AI半導体の競争では、GPU、HBM、先端パッケージ装置といった表に見えやすい領域へ関心が集まりやすい。もっとも、2025年後半から2026年初にかけての各社開示を並べると、先端実装の量産安定性を左右する論点が、接合直前の表面平坦化、異物低減、工程変動の抑制といった、より基盤的な工程条件へ広がっていることがうかがえる。
Applied Materials(アプライド・マテリアルズ)は2025年10月、先端ロジック、HBMを含む高性能DRAM、先端パッケージをAI向けの重点領域として示し、ハイブリッドボンディング対応の統合型ダイ・ツー・ウェハ装置を打ち出した。複雑化するチップパッケージが量産課題を生んでいるという同社の説明は、競争の焦点が接合装置単体ではなく、接合前後を含む工程条件の作り込みへ広がっていることを示している。
その文脈で改めて重みを増しているのがCMPである。CMPは従来、前工程の定番工程として理解されることが多かったが、ハイブリッドボンディングの広がりに伴い、接合可能な面を成立させるための「最後の平坦化」として見直されつつある。もちろん先端パッケージの歩留まりや性能はCMPだけで決まるものではない。それでも、平坦化、洗浄、異物管理、表面保護の出来が、接合後の安定性を支える前提条件として一段と意識されていることは、最近の企業開示から読み取れる。
本稿では、この重みを増してきているCMPが、今後のAI半導体に対し、どのような役割を持つ存在になっていくのかを考察する。
富士フイルムが先端パッケージ向け材料を投入

この変化を最も分かりやすく示したのが富士フイルムの動きである。2025年9月29日、同社はハイブリッドボンディングを支える先端パッケージ向けCMPスラリの投入を公表した。同社のリリースでは、この製品が大手半導体デバイスメーカーに採用されたことに加え、銅と酸化膜が共存する接合面に対応するため、添加剤、防食剤、砥粒の設計を最適化したとしている。
ここで重要なのは、CMPが単なる前工程材料としてではなく、接合面そのものの成立性を左右する材料として明示された点にある。富士フイルム自身も、CMPスラリは前工程で主に使われてきた一方、近年は複数チップを接合する先端パッケージ工程での用途が増えていると説明している。
さらに同社は、この新製品を再配線層やマイクロバンプなど各種先端パッケージ材料へ広げていく方針も示した。加えて、CMPスラリの生産拠点を米アリゾナ、台湾・新竹、台南、韓国・天安、熊本に持ち、2026年春にはベルギーでも新工場の稼働を予定するとしている。先端実装では、材料性能だけでなく、顧客近傍での開発、品質管理、供給対応まで含めた体制整備が量産立ち上げの成否に直結しやすい。CMPの重要度が上がるほど、材料メーカーの競争軸も製品単体から供給・支援体制を含む総合力へ移っていく。
インテグリス決算にみるCMPと汚染制御の一体化

米国の先端材料及びプロセスソリューションのサプライヤーEntegris(インテグリス)は、CMPをより広い工程品質の中で捉える必要性を示している。同社の2025年5月の第1四半期決算では、CMP consumables(CMP消耗品)とmicro contamination control solutions(粒子、化学汚染物質、微生物などの除去)への強い需要が増収要因として挙げている。さらに2026年2月の2025年第4四半期決算でも、2025年の数量成長はliquid filtration(液体濾過)、selective etch(選択エッチング)、CMP consumablesの強さに支えられ、最先端技術向けで数量増が続いたと説明している。
ここで注目すべきなのは、CMP単独で考えているのはなく、ろ過や汚染制御と並列で示している点だ。先端半導体分野で求められているのは、削ることだけではなく、削った後の面をどれだけ安定して清浄に保てるかまで含めた工程品質であることがうかがえる。
AI向け先端実装では、ハイブリッドボンディングのように表面状態への要求が高い工程が広がる。わずかな残渣、異物、表面欠陥が、その後の歩留まりや信頼性に影響し得るからだ。インテグリスの決算開示をそのまま先端パッケージ専用の需要と読むことはできないが、CMP consumablesとmicro contamination control、liquid filtrationが同時に伸びている事実は、材料市場の重心が研磨性能の競争だけではなく、欠陥低減、洗浄、ろ過、汚染制御まで含めた総合的な工程安定化へ広がっていることと整合的である。CMPは依然として一工程にすぎないが、その周辺技術との結び付きは、先端化が進むほど強まっている。
フジミのCMP技術と顧客伴走、日本勢が先端パッケージで持つ基盤力

