この会社は、半導体チップを載せて電子機器の基板とつなぐ“ICパッケージ基板”の大手だ。AI向けの高性能チップに使う、大型で配線を何層も重ねた基板を岐阜県の工場でつくり、ハイエンド市場でトップシェアを持つと会社は説明する。
2026年度の上期(4〜9月)は、売上が前年より+34%の2,625億円、1株利益は68.63円(株式分割を考慮)。背景はAIサーバーの需要だ。注目すべきは“伸びの中身”で、基板を扱う電子事業が売上の3分の2を占め、その利益率は3割近くに達した。地域別の内訳は開示がない。会社は通期で売上5,650億円・1株利益157.17円を見込み、予想を引き上げた。
かんたん解説:むずかしい言葉を最小限にして説明します。
●ICパッケージ基板=チップを載せ、機器の基板と電気的につなぐ土台。
●SAP=細かい配線をつくる基板の製法。先端の基板に使う。
●ASIC=特定の用途向けに設計した専用チップ。
●スイッチIC=サーバー同士の通信をさばくチップ。
●前受金=製品を渡す前に、顧客から受け取った代金。
●DPF=ディーゼル車の排ガスから、すすを取り除くフィルター。
●金額=「億円」の概数で示す。会計基準は日本基準(連結)。
| 売上(4〜9月) 2,625億円 前年比 +34% 会社予想 2,535億円を上回る | 営業利益 601億円 前年比 +85% 営業利益率 22.9% | 電子事業の営業利益 500億円 前年比 +97% 利益率 29.0% | 通期の営業利益予想 1,330億円 前期比 +114% 8月予想 1,270億円から上げ | 前受金(9月末) 1,997億円 3月末から +1,188億円 顧客からの前払い |
1. まず結論——AI向け基板が稼ぎ、通期予想も引き上げた
今回のイビデン決算は、伸び率の高さより“需要と供給の釣り合い”に目を向けたい。基板の欲しい量が、つくれる量を上回り始めているからだ。要点は3つだ。
①電子事業がほぼ倍増益。 電子事業の営業利益は前年同期比+97%の500億円で、全社の営業利益の8割超を稼いだ(編集部算出)。生成AI用サーバーと汎用サーバーの両方で、基板の需要が堅調だった。昨年度に量産を始めた大野工場の生産が安定したことも、利益を押し上げた。
②通期予想を上方修正。 会社は通期の営業利益予想を1,270億円から1,330億円へ引き上げた。前期の2倍超にあたる。上期の実績が会社の予想を上回ったうえ、スイッチIC向けの需要拡大も見込むという。下期は、上期を上回る利益を稼ぐ計画だ。
③需要が供給を上回る。 会社は、AI向けの大型基板の需要が業界の供給能力を大きく上回るとみる。新たに約1,510億円の設備投資を決め、顧客からの前受金も半年で約1,190億円増えた。需要の伸びに増産がどこまで追いつけるかが、次の焦点になる。
2. 会社全体の成績——利益が売上を大きく上回って伸びた
売上は2,625億円で前年同期から+34%、営業利益は601億円で+85%と、利益が売上を大きく上回るペースで伸びた。営業利益率は16.7%から22.9%へ上がり、8月に会社が示した上期の予想(売上2,535億円・営業利益545億円)も上回った。純利益は386億円(+75%)。目を引くのは現金の動きで、営業活動で得た現金は1,932億円と前年同期の5倍超に膨らんだ(編集部算出)。会社は、前受金が増加に転じたことを主な理由に挙げる。

図1:半期ごとの売上(棒)と営業利益(線)。下期はさらに伸びるとの会社見通し(緑・点線)。
3. 事業別——電子が牽引、セラミックも増益
イビデンの事業は、ICパッケージ基板の電子事業、自動車の排ガス浄化部品などのセラミック事業、建設や樹脂加工などのその他事業に分かれる。電子事業の売上は1,725億円(+52%)。昨年度に量産を始めた大野工場の生産が安定し、円安も追い風になった。セラミック事業は売上462億円(+16%)、営業利益は+40%の54億円。DPFの一時的な受注増や、半導体製造装置向けの特殊炭素製品の回復が効いた。その他事業は438億円と、ほぼ横ばいだった。

図2:事業別の売上(灰=前年同期、色=今期)。電子が+52%と伸び、全体を引っ張った。
4. 伸びの中身——電子の比率と利益率が、そろって上がった
この決算最大の論点は、電子事業の“重み”の変化だ。全社売上に占める電子の比率は1年で58%→66%に上がり、事業の営業利益率も22.4%→29.0%へ高まった。会社は、生成AI用サーバー向けを中心とする高付加価値品の受注増と、製品構成の良化を理由に挙げる。AI向けの基板は年々大きくなり、配線の層も増えていく。会社資料では、基板の大きさは2025年の80×80から2028年に110×110へ広がる見通しだ。基板1枚の付加価値が上がるほど、同じ工場でも稼ぐ力は強まる(編集部の見立て)。

