Western Digital(WD)のFY2026 第4四半期(7月3日締め)は、売上高$3,747百万(前年同期比+44%、前四半期比+12%)、GAAP粗利率54.1%(Non-GAAP 54.4%)、GAAP営業利益$1,563百万(利益率41.7%)。Non-GAAP希薄化後EPSは$3.56(前年同期比+109%、前四半期比+31%)だった。2025年2月にフラッシュ事業(SanDisk)を分離した“純HDD専業”として、AI・クラウドのデータ需要でニアラインHDDが牽引し、粗利率は41%台から54%台へ急拡大。ただしGAAP EPS $8.21(+1125%)は保有SanDisk株の評価益(非経常・非現金)で嵩上げされており、実力を映すのはNon-GAAP EPS $3.56である。会社はFQ1 FY2027の売上を約$4.1B(前年同期比+42〜49%)、Non-GAAP EPS $4.00と見込む。

1. 結論——強い本業と、会計上の“見かけ”を切り分ける
まず要点を三つ。第一に、本業は明確に強い。Q4 FY2026の売上は$3,747百万(前年同期比+44%、前四半期比+12%)。SanDisk分離後の“純HDD専業”として、AI・クラウドのニアラインHDD需要を捉え、粗利率は前年同期の41.0%から54.1%(GAAP)へと13ポイント超の大幅改善。Non-GAAP EPSは$1.70→$3.56へ約2倍になった。
第二に、しかしGAAPの見出し数字は割り引いて読む必要がある。GAAP希薄化後EPS $8.21(前年同期比+1125%)は、保有するSanDisk株の時価評価益で大きく嵩上げされている。Q4の「受取利息・その他収益(純額)」$1,684百万の大半がSanDisk評価益(当四半期$2,050百万の益)であり、非経常・非現金の項目だ。事業の実力を映すのはNon-GAAP EPS $3.56である。
第三に、財務は大きく改善した。SanDisk保有株の現金化と債務削減により、有利子負債は前期末の約$4,711百万から$1,052百万へ圧縮され、自己資本は$5,311百万から$8,864百万へ増加。Q4のフリー・キャッシュ・フローは$1,281百万と潤沢で、会社はFQ1 FY2027も増収(前年同期比+42〜49%)と一段のマージン拡大を見込む。
2. 業績の変遷——粗利率41%→54%の急拡大
四半期売上は前年同期$2,605百万、前四半期$3,337百万を経て今回$3,747百万。Non-GAAP粗利率は41.3%→50.5%→54.4%へ一気に切り上がった。会社の説明では、データ生成の加速でクラウド・データ集約型ワークロードが拡大し、需要の「持続性」と「可視性」が高まっている。供給規律と大容量化・ミックス改善が価格・採算を押し上げた。会社はFQ1 FY2027のNon-GAAP粗利率を55〜56%(中央値55.5%)とさらなる改善を見込む。

図1:四半期売上高(百万ドル)とNon-GAAP粗利率(%)。
オレンジ=実績、琥珀の点線=FQ1 FY27見通し(計画、売上約$4.1B・粗利率約55.5%)。
GAAP営業利益は$1,563百万(営業利益率41.7%、前年同期26.1%)、Non-GAAP営業利益は$1,655百万(同44.2%)。稼働と価格の改善が営業段階の利益率を大きく押し上げている。
3. 利益の質——GAAP EPS $8.21の“正体”
この決算で最も注意を要するのが、GAAPとNon-GAAPのEPSの乖離だ。GAAP希薄化後EPSは$8.21だが、Non-GAAPでは$3.56。差の主因は、WDが分離時に保有し続けているSanDisk株の時価評価益である。当四半期はこの評価益が$2,050百万計上され、「受取利息・その他収益(純額)$1,684百万」の大半を占めた。これは営業活動ではなく、保有株式の値動きに伴う非現金の会計上の利益だ。

図2:GAAPとNon-GAAPの希薄化後EPS(Q4 FY26・ドル)。
差の約$4.65はSanDisk評価益等(非経常)。実力はNon-GAAP $3.56(前年比+109%)。
したがって、前年同期比+1125%というGAAP EPSの伸びは“見かけ”であり、事業の実力を測るならNon-GAAP EPS $3.56(前年同期比+109%、約2倍)を見るのが妥当だ。会社もNon-GAAPベースでガイダンスを提供している。SanDisk評価益は保有株の消却・現金化が進めば剥落していくため、今後はGAAPとNon-GAAPの差は縮小していく見込みである。
4. 通期FY2026——“純HDD専業”としての初通期
通期(2026年7月3日締め)は、売上高$12,919百万(前年比+36%)、GAAP粗利率48.9%(前年38.8%、+1010bps)、Non-GAAP営業利益$4,817百万(前年比+107%、営業利益率37.3%)。Non-GAAP EPSは$10.22(前年$5.02、+104%)と倍増した。フリー・キャッシュ・フローは$3,511百万(前年$1,432百万)と大幅増。SanDisk分離後、フラッシュの市況変動を切り離した“純HDD専業”として、需要の強い局面で収益性とキャッシュ創出を大きく高めた初年度となった。

図3:通期業績(売上高・Non-GAAP営業利益、百万ドル)。
売上+36%、Non-GAAP営業利益は+107%。
5. 財政状態——債務を$4.7B→$1.1Bへ圧縮
2026年7月3日時点で、現金及び現金同等物は$1,579百万、総資産は$13,861百万。注目は財務体質の劇的な改善だ。SanDisk保有株の現金化(債務・株式交換や転換社債の一部私的決済)と収益改善により、有利子負債は前期末の約$4,711百万から$1,052百万へ約78%削減され、自己資本は$5,311百万から$8,864百万へ増加した。Q4の営業CFは$1,389百万、設備投資$108百万を差し引いたFCFは$1,281百万。株主還元では自社株買い$672百万、転換社債関連の決済$1,220百万を実施し、四半期配当$0.15も継続する。

