この会社は、スマートフォンやテレビで知られる韓国の電機大手であり、世界有数の半導体メーカーでもある。計算中のデータを置くDRAMなどの“メモリー半導体”を主力に、他社のチップを請け負ってつくる受託製造も手がける。
2026年の第3四半期(7〜9月)は、売上が前四半期より+14%の195.3兆ウォンと過去最高。営業利益は107.4兆ウォンで、会社は“四半期で100兆ウォンを超えた世界初のテック企業”と説明する。背景はAIだ。注目すべきは“稼ぎの偏り”で、営業利益のほぼすべてを半導体部門が生んだ。地域別の内訳は開示がない。会社は次の四半期の売上・利益の数値見通しを示さず、受託製造の2桁増収などを掲げる。
かんたん解説:むずかしい言葉を最小限にして説明します。
●DS部門=半導体の部門。メモリー・システムLSI・ファウンドリー(受託製造)からなる。
●DX部門=スマホ(MX)・テレビ(VD)・家電(DA)など完成品の部門。
●SDC=子会社のサムスンディスプレイ。スマホやモニター用の画面をつくる。
●HBM=DRAMを積み重ねたAI向けの超高速メモリー。HBM4は最新世代。
●QLC SSD=記憶素子1つに4ビットを詰めた大容量SSD。
●設備投資=工場や製造装置などに使うお金。
●金額=「兆ウォン」の概数で示す。数値は連結ベース。
| 売上(7〜9月) 195.3兆ウォン 前四半期比 +14% 四半期で過去最高 | 営業利益 107.4兆ウォン 四半期で初の100兆超 営業利益率 55% | 半導体(DS)の営業利益 106.5兆ウォン 全社の99% 売上 147.1兆ウォン | 設備投資(7〜9月) 29.0兆ウォン 前四半期比 +12.2兆 2026年通期 約84.4兆 | 2026年の株主還元 90〜110兆ウォン 会社の見込み 7〜9月の配当 30兆 |
1. まず結論——AI向けメモリーが、利益のほぼすべてを稼いだ
今回のサムスン電子決算は、売上の大きさより“どこで稼ぎ、稼いだお金を何に使うか”に目を向けたい。半導体と完成品で、明暗がくっきり分かれたからだ。要点は3つだ。
①利益の99%が半導体。 半導体を担うDS部門の営業利益は106.5兆ウォンで、全社の107.4兆ウォンのほぼすべてにあたる(編集部算出)。スマホや家電などのDX部門は、0.8兆ウォンの赤字だった。完成品の部門はコスト高に押され、増収でも利益を残せなかった。
②メモリーが過去最高。 メモリー事業は、売上・営業利益とも四半期の過去最高を更新した。サーバー向けの強い需要で、あらゆる用途のメモリー価格が上がったと会社は説明する。最新のHBM4の販売も大きく伸ばした。メモリーの値上がりが、そのまま利益の厚みになった形だ(編集部の見立て)。
③工場への投資が急加速。 第3四半期の設備投資は29兆ウォンと、前年同期の約3倍に増えた(編集部算出)。その9割超を半導体に振り向けている。2026年の通期では約84.4兆ウォンを見込む。稼いだ現金を、AI需要に応える新しい工場へ回す姿勢が鮮明だ。
2. 会社全体の成績——売上も利益も、桁違いの水準へ
売上は195.3兆ウォンで前四半期から+14%増え、四半期として過去最高を更新した。前四半期は約171兆ウォンだった計算になる(編集部算出)。営業利益は107.4兆ウォンで、売上の55%が本業の利益として残った(編集部算出)。部門別の売上は、半導体のDS部門が前四半期比+15%、完成品のDX部門が+8%。DX部門は増収でも赤字で、伸びの勢いと稼ぐ力の両方で半導体が全体を引っ張った。第3四半期の配当は1株4,601ウォン、総額30兆ウォンになる。

図1:全社の売上(紺、前四半期は増加率から編集部算出)と今期の営業利益(橙)。利益は売上の半分超。
3. 事業別——半導体が独走、完成品は赤字に沈む
部門別に見ると、差ははっきりしている。DS部門は売上147.1兆ウォン、営業利益106.5兆ウォン。メモリーに加え、スマホの頭脳チップ(SoC)や画像センサーを手がけるシステムLSIも、新機種向けの量産で増収だった。ファウンドリーも、HBMの土台となるチップ(ベースダイ)や先端品の販売増で、売上と利益が大きく改善した。一方、スマホとネットワークの部門は売上37.7兆ウォンで0.6兆ウォンの赤字、テレビと家電は13.9兆ウォンで0.2兆ウォンの赤字だ。ディスプレイのSDCは、1.1兆ウォンの黒字を保った。

図2:部門別の売上(橙=半導体、紺=その他)。半導体だけで他の部門の合計の2倍超を売った。
4. 伸びの中身——量より中身、主役はAI向けメモリー
この決算最大の論点は、メモリーの稼ぎ方だ。会社は、生産能力に余裕がないなかで、AI向け製品を優先する“製品の組み合わせ”の工夫で過去最高を達成したと説明する。つくれる量に限りがあるとき、利益を決めるのは値段と中身だ。サーバー向けの強い需要が、すべての用途の価格を押し上げた。HBM4は業界随一の競争力を背景に販売を大きく伸ばし、サーバー用SSDの需要にも積極的に応えたという。DS部門の営業利益率は約72%に達する(編集部算出)。AIが“売り手市場”をつくっている様子が、数字にそのまま表れている。

