結論:第1四半期の大幅減益と通期の上方修正が同居する「ねじれ決算」であり、読み解く鍵は貸借対照表にある。売上高は1,217億円(前年同期比10.3%減)、営業利益は143億円(同41.1%減)と、減収率の4倍の減益率となった。主力の半導体製造装置事業(SPE)でファウンドリー・ロジック向け装置売上が減少し、固定費の増加が利益を直撃した形である。
ところが会社は同日、通期予想を売上高7,430億円(前回予想比+180億円)、営業利益1,565億円(同+65億円)へ上方修正し、期末配当も8円引き上げた。第2四半期累計予想は据え置きであり、増額分はすべて下期に置かれている。この強気を裏づけるのが先行指標だ。契約負債(前受金)は前期末比+50.3%の1,249億円、棚卸資産は+21.4%の1,926億円、設備投資は前年同期の約4倍の179億円——顧客からの前受けと出荷への仕込みが、損益計算書より先に膨らんでいる。
会社の説明では、生成AI需要を背景に先端ロジック・メモリー向け投資は堅調で、今後も好調な動きが見込まれるという。第1四半期の落ち込みが「需要の減速」ではなく「検収タイミングの偏り」なのかどうか——第2四半期に売上1,952億円(第1四半期比6割増)を織り込む会社計画の達成度が、その答え合わせになる。

2026年4月1日付で1株につき2株の株式分割を実施。
EPS・配当は分割後ベース(前年同期も遡及調整)。
1. 業績の変遷——Q4偏重の季節性と、SPE一極集中の構造
四半期推移を見ると、この会社の業績の「振れ幅の構造」がよく分かる。前期(2026年3月期)は第1四半期1,358億円から第4四半期1,804億円へ尻上がりに拡大しており、装置の検収時期が期末に集中する季節性を持つ。当第1四半期の1,217億円は、その高い第4四半期からの反動という側面と、前年同期比での実質的な減速という側面の両方を含む。

出典:決算短信「事業セグメント別連結売上高」より作成。
前期数値は当期からのセグメント変更後区分に組み替えたもの。
セグメント別では、売上の76%を占めるSPEが931億円(前年同期比15.0%減)・営業利益143億円(同44.0%減)と全社の減益をほぼ一手に引き受けた。会社の説明では、ポストセールス(保守・消耗品等の据付後売上)やDRAM向け装置売上が増加した一方、ファウンドリー・ロジック向け装置売上が減少し、地域別では米国向けが増加、中国・台湾向けが減少した。メモリー(DRAM)と米国が支え、ロジック系と中華圏が沈むという構図は、洗浄装置最大手であるSCREENの顧客ミックスがAIサイクルの中で入れ替わりつつあることを示す。
一方、SPE以外の3セグメントはすべて増収だった。グラフィックアーツ機器(GA)はインク中心のリカーリング(継続課金型)売上の増加で売上138億円(+7.1%)・営業利益14億円(+150.7%)と急改善。ディスプレー製造装置および成膜装置(FT)は装置売上の増加と採算改善で売上108億円(+8.0%)・営業利益12億円(+54.4%)。プリント基板関連機器(PE)は増収ながら固定費増で2.9億円の営業損失となった。なお当期から、新規事業分野の半導体先端パッケージ事業をSCREENファインテックソリューションズに統合し、区分を「その他」からFTへ変更している。チップレット化(複数チップを1パッケージに集積する設計手法)で重要性が増す先端パッケージングを、装置事業の本体に組み込んだ形だ。
減益率が減収率を大きく上回った要因は費用構造にある。売上総利益率は37.7%から35.6%へ低下し、販管費は267億円から289億円へ増加した。研究開発費は101億円(+18.8%)、グループ従業員数は前期末比286人増の7,170人。成長投資の固定費が先行する中で売上が減れば、利益は梃子の逆回転で落ちる。逆に言えば、下期に売上が計画通り伸びれば同じ梃子が順回転する。
2. 会社計画と進捗の読み解き——中間据え置き・増額はすべて下期
通期予想の修正内容を、2026年5月13日公表の前回予想と比べると次のとおりである。

