| この記事のポイント ✓Samsung ElectronicsとBroadcom(ブロ-ドコム)は7月25日、メモリとファウンドリの技術にまたがる戦略的協業を拡大する覚書(MOU)を締結 ✓両社は協業の規模を2030年までの5年間で2,000億ドル超と試算。メモリではBroadcomの次世代AIアクセラレータ向けにHBMを供給、ファウンドリでは2nm以下のプロセスで通信チップを製造 ✓Broadcomはクラウド大手向け「カスタムAI半導体」の設計で中心的な企業。Samsungにとってはメモリとファウンドリを一体で売り込む足がかりになる ✓AI半導体の競争は、個別部品の売買から「メモリ・製造・実装を一体で提案する」総合戦へ |
2026年7月25日、Samsung Electronics(サムスン電子)とBroadcom(ブロードコム)は、メモリおよびファウンドリ技術にまたがる戦略的協業を拡大する覚書(MOU)を締結したと発表した。サンフランシスコで開かれたAIサミットの場で公表され、Samsungファウンドリ事業部トップのハン・ジンマン氏、Broadcomのホック・タンCEO、両社幹部に加え、韓国政府の関係者も同席した。両社は協業の規模を、2030年までの5年間でメモリとファウンドリを合わせ2,000億ドル超と見込んでいる。
発表によれば、メモリ分野ではBroadcomの次世代AIアクセラレータを支えるHBMを含む先端メモリの供給で協業する。ファウンドリ分野では、Samsungの2nm以下のプロセス技術を使い、無線ブロードバンド通信(WBC)向けを含むBroadcom製品を製造する。
本稿では、Broadcomという企業がなぜAI半導体の鍵を握るのかを解説したうえで、Samsungの狙い、HBM供給の意味、実行力の課題、そして日本企業への示唆を読み解く。
そもそもBroadcomとは
米国の半導体・ソフトウェア大手。ネットワーク用の通信半導体で高いシェアを持つほか、GoogleやMetaなどクラウド大手が自社AI向けに設計する「カスタムAI半導体(ASIC)」の開発パートナーとして知られる。NVIDIAのような汎用GPUとは異なる「専用チップ」の分野で中心的な存在。
1. Broadcomが重要な理由:カスタムAI半導体の主役

図1:カスタムAI半導体のエコシステム。設計パートナーとしてのBroadcomの位置
AIデータセンターでは、NVIDIAの汎用GPUだけでなく、クラウド事業者ごとの用途に合わせたカスタムAIアクセラレータが増えている。Googleが自社のAI向けに開発してきたチップはその代表例で、Broadcomはこうした専用チップの設計、IP(回路設計資産)、パッケージングを支える役割を担ってきた。
専用チップは、必要な機能だけに絞れるため電力効率に優れ、大量に使うクラウド事業者にとってはコスト面でも有利になる。一方で、チップの製造をファウンドリに依頼し、HBMをメモリメーカーから調達し、それらを一つのパッケージに実装する工程は、自力で確保しなければならない。Broadcomは、この「設計から実装まで」を顧客に代わって束ねる企業である。だからこそ、Broadcomと組むことは、その先にいるクラウド大手のAI投資に連なることを意味する。
やさしく解説:ASIC(特定用途向け集積回路)
特定の用途に合わせて設計された専用チップ。汎用GPUがどんな計算にも対応できる「万能ナイフ」だとすれば、ASICは一つの作業に特化した「専用工具」。AIの推論や学習の特定の処理に最適化することで、消費電力あたりの性能を高められる。
2. Samsungの狙い:メモリだけでなくファウンドリも売る

図2:Samsung×Broadcom協業の構図。メモリ・製造・実装を一体で提案する
Samsungにとって、Broadcomとの協業はHBMの供給先を広げるだけでなく、ファウンドリ事業の巻き返しにつながる。SamsungはDRAM、NAND、HBMを持つ世界最大級のメモリメーカーであると同時に、Samsung Foundryとして先端ロジックの受託製造も手がける。しかし先端ファウンドリではTSMCとの差がまだ大きく、有力顧客の獲得が課題だった。
今回の発表で注目されるのは、ファウンドリ分野の協業が「2nm以下」を対象にしている点だ。まず通信チップ(WBC)で実績を作り、将来的にはAIアクセラレータ本体の製造にも広げる。そのために、HBMという「今すぐ必要とされる部品」を入り口にして、ファウンドリと先端パッケージングまで含めた一体提案を行う。メモリとファウンドリの両方を持つSamsungだからこそ可能な戦略である。
Samsungは発表の中で、AIがメモリ、ロジック、先端パッケージングを緊密に統合した半導体技術への需要をかつてない規模で生み出していると述べている。今回の協業は、その統合を一社で提供する体制を示したものだ。
3. HBM供給が協業の中核になる
AI半導体において、HBMは最重要部品の一つである。Broadcomが次世代AIアクセラレータを設計する際、HBMの帯域、容量、消費電力、パッケージとの互換性を前提に設計する必要がある。HBMは後から差し替えられる部品ではなく、チップの設計段階から組み込まれる部品だ。
