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
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