国内半導体メーカーでキャリアを積んだ中堅エンジニアの多くは、進むべき道として「管理職か、専門職か」の二択を迫られる時期に遭遇する。しかし現在、これらの道に加え「第三の選択肢」として、海外ファウンドリFAE(Field Application Engineer: 半導体メーカーと顧客の間で技術的な橋渡しをする職種)が急浮上している。
これを裏付けるように、TSMC・Samsung・GlobalFoundries などのメガファブは米国・欧州・東南アジアでの新工場ラッシュを背景に、歩留まり改善を担う FAE を大量採用中だ。経営コンサルティングファーム McKinsey は「2030 年までに米欧だけで 10 万人超の半導体エンジニア不足が発生する」と警鐘を鳴らしており、今後 5〜10 年はグローバル人材争奪戦が続く見通しである。
このため、仮にこの第三の選択肢を選び、国内のFAEが海外へ転職するだけで、国内年収 750 万円前後が 1.5 倍超となる可能性がある。本稿ではなぜ年収がアップするのか、そして転職の流れを解説する。
年収アップの舞台裏を徹底解剖
1. 国内と海外の年収ギャップのリアル
まずは、FAE職の国内と海外の年収を見ていこう。国内の相場(東京)としては、FAEのレンジは概ね600〜900万円台、中央値付近で約750万円。これに対し米国の相場(全米平均)は、約8.7万USD(年額・ベースの統計平均)。日本円換算で約1282万4800円(2025年8月21時点)となる。
国内在籍時の額面 800 万円と比較すると、税引き後の手取りで約 1.6 倍になる計算。為替リスクや生活費の増加を加味しても、総報酬ベースで既存年収を十分に上回る水準といえる。

2. 求められる職務内容とは
次に具体的にどのような職種が求められるのか、見ていこう。まず、海外ファブでは、「テープアウト後 90 日以内に量産開始」という早期の稼働開始を目標とするケースが一般的だ。これに対し、FAE は、ECO対応や MPW 試作歩留まりの監査まで担うことになる。つまりは、設計・生産・品質保証について、複数の工場(ファブ)プロジェクトを跨いで管理するプロジェクトマネージャー(PM)となるのだ。単なる装置サポートを超えたプロアクティブ業務が求められるのである。
3. 必須スキル3選
次にこれらの業務に必須なスキル3つを解説する。まずは、「プロセス統計スキル」である。ここでは、分析・異常検知を実装し、新工程でも最適パラメータを迅速に導く力が不可欠となる。
次に、「ESG コンプライアンスと安全規格の運用力」である。ISO 45001、PFAS レギュレーションへの対応など、環境・倫理・安全の三軸で国際審査を通過させるドキュメントを主導できるかが評価指標になる。
そして、「英語+多拠点リーダーシップ」である。たとえば、台湾本社・米国 Fab・日本サプライヤーが同席する深夜オンライン会議する場合、課題と優先度を整理し、24 時間以内にタスクフォースを編成して解決策を提示する時差マネジメントが必須となる。また、JIRA、Confluence、Slackなどのツールを使いこなすことも必要だ。
4. 選考プロセスとビザサポート

上の図に選考ステップと内容、企業が負担する場合の費用例をまとめた。TSMC では「Immigration Support Specialist」を専任配置し、H-1B/L-1 申請の書類作成から帯同家族のビザ取得までを代行する求人も公開されている。
5. 成功率を高める3つの戦略とは
① 素早いエントリー
通常はファブ竣工 1 年前が求人のピークとなる。Phoenix、Dresden、Singapore など新拠点の建設許可が下りた段階でアプローチするのがベスト。現地商工会議所のニュースレターや LinkedIn の「#fabconstruction」タグを追跡すれば、公式リリースより先に求人を検知できることがある。
② レジュメスコアの最適化
採用先のATS(採用管理システム)は、検索ワード単体で検索するより何かしらの文脈があったほうが引っ掛かりやすい。具体的には「SPC」を単独で羅列するよりも「SPC を用いて 28 nm GAA 過渡フェーズの DOE を最適化し、Yield +3 ppb を達成」のように成果を定量化すると良い。GitHub や Kaggle の実績を QR コードで添付し、再現可能な技術力を示せば課題面接が簡略化されるケースもあるという。
③ 企業のESGにどう貢献できるかをアピール
Samsung は 2025 年から Tier-2 サプライヤーまで ESG 監査を拡大した。ISO 14001 内部監査員資格や PFAS 管理プロジェクト経験をセットで提示し、さらに CDP スコアや TCFD レポート作成実績を補足すれば、Scope 3 削減イニシアチブをリードする即戦力として報酬増に直結するだろう。
「90-30-7」の逆算法で期間を可視化―これが転職成功のロードマップ

転職のゴールや年収ターゲットは、人それぞれ異なるだろう。ただし期間の決めた方に共通のフレームがあると、迷いが少なくなるのではないだろうか。この場合のおすすめは「90-30-7」の逆算法だ。まず90 日後を“オファー取得の最終期限”と設定し、そこから30 日前に“技術面接突破”、さらに7 日前に“レジュメ完成+リクルーター面談”を配置する。大きな節目をブロック化しておけば、現職の繁忙期と重なってもペースを崩しにくい。家庭の都合や語学ブラッシュアップに追加時間が要る場合は、このブロックを丸ごと横にスライドするだけで計画を再設計できる。目標は個別最適、期間は共通フレームで可視化──これが海外ファウンドリ転職を成功へ導く実践的ロードマップなのだ。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- Morgan McKinley Salary Guide 2025
- SalaryExpert Japan FAE Survey 2025
- Salary.com Field Application Engineer US 2025
- Robert Walters 求人情報(FAE 800–1000 万円)
- McKinsey “Filling the talent gap in semiconductors” (2024)
- TSMC Supplier Sustainability Audit Course (2023)
- Samsung Electronics Sustainability Report 2025
- TSMC Immigration Support Specialist Job Posting (2025)