| この記事のポイント ✓キオクシアとSandisk(サンディスク)は8月12日、AIインフラ向けの高性能2Tb QLC「第9世代」3Dフラッシュメモリ技術を発表 ✓既存のメモリセル技術に最新のCMOS回路を組み合わせ、6プレーン化とインターフェース4.8Gb/s(第8世代比33%向上)で高速化。投資効率の高さが特徴 ✓8日前の8月4日には332層で業界最高のビット密度を実現する「第10世代」QLCも発表しており、「早く出す」と「密度を上げる」の二正面作戦 ✓AIデータセンター向けSSDは、容量単価だけでなく性能・電力効率・信頼性・供給安定性で選ばれる市場へ |
2026年8月12日、キオクシアとSandiskは、AIインフラのストレージ需要拡大に対応する高性能2Tb QLC「第9世代」3Dフラッシュメモリ技術を発表した。QLCはQuad-Level Cellの略で、一つのメモリセルに4ビットの情報を保存するNAND技術である。両社はこの技術を「アーキテクチャの革新によって、AIが求める速さでストレージを進化させつつ、投資効率の高い製造を可能にするもの」と位置づけている。
注目すべきは、この発表がFMS 2026で8月4日に公表された「第10世代」QLC技術と対をなしている点だ。第10世代が332層への高層化で密度を追求するのに対し、第9世代は既存のセル技術を活かして性能を高め、早く市場に投入することを狙う。世代番号が前後して見えるが、両者は狙いの異なる二つの製品ラインである。
本稿では、NANDとQLCの基礎から説き起こし、二つの発表の関係、AIストレージ市場の変化、日本企業への示唆を解説する。
そもそもキオクシアとSandiskの関係
キオクシアは旧東芝メモリを前身とする日本のNAND型フラッシュメモリ大手。米Sandisk(2025年にWestern Digitalから分離独立)とは三重県四日市と岩手県北上の工場を共同で運営し、NAND技術も共同開発している。今回の発表も両社連名で行われた。
1. NANDとQLC:1つのセルに何ビット入れるか

図1:セルあたりのビット数と制御の難しさ。
QLCは大容量・低コストだが設計難度が高い
NAND型フラッシュメモリは、電源を切ってもデータが消えない「不揮発性メモリ」で、SSD、スマートフォン、データセンターの保存領域に使われる。データは「セル」と呼ばれる微小な記憶素子に電荷をためる形で保存され、電荷の量(電圧レベル)の違いを読み分けることで0と1を区別する。
1つのセルに何ビットを入れるかで、NANDはSLC(1ビット)、MLC(2ビット)、TLC(3ビット)、QLC(4ビット)に分類される。QLCは1セルに4ビットを保存するため、同じセル数でTLCの1.33倍のデータを記録でき、容量あたりのコストを下げやすい。
一方で代償もある。4ビットを区別するには16段階の電圧レベルを読み分ける必要があり、書き込み速度、書き換え耐久性、誤り訂正の設計難度がTLCより格段に上がる。「安い大容量」であるQLCを、AIサーバーが求める高速・高信頼のストレージとして使えるようにすること。それが今回の技術開発の核心である。
2. 第9世代の特徴:既存セル+最新回路で「早く、効率よく」

図2:第8・第9・第10世代の比較。8月の二つの発表は狙いが異なる
第9世代2Tb QLCの最大の特徴は、実績のあるメモリセル技術(セルアレイ)を土台に、最新のCMOS技術で作った回路ウエハを貼り合わせる「CBA(CMOS directly Bonded to Array)」アーキテクチャを採用した点にある。セル側は既存プラットフォームを使い、回路側だけを最新化することで、開発期間と設備投資を抑えながら性能を引き上げる。
具体的な改善点として、両社は前世代の第8世代2Tb QLCに比べ、6プレーン構成による読み書き帯域の向上、読み書きの電力効率の改善、そしてNANDインターフェース速度4.8Gb/s(第8世代比33%向上)を挙げている。キオクシアのCTO(最高技術責任者)は、実績あるセル技術と最新CMOS技術の組み合わせにより、投資コストを比較的低く抑えつつ高性能を実現できると説明した。
やさしく解説:プレーンとインターフェース速度
「プレーン」はNANDチップ内部で同時並行に読み書きできる区画のこと。4プレーンより6プレーンの方が同時に動かせる区画が多く、帯域が上がる。「インターフェース速度」はNANDチップとSSDのコントローラの間でデータをやり取りする速さで、これが遅いといくらセルが速くてもSSD全体の性能は出ない。
3. 第10世代との関係:「早く出す」と「密度を上げる」の二正面作戦
一方、8月4日にFMS 2026で発表された第10世代QLC技術は、332層への高層化とレイアウトの最適化によって、第8世代比で最大60%のビット密度向上、37Gb/mm²超という業界最高の密度を達成したとされる。こちらもCBA構造を採用し、インターフェース速度は第9世代と同じ4.8Gb/sだ。
つまり両社は、①既存セルを活かして早期に高性能品を出す「第9世代」と、②新しい高層セルで容量単価を下げる「第10世代」を並行して進めている。AI需要は待ってくれないため、密度向上を待たずに性能面の要求に応える製品を先に出す。設備投資の負担を分散しながら製品ロードマップを途切れさせない、現実的な戦略と言える。