出典:決算短信、および前回予想値は2026年3月期決算短信(2026年5月13日公表)より作成。

注目すべきは修正の「置き場所」である。第2四半期累計は全項目据え置きで、増額分180億円(売上)・65億円(営業利益)はすべて下期に配分された。修正理由は「足元の顧客投資動向など」(決算短信)であり、下期の需要に対する確度が3カ月前より高まったことを示す。通期のセグメント別予想はSPEが6,200億円(前期比+27.6%)と全社成長のほぼすべてを担い、GA600億円、FT430億円、PE165億円である。
ただし進捗率の低さは直視する必要がある。第1四半期実績は修正後通期予想に対し売上高16.4%、営業利益はわずか9.2%。上期予想に対しても売上38.4%、営業利益25.7%にとどまる。裏を返せば、計画は第2四半期に売上1,952億円(第1四半期比+60%)・営業利益416億円(利益率21.3%)、下期に売上4,260億円・営業利益1,005億円(同23.6%)という急傾斜を織り込んでいる。

第2四半期・下期の数値は会社予想(累計・通期)から第1四半期実績等を差し引いた編集部算出値。
この傾斜は無謀な願望ではなく、後述する前受金・在庫の積み上がりという物証を伴う。とはいえ装置ビジネスの検収は顧客都合で四半期をまたぎやすく、達成のカギは下期に集中する出荷・検収を計画通り消化できるかにかかる。なお予想の前提為替は第2四半期以降1米ドル150円・1ユーロ175円である。
3. KPI・先行指標——損益より先に膨らむ「前受け」と「仕込み」
今回の決算で最も雄弁なのは損益計算書ではなく貸借対照表とキャッシュ・フロー計算書である。契約負債(製品引き渡し前に顧客から受け取った前受金)は前期末の831億円から1,249億円へ、わずか3カ月で418億円(+50.3%)増加した。営業キャッシュ・フローの内訳でも契約負債の増加+406億円が最大の収入項目であり、税引前利益153億円を大きく上回る。装置の受注・据付が本格化する前に顧客からの入金が積み上がっている状態だ。

出典:決算短信(四半期連結貸借対照表・連結決算の概要)より作成。
棚卸資産は商品及び製品・仕掛品・原材料及び貯蔵品の合計。
同時に、棚卸資産は1,586億円から1,926億円へ340億円(+21.4%)増加した。内訳では商品及び製品が863億円→1,055億円、仕掛品が550億円→676億円と、完成品・仕掛品の両方が積み上がっており、下期出荷に向けた生産の仕込みと読める。設備投資も第1四半期だけで178億円と前年同期(44億円)の約4倍に達し、通期計画430億円(前期実績277億円)へ向けて研究開発設備等への投資が加速している。研究開発費も通期430億円(前期377億円)を計画する。
組織面でも布石が打たれた。当期に持分法適用会社だったSCREEN SPEプラスティックプレシジョンと、非連結だったSCREEN Advanced Technology Center of America, LLCを連結子会社化し、連結子会社は54社(国内25・海外29)となった。SPE売上で米国向けが増加する中での米国拠点の連結化は、地域ミックスの変化と平仄が合う動きである。
4. 財政状態——総資産7,692億円、ネットキャッシュ2,062億円の無借金型バランスシート
第1四半期末の総資産は7,692億円と前期末比467億円(6.5%)増加した。有価証券(譲渡性預金)800億円を取り崩す一方、現金及び預金が1,473億円から2,122億円へ増加し、棚卸資産も積み上がった。負債側は契約負債と仕入債務の増加で2,718億円(+15.3%)となり、自己資本比率は64.6%(前期末67.4%)へ低下したが、これは前受金という「良い負債」の増加によるものだ。有利子負債はわずか60億円で、ネットキャッシュは2,062億円(前期末比151億円減、配当支払159億円等による)と実質無借金経営を維持している。
キャッシュ・フローは、営業活動が90億円の収入(前年同期69億円)。契約負債の増加+406億円と売上債権の減少+108億円が、棚卸資産の増加△334億円と法人税等の支払△123億円を吸収した。投資活動は100億円の支出、財務活動は配当支払を主因に162億円の支出だった。その他有価証券評価差額金が149億円増加(保有株式の時価上昇)し、包括利益は266億円と純利益の2.5倍に達した点も付記しておく。
5. トピックス——期末配当8円増額、分割後183円へ