日本勢ではCMPスラリに強い、フジミインコーポレーテッドの立ち位置も見逃せない。同社の公式サイトでは、半導体製造におけるCMP工程を「特性の異なる材料を同時に研磨することにより、デバイス表面を超平坦化する」技術と説明し、日本、米国、台湾に同等の開発環境を整えて顧客の近くで製品開発を進める体制を示している。製品ラインアップにも酸化膜、Poly-Si、Cu、Cu/Taバリア膜向けのスラリに加え、パーティクル除去用リンススラリ、HKMG、FinFET、TSV、新規材料向けの対応が並ぶ。
フジミのCMP事業は、単なる研磨材販売というより、顧客工程に合わせて条件を詰める伴走型の事業として位置付けた方が実態に近い。
同社のトピックスでも、非金属膜の選択研磨、CuやWなどの金属膜研磨、研磨後の表面を親水化して洗浄性を高めるリンス材などが示されている。派手な新製品発表ではないが、CMPを材料科学だけでなく、評価、洗浄、顧客支援まで含めて積み上げてきた企業であることが分かる。AI向け先端実装の競争が、接合面の成立性や工程再現性まで問う段階に入るほど、こうした基盤技術と伴走力を持つ企業の価値は相対的に高まりやすい。フジミは、日本勢のCMP技術が依然として厚みを持つことを示す存在といえる。
AIパッケージ時代に変わるCMP材料の評価軸

今後変わるのは、CMP材の評価軸である。これまでは、研磨速度、選択比、面内均一性といった指標が主だった。もちろんそれらは今後も重要であるが、ハイブリッドボンディングを含む先端パッケージの量産では、それだけでは足りない。
接合前の表面をどこまで清浄に保てるか、欠陥や残渣をどこまで抑えられるか、前後工程とつないだときにどこまで再現性を確保できるか。こうした観点が、CMP材や関連材料の評価で一段と重みを増していく公算が大きい。
アプライド・マテリアルズが先端パッケージの複雑化とハイブリッドボンディングの量産課題を示し、富士フイルムが先端パッケージ向けCMPスラリを投入し、インテグリスのCMP consumablesと汚染制御関連の需要増は、その方向性を示している。
CMPは、従来の「前工程の定番」という位置付けだけでは捉えきれなくなっている。AI向け先端実装の時代においては、接合前の表面品質を支える工程として、改めて存在感を強めている。
GPUやHBMの性能競争が続くほど、その裏側では、研磨材、洗浄、ろ過、欠陥管理といった一見地味な要素の重要度が増す。いま起きているのはCMP市場の単純な拡大ではない。AIパッケージの量産競争が、「最後の平坦化」を含む周辺技術の完成度まで問う局面に入りつつある、ということである。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
- Fujifilm Launches Advanced Packaging CMP Slurry
- Applied Materials Unveils Next-Gen Chipmaking Products to Supercharge AI Performance
- Entegris Reports Results for First Quarter of 2025
- Entegris Reports Results for Fourth Quarter of 2025
- 技術情報 | 機能材・新規材 | フジミインコーポレーテッド
- 半導体デバイス | 製品・サービス | フジミインコーポレーテッド
-
求人
化学材料 この分野に関連する最新の求人情報はこちら›
-
求人
材料開発エンジニア この分野に関連する最新の求人情報はこちら›
-
求人
後工程プロセス開発 この分野に関連する最新の求人情報はこちら›