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SEMICON.TODAY 8 min · 2026.09.01

TSMCの利益77%増ーAI半導体の”製造集中”はさらに強まる

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この記事のポイント
2026年4〜6月期の純利益は前年同期比77.4%増、粗利益率は67.7%と製造業として異例の高さ
7nm以下の先端プロセスがウエハ売上の77%を占め、最新の2nmも3%で計上開始
2026年の設備投資見通しを600億〜640億ドルに引き上げ、米国アリゾナへ1,000億ドルを追加投資
AI需要の利益は「設計企業」だけでなく「製造企業」とそのサプライチェーンにも流れている

2026年7月16日、世界最大の半導体受託製造企業であるTSMC(台湾積体電路製造)は、2026年第2四半期(4〜6月)の決算を発表した。売上高は1兆2,703億8,100万台湾ドル(約402億米ドル)、純利益は7,065億6,200万台湾ドル、希薄化後1株利益は27.25台湾ドル。前年同期比で売上高は36.0%増、純利益と1株利益はそれぞれ77.4%増となった。TSMCは、この業績が先端プロセス技術への強い需要に支えられたと説明している。

数字の大きさもさることながら、今回の決算が示す本質は「AI需要が先端半導体の製造をTSMC一社にますます集中させている」ことにある。同時に発表された設備投資の引き上げと米国への追加投資は、TSMC経営陣がAI需要を一過性のブームではなく、少なくとも数年単位で続く構造的な需要と見ていることを物語る。

本稿では、半導体業界に慣れていない読者にも分かるよう用語を補いながら、この決算を「利益率」「AI需要の流れ」「地政学コスト」「設備投資」「日本企業への示唆」の5つの観点から読み解く。

顧客が設計した半導体チップを、顧客に代わって製造する「ファウンドリ(受託製造)」の世界最大手。NVIDIA、Apple、AMD、Broadcomなど、自社工場を持たない大手が最先端チップの製造をTSMCに委ねている。2024年には熊本県に子会社JASMの第1工場を稼働させ、日本でも知名度が高い。

1. 決算の核心:利益率が示すTSMCの価格決定力

図1TSMC 2026年第2四半期の主要指標売上以上に利益率の高さが際立つ

今回の決算で最も目を引くのは、売上の伸び以上に利益率の高さである。粗利益率67.7%、営業利益率60.3%、純利益率55.6%。一般的な製造業の粗利益率は20〜40%程度であることを考えれば、売上の3分の2以上が粗利益として残る構造は異例と言ってよい。

なぜこれほどの利益率を維持できるのか。答えは「代替先がない」ことにある。3nm、5nm、7nmといった先端プロセスは、設計、製造、歩留まり(良品率)の管理すべてが極めて難しく、最先端チップを安定して大量に作れる企業は世界でもTSMCを含めごくわずかしかない。顧客はTSMCに製造を頼まざるを得ず、TSMCは価格交渉で優位に立てる。これが「価格決定力」である。

粗利益率は「売上から製造にかかった原価を引いた利益」の割合。営業利益率はそこから研究開発費や販売管理費を引いたもの、純利益率はさらに税金などを引いた最終的な利益の割合。数字が高いほど「同じ売上からより多くの利益を残せる」ことを意味する。

もう一つの注目点は、最新世代である2nmが今期からウエハ売上の3%を占め始めたことだ。TSMCは第3四半期について「2nm技術の急速な立ち上がりを含む先端プロセス需要」が事業を支えると説明しており、次世代プロセスがすでに商用段階に入ったことを示している。

2. AI需要は「設計企業」だけでなく「製造企業」にも利益を落とす

図2ウエハ売上のプロセス世代別構成7nm以下の先端プロセスが77

AIブームでは、NVIDIA(エヌビディア)のようにAIチップを設計する企業に注目が集まりやすい。しかし、NVIDIAが設計したGPU(画像処理装置を起源とするAI計算用チップ)を実際に量産するにはTSMCの先端製造能力が欠かせない。AI需要が増えるほど、最終的にはTSMCの工場(ファブ)、先端プロセス、そして先端パッケージング技術に負荷がかかる。