出典:「2027年3月期 配当予想の修正に関するお知らせ」(2026年7月28日)より作成。
FY26実績は分割後換算値。
業績予想の修正を踏まえ、期末配当予想を115円から123円へ8円引き上げ、年間183円(中間60円・期末123円)とした。会社は連結配当性向30%以上を基本方針としており、修正後EPS予想608.06円に対する配当性向は30.1%と、方針との整合が取れた機械的な増額である。分割後換算の前期実績146.5円からは24.9%の増配となる。業績連動の還元方針は、通期予想の増額がそのまま株主還元の増額に直結することを意味し、今後の予想修正の都度、配当も連動して動く構造だ。
6. 中期方針——固定費を「先に」積む成長投資フェーズ
本決算資料に中期経営計画の数値目標への言及はないが、資料から読み取れる中期的な方向性は明確である。第一に投資の加速。設備投資は通期430億円(前期比+55%)、研究開発費も430億円(同+14%)と、いずれも過去実績を大きく上回る計画であり、第1四半期の減益要因となった固定費増はこの投資フェーズの裏返しである。第二に事業ポートフォリオの再編。先端パッケージ事業のFTへの統合は、前工程洗浄で培った技術を後工程・パッケージング領域へ展開する布石と位置づけられる。第三に株主還元の制度化。配当性向30%以上という明示的な方針の下、業績拡大と還元拡大を連動させている。成長投資と還元を両立させる原資は、ネットキャッシュ2,062億円の健全な財務基盤である。
7. 市場環境——生成AIが牽引、中華圏とFPDは持ち直しの途上
会社の環境認識はこうだ。半導体業界では生成AIの需要拡大を背景に、微細化やチップレット化を含む先端パッケージングなど省エネ高速半導体開発の重要性が高まり、先端ロジック・メモリー向け投資は堅調に推移、今後も好調な動きが見込まれる。FPD(ディスプレー)業界ではディスプレー需要が持ち直し、パネルメーカーの設備投資意欲に回復が見られる。一方、世界経済は中国など一部地域で足踏みが見られ、中東の地政学リスクの高まりで先行き不透明な状況が続く——。第1四半期に中国・台湾向けSPE売上が減少した実績と、下期回復を見込む通期計画は、この「先端向けは強いが中華圏は踊り場」という認識の上に立っている。
8. 今後のチェックポイント
- 第2四半期の計画達成度。売上1,952億円(第1四半期比+60%)・営業利益率21.3%への急回復を織り込む。検収の期ずれが生じれば通期の傾斜はさらにきつくなる。
- 契約負債の「消化」。1,249億円まで膨らんだ前受金が、下期にかけて売上へ転換されるペース。次四半期以降の契約負債残高の推移は受注環境の最良の代理指標となる。
- SPEの地域ミックス。減少した中国・台湾向けの底入れ時期と、増加する米国・DRAM向けの持続力。米国子会社連結化後の展開も含めて注視。
- 固定費と操業度のバランス。人員増・研究開発費・設備投資の先行負担を、下期の増収でどこまで吸収し利益率を回復できるか(計画は下期営業利益率23.6%)。
- 為替前提1米ドル150円。円高が進行した場合は下振れ要因となる。海外売上高比率は86.7%と高い。
- レビュー後短信(8月13日開示予定)。本決算はレビュー前であり、公認会計士レビューを経た確定値の開示を確認したい。
9. 主要データ一覧

セグメントの前年同期値は変更後区分への組替値。億円表示は百万円開示の換算(切捨てベース)。
増減率は決算短信の開示値。
出典・免責
本記事は、以下の会社開示資料に基づき作成した。
1. 株式会社SCREENホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年7月28日)※決算補足資料(連結決算の概要・事業セグメント別連結売上高)を含む
2. 同「2027年3月期 配当予想の修正に関するお知らせ」(2026年7月28日)
3. 同「Consolidated Financial Report for the First Quarter Ended June 30, 2026 (under Japanese GAAP)」(2026年7月28日)
4. 同「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年5月13日)※前回業績予想値および2025年3月期実績の参照(会社ウェブサイト掲載の原本により確認)
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券の取得・売却等を勧誘するものではない。記載した業績予想・配当予想・市場環境の見通しはすべて会社公表資料に基づくものであり、既知・未知のリスクや不確実性により実際の結果と大きく異なる可能性がある。本四半期決算短信は公認会計士等によるレビュー前のものであり、レビュー報告書を添付した短信は2026年8月13日に開示予定と会社は注記している。投資に関する最終判断は、読者自身の責任において行っていただきたい。数値は原則として百万円単位の開示を億円に換算している。
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