やさしく解説:ビット密度(Gb/mm²)
1平方ミリメートルあたりに何ギガビットのデータを保存できるかを示す指標。密度が高いほど同じウエハからより多くの容量を作れるため、容量あたりのコストが下がる。NANDメーカーの競争力を測る最も基本的な数字の一つ。
4. AIストレージはNANDメーカーの収益構造を変える
NAND市場は、スマートフォン、パソコン、消費者向けSSDの需要サイクルに左右され、価格の乱高下を繰り返してきた産業である。これに対し、AIデータセンター向けSSDは、より付加価値の高い市場になり得る。顧客は単に安い容量を求めるのではなく、性能、信頼性、長期供給、ファームウェア、電力効率を重視するからだ。
生成AIの学習では膨大なデータセットを高速に読み出す必要があり、推論ではモデルや中間データを保持するストレージの遅延が応答速度に直結する。SandiskのCTO(最高技術責任者)のアルパー・イルカバハル(Alper Ilkbahar)氏は、AIの学習・推論やハイパースケール(超大規模)データセンターの負荷が、ストレージ業界に容量・性能・電力効率の同時向上を迫っていると述べている。「容量単価」だけで選ばれる市場から、総合力で選ばれる市場へ。今回の発表が「高性能」を前面に出したのは、この変化を反映している。
5. 日本企業への示唆:AIストレージは材料・装置・SSD設計の総合戦
キオクシアの第9世代・第10世代QLCは、日本企業にとって重要なテーマである。四日市と北上の工場は日本国内にあり、NANDの高密度化と高速化には、成膜、エッチング、洗浄、検査、CMP、ウエハ接合、コントローラ設計、ファームウェアの技術が総合的に関わる。
とりわけCBAのようなウエハ接合構造が主流になると、接合装置、接合前後の表面処理、接合後の検査、貼り合わせ用の材料といった新しい需要が生まれる。また、AI向けSSDではNANDチップだけでなく、コントローラ、DRAMキャッシュ、電源、放熱、筐体の設計力が問われる。日本企業にとってAIストレージは、NAND製造から材料、装置、検査、SSD設計までをまたぐ商機である。
まとめ:QLCは「安い大容量」からAIストレージの中核へ
キオクシアとSandiskが2026年8月に相次いで発表した第9世代・第10世代QLC技術は、AIストレージ需要の拡大を正面から捉えたものだ。既存セルを活かして早期に高性能品を出す第9世代と、332層で密度を追求する第10世代の二正面作戦は、AI需要の速さと設備投資の負担を両立させる現実解である。
QLCはもはや「安い大容量」の代名詞ではない。AIデータセンターが求める性能・電力効率・信頼性を備えたストレージの中核技術になりつつある。日本企業にとって、その製造と周辺技術は大きな商機だ。
用語解説
| 用語 | 解説 |
| NAND型フラッシュメモリ | 電源を切ってもデータを保持できる不揮発性メモリ。SSD、スマートフォン、データセンター向けストレージなどに使われる。 |
| QLC | Quad-Level Cell。1つのメモリセルに4ビットを保存するNAND技術。容量単価が低い一方、制御の難度が高い。 |
| TLC | Triple-Level Cell。1セルに3ビットを保存する現在の主流技術。QLCより高速・高耐久だが容量単価は高い。 |
| 3Dフラッシュ/層数 | メモリセルを垂直方向に積み重ねたNAND。層数が多いほど同じ面積に多くのデータを保存できる。 |
| CBA | CMOS directly Bonded to Array。メモリセルのウエハと制御回路(CMOS)のウエハを別々に作って貼り合わせるキオクシア・Sandiskのアーキテクチャ。 |
| プレーン | NANDチップ内部で並列に読み書きできる区画。数が多いほど帯域が上がる。 |
| ビット密度 | 1mm²あたりに保存できるビット数。容量あたりのコスト競争力を示す。 |
| ハイパースケールデータセンター | クラウド大手が運営する超大規模データセンター。AI学習・推論の主要な舞台。 |
参考リンク(出典)
- キオクシア:Kioxia and Sandisk Unveil New High-Performance QLC 3D Flash Memory Technology Designed for AI and Data-Intensive Applications(2026年8月12日)
- Sandisk:同発表
- キオクシア:New 3D Flash Memory Technology from Kioxia and Sandisk Achieves Industry’s Highest Bit Density for QLC NAND(2026年8月4日)
- Sandisk:同発表(8月4日)
本記事は公開情報(各社プレスリリース、決算資料、報道)に基づき、SEMICON.TODAY編集部が作成した。数値は発表時点のものであり、為替換算は概算。投資判断の勧誘を目的とするものではない。
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