図4:財務体質の変化(有利子負債・自己資本、百万ドル)。債務は約78%削減、自己資本は+67%。
6. トピックス——SanDisk分離とバランスシート再構築
■ SanDisk(フラッシュ事業)の分離:2025年2月21日に完了。以降、SanDiskの業績はWDの連結から外れ、過年度は非継続事業として表示。WDは分離時に一部株式を保有し、その時価評価損益がGAAP損益に反映される。
■ 保有株の現金化と債務削減:SanDisk保有株の現金化に伴い、債務・株式交換や転換社債の私的決済などを実施。有利子負債を大幅圧縮し財務基盤を強化。関連費用(債務・資本取引費用)はNon-GAAPで調整。
■ 株主還元:取締役会は1株$0.15の四半期配当を決議(2026年9月17日支払い)。通期の自社株買いは$2,592百万に達した。
■ 事業再編:Q4に事業再編費用$43百万(通期$146百万)を計上。組織・コスト構造の最適化を進めている。
7. 中期の方向性——AIデータ経済のストレージ基盤
会社の説明では、WDは「AI主導のデータ経済における確実性を支えるストレージ基盤」を担う専業として、ハイパースケーラー・クラウド事業者・企業と連携し、大規模で信頼性の高いストレージを供給する。データ生成の加速とクラウド/AIワークロードの拡大を背景に需要の持続性と可視性が高まっているという。CEOは「規模・技術リーダーシップ・オペレーション規律により、構造的なデータ成長機会を捉え、長期的な株主価値を提供できる」と述べる。純HDD専業として、大容量化技術のロードマップとマージン拡大・強いFCF創出が中期の軸となる。
| GAAP EPS $8.21の見出しに惑わされない——SanDisk評価益を除いた実力はNon-GAAP $3.56。だが“約2倍”というその実力こそ、AI・クラウドのニアライン需要が生んだHDD上昇局面の証だ。 用語=ニアラインHDD: データセンターで大容量データを常時保管・アクセスするための高容量ハードディスク。生成AI・クラウドのデータ増で需要が拡大している。 |
8. 市場環境
会社の説明では、世界のデータ生成が加速を続け、クラウドやデータ集約型ワークロードの拡大がニアラインHDDの需要を押し上げている。需要の「持続性」と業績の「可視性」が高まっているとし、さらなるマージン拡大と強いFCF創出に自信を示す。一方、リスク要因として会社は、新たな関税・貿易制限、限られた供給元への依存、需要の変動、景気後退・インフレ・金利、競合と価格、主要顧客との関係変化、地政学リスクなどを挙げている。HDDは供給が寡占的で価格サイクルの影響も受けるため、需給規律の維持が引き続き焦点だ。
9. 今後のチェックポイント
■ FQ1 FY2027の達成度:売上約$4.1B(±$100百万、前年同期比+42〜49%)、Non-GAAP粗利率55〜56%、Non-GAAP EPS $4.00(±$0.15)を実現できるか。
■ ニアライン需要の持続性:AI・クラウドのデータ増に伴う大容量HDD需要と価格・ミックスの改善が続くか。
■ GAAPの正常化:SanDisk評価益の剝落により、GAAPとNon-GAAPのEPS乖離が縮小していくか。今後はNon-GAAPで実力を追跡。
■ FCFと資本配分:強いFCFを背景にした自社株買い・配当と、残る債務の扱い。
■ 供給規律と市況:HDD業界の供給規律が保たれ、価格サイクルの下押しを避けられるか。関税・地政学の影響。
10. 主要データ一覧


注:GAAP EPSはSanDisk保有株の時価評価益(Q4 $2,050百万、通期$6,498百万の益)で嵩上げされており、事業の実力はNon-GAAPで判断するのが妥当。SanDisk分離(2025年2月21日)に伴い過年度は継続事業ベースで表示。FQ1 FY2027は会社の将来見通し(Non-GAAP、前提税率約17%、希薄化後株式数約388百万株)。
11. 出典・免責
■ Western Digital Corporation「WD Reports Fiscal Fourth Quarter and Fiscal Year 2026 Financial Results(News Release)」2026年8月5日(売上・利益・粗利率・EPS・キャッシュ・フロー・財政状態・GAAP/Non-GAAP調整・FQ1 FY2027見通しの一次数値)。
■ 同 決算関連資料(2026年7-8月開示、Form 8-K/決算補足)(財務諸表・調整表)。
■ FQ1 FY2027見通し、需要見通しは会社の開示・見通しであり確定値ではない。市況・関税・為替の変化により実際の結果は異なり得る。
本記事はWestern Digital Corporationの公表資料(US GAAP/Non-GAAP)に基づく決算解説であり、投資勧誘または投資助言を目的としたものではない。将来見通し(FQ1 FY2027)は会社公表資料に基づくもので、実際の業績は変動し得る。Non-GAAP指標は会社が定義する調整後指標であり、GAAPを代替するものではない。GAAPの純利益・EPSはSanDisk保有株の時価評価益(非経常・非現金)を含み、事業の実力とは水準が異なる点に留意されたい。数値は丸め処理により端数が一致しない場合がある。投資判断はご自身の責任で行っていただきたい。