図3:部門別の営業損益(橙=半導体)。全社107兆ウォンの利益のほぼすべてを半導体が稼いだ。
5. 地域別——内訳は開示なし、投資は新工場へ向かう
今回の資料には、地域別の売上内訳が載っていない。代わりに先行きを映すのが、設備投資の行き先だ。第3四半期の29兆ウォンのうち、27.2兆ウォンが半導体向けだった。会社は、AIと高性能計算(HPC)の強い需要に応えるため、新しい工場などへ投資すると説明する。2027年には米テキサス州テイラーの新工場が稼働を始め、受託製造の世界的な供給力を強める計画だ。通期計画から逆算すると、第4四半期も約27.5兆ウォンの投資が続く(編集部算出)。

図4:四半期の設備投資(棒)。第4四半期は通期計画から逆算した値(点線)で、高い水準が続く。
| 「100兆ウォン」という見出しの内側で起きているのは、稼ぎの“一極集中”だ。利益のほぼすべてをAI向けメモリーなどの半導体が生み、その現金が工場へ向かう——サムスン電子はいま、半導体の会社としての顔を一段と強めている。 ワンポイント=サムスン電子は、スマホや家電で知られながら、利益の大半をメモリー半導体で稼ぐ会社。AIが広がるほど、そのメモリーの出番も増える。 |
6. 数字を読むときの注意点
■ 前四半期の値は算出値:資料が示すのは前四半期比の増加率だけ。本記事の前四半期の売上(約171兆ウォン)は編集部の算出だ。
■ 部門の合計は全社と合わない:部門の売上を足すと約207兆ウォンで、全社の195.3兆ウォンを上回る。部門間の取引を含むためとみられる。
■ ハーマンに一時的な利益:車載・音響のハーマンは、米国の関税還付という一時的な効果で利益を伸ばした。金額は示されていない。
■ 前年比と1株利益は不明:今回の資料には、全社の前年同期比の増減率や1株利益が載っていない。比べられる物差しが限られる点に注意したい。
7. この先のシナリオ
会社は次の四半期(10〜12月)の売上や利益の数値見通しを示していない。メモリーは、AIの主導権争いでインフラ投資が続くとみる。需要の伸びは新しいCPUやGPUの基盤に関わる製品が中心で、個人向けAIエージェントの広がりでQLC SSDの需要も急増するという。ファウンドリーは2桁の増収を計画し、ディスプレイは年末の需要期でも利益の改善は限られるとみる。2027年については、AIへの設備投資が歴史的な水準に達し、AI由来の需要が業界の供給を大きく上回ると会社は見込む。
8. この先のチェックポイント
■ HBM4の拡大:AI向けの最新のHBMの販売を、第4四半期もさらに伸ばせるか。
■ ファウンドリーの増収:会社計画どおり、第4四半期に2桁の増収と利益の改善を達成できるか。
■ スマホ部門の採算:年末商戦の折りたたみ機などの新機種で、赤字から抜け出せるか。
■ 株主還元の最終額:2027年1月下旬の取締役会で、残り55〜75兆ウォンの使い道が決まる。
9. 市場環境
会社は、AIの利用拡大を背景に、2027年のAIインフラ投資が過去にない規模になるとみる。その前提に立てば、メモリーの“売り手市場”は当面続く公算が大きい(編集部の見立て)。一方、完成品の部門は原材料や物流などのコスト高に苦しみ、テレビの需要も2027年は横ばいか小幅減を見込む。株主還元は2026年に90〜110兆ウォンを見込み、自社株買いと消却を大きく含める方針だ。半導体が稼ぎ、完成品が耐える——その構図のなかで、稼いだ現金を工場と株主にどう配るかが次の焦点になる。
10. 主要データ



注:本文・カード・図は概数、表は一次資料の値。前四半期の売上、営業利益率、半導体の利益の比率、1〜2Q26と前年同期の設備投資、第4四半期の設備投資は編集部算出。部門の売上は合計が全社と一致しない。全社の設備投資はDSとSDC以外を含む。
11. 出典・ご注意
■ 出典:サムスン電子 2026年第3四半期の決算プレスリリース(連結ベースの数値)。
■ 見通しは会社の見込み:需要や投資、株主還元の見通しは会社の予想で、実際の結果は異なり得る。
| 本記事は公表資料にもとづく決算の解説で、投資を勧めるものではありません。「過去最高」「世界初」は会社の説明によるものです。今回の資料には地域別の売上、1株利益、全社の前年比は含まれておらず、記載していません。前四半期の売上などの一部は、会社開示の増加率や累計からの編集部の算出です。金額は「兆ウォン」の概数で、丸めにより合計が一致しない場合があります。投資の判断はご自身の責任でお願いします。 |
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