これはメモリメーカーにとって、顧客の製品ロードマップに早い段階で入り込むことの重要性を意味する。設計段階で採用が決まれば、そのチップが量産される数年間にわたって供給が続く。逆に設計段階で外れれば、その世代では取り返せない。Samsungが政府関係者同席のもとで大型の協業を発表した背景には、HBM市場で先行するSK hynix(SKハイニックス)に対し、次世代品では設計段階から食い込むという意志がある。
やさしく解説:なぜHBMは「後から替えられない」のか
HBMはAIチップと同じパッケージの中に、インターポーザを介して物理的に一体化される。電気的な接続の仕様、発熱、実装の高さまで設計時に決まるため、量産が始まってから別社のHBMに切り替えるのは実質的に不可能。だからメモリメーカーは「設計の入口」で採用されることを競う。
4. サブ2nmと先端パッケージングの実行力が問われる
両社は2,000億ドル超という規模だとしているが、これはあくまで試算であり、確定した受注額ではない。MOU(覚書)は法的拘束力のない合意であり、実際の取引は今後の個別契約で決まる。ここで問われるのは実行力なのだ。
2nm以下の先端プロセスでは、歩留まり、性能、消費電力、設計サポート、パッケージングの総合力が必要になる。Samsungが2nm以下でBroadcomの通信チップを安定して量産し、さらにAIアクセラレータ本体の製造へ広げられるかどうかは、今後2〜3年の実績で判断される。HBMについても、Broadcomの次世代アクセラレータの要求仕様を満たす製品を、必要な時期に必要な量だけ供給できるかが試される。
5. 日本企業への示唆:「統合提案」の時代へ
Samsung×Broadcom協業は、日本企業にとっても重要な示唆を持つ。AI半導体のサプライチェーンは、個別部品の寄せ集めではなく、ロジック、メモリ、パッケージング、基板、熱、電源を一体で最適化する方向へ進んでいる。装置や材料を「単品」で売るだけでなく、顧客の統合設計の中でどう位置づけられるかを意識する必要がある。
具体的には、先端パッケージングに使う基板、インターポーザ材料、接合材料、放熱材料、封止材、検査装置は、ロジックとHBMを一体化する工程で不可欠だ。Samsungが先端パッケージングを協業の柱に含めた以上、韓国の後工程投資は拡大する。日本企業は、Samsung、Broadcom、そしてその先のクラウド大手の統合設計に早期に関わるほど、次世代の供給網に入り込みやすくなる。
まとめ:AI半導体は、メモリ・製造・実装の総合戦に
SamsungとBroadcomの協業拡大は、AI半導体の競争が統合型へ進んでいることを示す。HBMを入り口に、2nm以下のファウンドリ、先端パッケージングまでを一体で提案するSamsungの戦略は、メモリとロジックの両方を持つ企業ならではのものだ。
2,000億ドル超という数字は試算であり、実行力はこれから問われる。しかし方向性は明確である。顧客のロードマップに早く入り込んだ企業が、次世代AI半導体の供給網を握る。日本企業もまた、統合提案の中での自らの位置を早く決める必要があるのである。
用語解説
| 用語 | 解説 |
| MOU | Memorandum of Understanding(覚書)。協業の方向性を確認する合意文書で、通常は法的拘束力を持たない。個別の契約は別途結ばれる。 |
| カスタムAI半導体/ASIC | 特定の用途に合わせて設計された専用チップ。クラウド大手が自社AI向けに開発し、Broadcomなどが設計を支援する。 |
| ファウンドリ | 顧客が設計した半導体を受託製造する事業。TSMC、Samsung Foundry、Intel Foundryなどが代表例。 |
| HBM | High Bandwidth Memory(広帯域メモリ)。DRAMを縦に積層し、AIチップの隣に配置する高帯域メモリ。設計段階から組み込まれる。 |
| 先端パッケージング | 複数の半導体チップを高密度に接続し、一つの高性能システムとして動かす実装技術。AIアクセラレータとHBMの統合で重要になる。 |
| 2nm以下(サブ2nm) | 現時点で最先端の製造世代。Samsungは2nm以下のプロセスでBroadcom製品を製造する計画。 |
| WBC | Wireless Broadband Communications。無線ブロードバンド通信向けの半導体。今回のファウンドリ協業の当初対象。 |
参考リンク(出典)
- Samsung Newsroom:Samsung Electronics and Broadcom Expand Strategic Collaboration Across Memory and Foundry Technologies(2026年7月25日)
- Samsung Semiconductor:同発表
- Broadcom:同発表
- New Electronics:Samsung and Broadcom agree to expand AI chip partnership
本記事は公開情報(各社プレスリリース、決算資料、報道)に基づき、SEMICON.TODAY編集部が作成した。数値は発表時点のものであり、為替換算は概算。投資判断の勧誘を目的とするものではない。
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