半導体業界は、デジタル社会の基盤を支える一方で、製造プロセスにおける大量のエネルギー消費と温室効果ガス排出が課題となっている。特に後工程(OSAT:Outsourced Semiconductor Assembly and Test)企業は、パッケージングやテスト工程で高い環境負荷が発生するからだ。こうした中、ASE(Advanced Semiconductor Engineering)グループは2045年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標、「Net Zero 2045」を掲げ、サステナビリティ戦略の強化に力を入れている。
この目標は、単なる環境対策にとどまらず、半導体業界の競争力強化やサプライチェーン全体の変革を促す可能性を秘めている。
本稿では、ASEのサステナビリティ戦略の実現可能性を、技術・資本・地域展開の観点から分析し、他の後工程専業企業への波及効果を考察する。
ASEのNet Zero戦略が切り拓く、後工程の新常識

1. Net Zero戦略の全体像と進捗状況
ASEグループは、WWF、CDP、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトによる共同イニシアティブであるScience Based Targets initiative(SBTi:世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるという目標)に基づき、2030年までにスコープ1・2(自社の直接・間接排出)を2016年比で35%削減、スコープ3(サプライチェーン排出)を2020年比で15%削減する目標を設定している。さらに、長期的に「Net Zero 2045」を目指し、SBTiへの申請も進めている。
| 目標期間 | スコープ1・2削減 | スコープ3削減 | 備考 |
| 2030年 | 2016年比35%減 | 2020年比15%減 | SBTi承認 |
| 2045年 | Net Zero(実質ゼロ) | Net Zero(実質ゼロ) | SBTi申請中 |
この戦略は、以下の5つのアクションプランに基づいている。
① カーボンクレジットの活用
② 再生可能エネルギーの導入拡大
③ 低炭素物流の推進
④ 低炭素製品の開発
⑤ サプライチェーン全体のエンゲージメント
2. 製造設備の電化と再エネ比率向上
ASEは、自社の製造設備を電化し、再生可能エネルギー比率を高めることで排出量削減を推進している。また、台湾や中国、東南アジアなど主要拠点で太陽光や風力など再エネ導入を加速。14の大学と連携し、約500人の研究者・学生と共同で66件の環境技術プロジェクトを実施するなど、イノベーション創出にも注力している。
3. 排出量削減目標の達成度をKPIに組み込み、従業員の報酬に反映
ASEは、サステナビリティを経営の中核に据え、カーボンプライシング(排出量に応じた内部価格付け)を導入。さらに、排出量削減目標の達成度をKPIに組み込み、従業員や経営層の報酬に反映させる仕組みを構築している。
4. サプライチェーン改革をグローバルに展開
ASEは、サプライヤーに対し低炭素素材や省エネ機器の導入を要求し、低炭素物流の推進や技術共有、サステナビリティプロジェクトへの補助金提供など、バリューチェーン全体での協業を強化している。こうした取り組みは、アジアを中心としたグローバルなサプライチェーン全体に波及効果をもたらす可能性がある。
5. 競合他社・業界への波及効果
ASEのNet Zero戦略は、後工程専業企業にとって大きな転機となり得る。他社も同様にSBTiに基づく目標設定や、グリーンファイナンスの活用、サプライチェーン改革を進める動きが加速している。例えば、自動車業界ではFORVIAが2045年までにNet Zeroを目指し、2025年にはスコープ1・2のカーボンニュートラル達成を目指している。
今後、半導体後工程業界全体でサステナビリティが競争力の源泉となり、調達や生産体制の大規模な変革が進むと予想される。
サステナビリティが半導体後工程の「新たな価値基準」に

ASEの「Net Zero 2045」戦略は、単なる環境対策ではなく、半導体後工程業界の競争力強化とサプライチェーン全体の変革を促す大きな原動力となりつつある。技術革新、資本力、グローバルな地域展開を組み合わせることで、目標達成の現実味が高まっている。
今後、ASEの取り組みは他社にも大きな影響を与え、半導体業界全体でサステナビリティが新たな価値基準となるだろう。
(参考:ASE Holdings Net Zero Action Plan)
(参考:ASE Holdings Climate Leadership PDF)
(参考:ASE Environmental Innovation Collaboration)
(参考:FORVIA Environment Sustainability Strategy)