図2が示すように、ウエハ売上の77%は7nm以下の先端プロセスから生まれている。これはTSMCの収益が、AIアクセラレータ、HPC(高性能計算)、スマートフォン向けの先端チップに強く依存していることを意味する。

導体の製造世代を表す呼び名で、数字が小さいほど新しく、回路が微細で高性能・低消費電力になる。1nmは10億分の1メートル。現在の最先端は2nm・3nmで、これらをまとめて「先端プロセス」「先端ノード」と呼ぶ。数字は必ずしも実際の寸法を表すわけではなく、世代名として使われている。

TSMCの強みは、チップ本体を作る「前工程」だけにとどまらない。AIチップでは、演算を担うロジックチップと、大量のデータを高速でやり取りするHBM(広帯域メモリ)を一つのパッケージにまとめる必要がある。TSMCはこの先端パッケージング技術「CoWoS」でも中心的な位置を占めており、前工程と後工程の両方を押さえていることが競争力をさらに高めている。

図3AI需要の利益がどこに流れるか日本企業の主戦場は右端のサプライチェーン

今回の決算は、AI需要の恩恵がチップ設計企業だけに集まるのではなく、製造を握る企業にも大きく流れていることを示した。AI時代の半導体産業では、設計力と同じくらい「作れる能力」と「歩留まり」が価値を持つことになる。

3. 米国追加投資が示す「地政学コスト」

決算と同日、TSMCは米国アリゾナ州へ1,000億米ドルの追加投資を表明した。米商務省によれば、2025年3月に発表済みの1,650億ドルと合わせ、米国投資の総額は2,650億ドル規模となる。追加分では2nm以下の先端ロジック工場と先端パッケージング工場を最大4棟建設し、米国内の拠点は合計12施設になる計画だ。

TSMCにとって米国投資は、単なる生産能力の増強ではない。台湾に集中していた先端製造を米国にも分散することで、米国の大手AI・クラウド企業が抱える地政学リスクを下げる意味がある。顧客にとって、最先端チップの一部を米国内で製造できることは、供給網の安全保障上の価値を持つ。

一方で海外展開にはコストがかかる。人件費、建設費、装置の導入、現地サプライヤの育成、人材の教育訓練。台湾と同じ効率で運営できるようになるまでには時間が必要だ。TSMCは現時点で極めて高い利益率を維持しているが、米国、日本、欧州での展開は将来的に利益率への圧力となり得る。

ここで押さえておきたいのは、AI半導体のコストが装置や材料の価格だけで決まらなくなっている点である。地政学、安全保障、顧客からの調達分散要求といった要素が製造コストに組み込まれつつあるのだ。AIチップの価格には、微細化のコストだけでなく「サプライチェーンを分散させるコスト」も反映されていく。

4. 設備投資600億〜640億ドルが意味するもの

図42026年設備投資見通しと米国投資額の推移いずれも大幅に引き上げられた

TSMCは2026年の設備投資見通しを、4月時点の520億〜560億ドルから600億〜640億ドルへ引き上げた。設備投資とは、工場、装置、クリーンルームなどに投じる資金であり、経営陣が将来の需要をどう見ているかを示す最も分かりやすい指標である。AI需要が短期のブームで終わると見ていれば、ここまで大きな投資拡大には踏み切れない。

投資の配分も明確だ。TSMCは設備投資の70〜80%を先端プロセスに、約10%を特殊プロセスに、10〜20%を先端パッケージング、テスト、マスク製造などに充てると説明している。決算説明会でCEOのC.C.ウェイ氏は、需要は2029〜2030年頃まで非常に強い状態が続くとの見方を示した。

先端工場を1棟建てるには、露光装置、成膜装置、エッチング装置、洗浄装置、検査装置、クリーンルーム、超純水、特殊ガス、薬液など膨大な装置と材料が必要になる。TSMCが投資を増やすと、その注文はASML、Applied Materials、Lam Research、東京エレクトロン、SCREEN、信越化学、JSR、レゾナックといった装置・材料メーカーに波及する。だからTSMCの投資判断は、半導体業界全体の景気を占う先行指標として注目される。

