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退職者の音声を無断でAI学習・配音に利用、中国の裁判所が人格権侵害と認定し賠償命令

2026.11.03
この記事を読むのにかかる時間: 3 分

この記事のポイント

  • 中国杭州市の裁判所が、退職者の音声を本人の同意なくAI学習・商用利用した企業に対し、人格権侵害を認定しました。
  • 被告企業には侵害行為の停止、2万元の経済損失賠償、および書面による謝罪声明の提出が命じられました。
  • AIで生成された音声であっても、本人の特徴を識別できる場合は音声権の保護対象となることが明確化されました。
  • 契約上、企業が著作権を保有していても、人格権に基づく音声のAI化利用権まで含まれるわけではないと判断されました。

退職者の音声をAI化してキャラクター配音に無断利用

浙江省杭州市浜江区人民法院(裁判所)は先日、退職した従業員の音声がAI化されて使用されたことによる人格権侵害の訴訟について判決を下しました。裁判所は、被告である杭州理某文化科技有限公司(以下、理某文化公司)が、原告である周某氏の事前の同意を得ずに、動画やソフトウェアのキャラクターに同氏の音声をAI化して利用した行為を音声権の侵害と認定しました。これにより、被告に対して権利侵害行為の停止、経済損失2万元の賠償、および書面による謝罪声明の提出を命じました。

周某氏はかつて理某文化公司の従業員であり、両者は2022年4月1日に契約期間を2023年3月31日までとする労働契約を締結していました。周某氏は「バーチャルアーティスト」部門に配属され、ライブ配信や動画制作などの業務を担当していました。なお、労働契約の付属文書である「秘密保持および知的財産権契約」には、在職期間中に生じた知的財産権およびその他の財産的権利は会社に帰属する旨が規定されていました。

2023年8月、理某文化公司は社内テストの緊急対応を理由に、周某氏に対して「梦珑-周某-音声使用およびAI訓練プロジェクト」に関する素材の録音への協力を指示しました。この際、正式な協力契約は締結されず、周某氏が契約締結や許諾料について会社側と協議したものの、明確な回答は得られませんでした。

その後、2024年9月に周某氏は、同社が自身の音声素材を無断でAIに学習させ、プロジェクト「梦珑」のキャラクター配音として、ライブ配信、商業施設での展示、Steamでの商品公開などの用途に利用している事実を確認しました。周某氏は音声権の侵害および人格権の侵害にあたるとして、侵害の停止、経済損失10万元の賠償、謝罪を求めて提訴しました。これに対し被告側は、周某氏が録音した音声などの録音物に対して著作権を有しており、合法的な利用であると主張していました。

AI音声の「識別可能性」と民法典に基づく保護

裁判所での審理において、本件の核心的な争点は「AI化された音声が法的な音声権の保護範囲に含まれるか否か」、そして「録音物の著作権と人格権の境界をどのように整理するか」にありました。

民法典の規定では、自然人の音声保護は肖像権保護の関連規定を準用するものとされており、法的な保護の前提として「識別可能性(本人のものと特定できる性質)」が求められます。本件において、AI処理を経た音声は周某氏の語調や発音スタイルなどと極めて高い一致性を示しており、一般の人々に対して周某氏に関連する意識や感情を想起させ、同氏の主体としての同一性を識別できると認められました。したがって、AI処理された音声であっても周某氏の音声権の保護範囲に含まれ、民法典による保護を受けると判断されました。

著作権の帰属は「人格権の許諾」を意味しない

また裁判所は、理某文化公司が周某氏の録音物に対して著作権を有していたとしても、知的財産権の帰属に関する合意には人格権に関する権利が含まれておらず、周某氏の音声をAI化して利用する権限が当然に認められるわけではないと指摘しました。

実際、理某文化公司は周某氏と音声の利用許諾について過去にやり取りを行っており、AI学習および利用には別途の許諾と対価の支払いが必要であることを明確に認識していました。それにもかかわらず、本人の同意を得ずに動画やソフトウェアのキャラクターへ音声をAI化して利用した行為には正当な権原がなく、音声権の侵害にあたると結論付けられました。なお、一審判決後、双方は上訴を行っていません。

AI時代の音声利用における法的境界線

人工知能技術の急速な発展に伴い、音声素材のAI学習や音声合成は、バーチャルキャラクターや自動音声案内などの用途で幅広く活用されるようになっています。一方で、制作コストの低減やコンテンツ生成の効率化を優先するあまり、他人の音声を無断でAI学習させて商用利用するなど、人格的要素としての法的保護を軽視するケースが散見されます。

本判決は、技術がいかに進化しても人格権の属性は変わらず、AI音声であっても「識別可能性」があれば保護されるという原則を示しました。企業が著作権を有していることを口実に、個人の音声権を侵害することは認められません。自然人の音声データをAI学習や商用利用に用いる際は、必ず事前に明確な同意を取得する必要があるという法的リスクを再認識させる事例となりました。

出典: 元記事を読む

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