図3:電子事業の売上比率と営業利益率(灰=前年同期、橙=今期)。どちらも大きく上がった。
5. 地域別——内訳は開示なし、増産の舞台は岐阜
今回の資料には、地域別の売上内訳が載っていない。代わりに注目したいのは、生産能力をどこで増やすかだ。会社は岐阜県大垣市の河間事業場の工場棟(Cell6)を中心に、海外工場も含めて約1,510億円の追加投資を決めた。2029年度から順次稼働する計画だ。同じ岐阜県の大野事業場(Cell8)では、2,800億円の投資で2027年度から稼働を始める。会社の推計では、先端基板の総需要(面積)は2030年に2026年の3.5倍へ膨らむ一方、日本国内の自社能力は約2倍の計画だ(グラフから編集部読み取り)。

図4:先端基板の総需要(棒、2026年=100)と自社の能力増強計画(線)。需要の伸びが能力を上回る。
| 「上方修正」という見出しの内側で起きているのは、AI向け基板の“取り合い”だ。需要は業界の供給能力を大きく上回るとみられ、顧客からの前払いも膨らんだ——イビデンは、その供給の要を握っている。 ワンポイント=イビデンは、AIの頭脳となるチップを“土台”として支える基板メーカー。チップが大きく複雑になるほど、この会社の基板の出番も増える。 |
6. 数字を読むときの注意点
■ 円安の追い風:上期の為替は1ドル159円と、前年同期の145円より円安だった。下期は150円を前提とし、追い風は弱まる。
■ 1株利益は分割後の値:2026年1月と10月に、それぞれ1株を2株に分けた。過去の1株利益や配当は、分割後の株数に置き直して比べる必要がある。
■ 前受金は売上ではない:前受金は先に受け取った代金で、まだ売上や利益にはなっていない。現金の急増を、そのまま業績と読まないようにしたい。
■ 電子の利益に含まない費用:休止中の設備の減価償却費(約17億円)は営業外費用に計上され、電子事業の利益には含まれていない。
7. この先のシナリオ
会社は通期で売上5,650億円(前期比+36%)、営業利益1,330億円(+114%)、純利益890億円を見込む。下期だけで売上3,025億円、営業利益729億円と、上期からさらに伸ばす計画だ。AIサーバー向けと汎用サーバー向けの需要は堅調に推移し、スイッチIC向けの需要も広がるとみる。為替は下期に1ドル150円と、上期より円高を前提とする。2027年度は営業利益の目標を1,650億円へ150億円引き上げ、2030年度には売上1兆円以上・営業利益3,000億円以上(営業利益率30%)を目指す。
8. この先のチェックポイント
■ 大野工場(Cell8)の立ち上げ:AI向けGPUの基板をつくる新工場が、2027年度から計画どおりに稼働するか。
■ 次の追加投資:Cell7・9を含む次の投資を、顧客と条件を固めて2026年度中に決められるか。
■ 下期の利益率:1ドル150円という円高の前提でも、24%台の営業利益率を保てるか。
■ 前受金の行方:顧客からの前払いが、下期以降も積み上がっていくか。需要の強さを測る目安になる。
9. 市場環境
会社は、AI向けのGPUやAI推論専用のASICの市場が、引き続き伸びるとみる。AIが学習から推論、そして自ら動くエージェントへと広がるなかで、サーバー向け高性能CPUの需要見通しも引き上げた。データセンター内の高速通信を担うスイッチICも、高性能化が進む見込みだ。チップが大きく複雑になるほど、その土台となる基板の役割は増す。供給が需要に追いつかない局面では、量産を確実に立ち上げる力そのものが競争力になる(編集部の見立て)。
10. 主要データ



注:本文・カード・図は概数、表は一次資料の値。1株利益は2026年1月・10月の株式分割を考慮した値で、表1の増加率は編集部算出。電子の利益の比率、営業活動による現金の倍率は編集部算出。需要と能力の指数は会社の推計(能力は日本国内のみ)。前期の純利益には政策投資株の売却益(税引後345億円)を含む。
11. 出典・ご注意
■ 出典:イビデン 2027年3月期第2四半期の決算短信、決算説明会資料と関連する適時開示(日本基準・連結)。
■ 見通しは会社の予想:通期予想や中期の目標、需要の推計は会社の見通しで、実際の結果は異なり得る。為替の前提が変われば、利益も上下する。
| 本記事は公表資料にもとづく決算の解説で、投資を勧めるものではありません。中間期の決算短信は、公認会計士または監査法人のレビューの対象外です。1株利益は株式分割を考慮した値です。電子事業の利益の比率などの一部は、会社開示の数値からの編集部の算出です。今回の資料には地域別の売上が含まれておらず、記載していません。金額は「億円」へ概数換算しており、丸めにより合計が一致しない場合があります。投資の判断はご自身の責任でお願いします。 |
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