ただし、設備投資の増加は供給能力の増加でもある。AI需要が想定どおり伸び続ければ投資は正当化されるが、需要が鈍化すれば将来的な供給過剰リスクも生まれる。TSMCの強気な投資は、AIインフラ投資の持続性が業界全体に問われる局面に入ったことも示している。

5. 日本企業への示唆:TSMCの強さは日本サプライヤの商機でもある

TSMCの好決算は、日本企業にとって遠い台湾企業の話ではない。先端プロセスの拡大は、日本の材料、装置、部材、検査企業の需要に直結する。とりわけ2nm、3nm、CoWoSでは日本企業が高いシェアを持つ、フォトレジスト(感光材)、CMP材料(研磨材)、洗浄薬液、成膜材料、エッチング装置、検査装置、パッケージ基板、熱対策材料に対する要求水準が高まるからだ。

日本企業が見るべきポイントは、TSMCの投資が「どの工程に向かっているか」である。2nmの立ち上げでは、EUV露光、新しいトランジスタ構造(GAA)、裏面電源供給、微細配線、欠陥検査が重要になる。CoWoSの拡張では、インターポーザ、基板、接合、反り制御、熱対策が鍵を握る。米国拠点の拡張では、現地でのサポート体制、材料供給、装置保守、人材対応も必要になる。

TSMCが強くなるほど、日本企業には二つの道が開ける。一つは、TSMCのグローバル投資に合わせてサプライヤとして深く入り込むこと。もう一つは、熊本のJASMを含む国内エコシステムを通じて、日本の顧客とTSMCの接点を作ることだ。TSMCへの製造集中は、競争上の脅威であると同時に、日本のサプライヤにとって大きな商機でもある。

まとめ:TSMC決算は、AI時代の「製造支配力」を映す

TSMCの2026年第2四半期決算は、AI半導体の需要が製造側に巨大な利益をもたらしていることを示した。純利益は前年同期比77.4%増、7nm以下の先端プロセスはウエハ売上の77%を占め、2nmも売上構成に入り始めた。

見るべきポイントは、AI需要がTSMCへの集中をさらに強めている点だ。GPUやAIアクセラレータを設計する企業が増えても、それを量産できるファウンドリは限られる。前工程と先端パッケージングを同時に押さえるTSMCは、AIインフラの供給制約そのものを握る存在になっている。

日本企業にとっても、TSMCの成長は商機である。材料、装置、検査、基板、熱対策、現地サポートの需要は拡大する。AI半導体の主戦場は設計だけではない。製造能力を支えるサプライチェーンこそが、次の競争力を左右するのである。

用語解説

用語解説
ファウンドリ顧客が設計した半導体を受託製造する企業。TSMCは世界最大の専業ファウンドリで、AIチップやスマートフォン向けチップの製造で中心的な役割を持つ。
先端プロセス(先端ノード)7nm、5nm、3nm、2nmなど、高性能・低消費電力のロジック半導体を作る製造世代。数字が小さいほど新しく、製造難度が高い。
粗利益率売上高から製造原価を差し引いた利益の割合。製造業の実力と価格決定力を示す指標。
HBMHigh Bandwidth Memory(広帯域メモリ)。DRAMを縦に積み重ね、AIチップのすぐ隣に配置して大量のデータを高速にやり取りするメモリ。
CoWoSChip on Wafer on Substrateの略。AIチップとHBMを大きな中継基板(インターポーザ)の上に統合するTSMCの先端パッケージング技術。
EUVExtreme Ultraviolet(極端紫外線)。極めて短い波長の光で微細な回路パターンを焼き付ける露光技術。2nm・3nm製造に不可欠で、装置はオランダのASMLが独占的に供給する。
設備投資(Capex)工場、装置、クリーンルームなどに投じる資金。経営陣の将来需要に対する見方を示す指標として重視される。

参考リンク(出典)

本記事は公開情報(各社プレスリリース、決算資料、報道)に基づき、SEMICON.TODAY編集部が作成した。数値は発表時点のものであり、為替換算は概算。投資判断の勧誘を目的とするものではない。
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