この記事のポイント
- 造血幹細胞の細胞核の3次元顕微鏡画像から、77%の精度で老化状態を判別するAIツールが開発されました。
- AI「ChromAgeNet」は畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用い、細胞核内におけるDNAの立体的な配置パターンを解析します。
- 低コストで簡便なDAPI染色法を採用しており、将来的なハイスループットスクリーニングや細胞若返り研究への応用に期待が高まっています。
細胞核の微細な構造変化から老化を高精度に検知
細胞の老化の兆候は、細胞核内の極めて微細な変化に潜んでいる可能性があります。スペインのベルビチェ生物医学研究所などの研究チームは、造血幹細胞の細胞核における3次元顕微鏡画像から微細な変化を識別し、77%の正答率で若い細胞と老化した細胞を識別できる人工知能(AI)ツールを開発しました。この研究成果は、血液幹細胞の老化メカニズムの解明や、老化介入手法の探索に向けた新たな技術基盤となるもので、学術誌『Aging Cell』に掲載されました。
造血幹細胞は体内の多様な血液細胞を産生する役割を担っています。加齢に伴ってその機能は徐々に低下しますが、細胞の老化は必ずしも目に見える顕著な変化を伴うわけではありません。特に細胞核内部におけるDNAの組織構造の変化は非常に微細であり、光学顕微鏡の目視観察だけで見分けることは極めて困難でした。
DNAの3次元配置を学習する「ChromAgeNet」
研究チームが開発したAIツールの名称は「ChromAgeNet」です。従来の細胞のサイズや形状といった指標ではなく、細胞核内におけるDNAの3次元的な組織構造に着目しています。研究ではまず、DAPI(蛍光染色試薬)を用いてDNAを標識し、マウスの造血幹細胞の細胞核に関する3次元顕微鏡画像を取得しました。その後、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて大量の画像から若い細胞と老化細胞の微細な差異を学習させました。
その結果、ChromAgeNetは細胞核の画像情報のみから77%の精度で識別を行うことに成功し、特定のクロマチン特徴に基づく従来の機械学習モデルを上回る性能を示しました。モデルの判定要因を詳細に解析したところ、クロマチンの空間的な複雑さや細胞核周縁部におけるヘテロクロマチンの分布、一部のクロマチン凝集体などが識別に寄与していることが判明しました。これは、微細な構造差に老化に関連する重要な情報が含まれていることを示しており、エピジェネティック・クロックなどの既存指標と組み合わせることで、細胞の生物学的年齢のより包括的な評価が可能になります。
創薬スクリーニングや細胞若返り研究への展開
AIが細胞の老化を識別できるようになったことで、細胞を若い状態へと回復させるアプローチへの貢献も期待されています。研究チームは初期検証として、異なるエピジェネティック創薬化合物を投与した老化造血幹細胞をChromAgeNetで解析し、薬剤によってクロマチンの構造が若い細胞に近い状態へ変化するかどうかを検証しました。
ただし、研究チームは、現時点では特定の薬剤が細胞を完全に若返らせたと証明できたわけではないと指摘しています。ChromAgeNetが検出しているのは老化に関連する構造変化であり、造血幹細胞本来の機能が完全に回復したことを直接証明する段階には至っていません。
一方で、本手法で用いられているDAPI染色は低コストかつ操作が簡便であるため、将来的にはハイスループット顕微鏡イメージングへの展開が有力視されています。膨大な細胞群の中から各種の介入効果を迅速にスクリーニングし、潜在的な細胞若返り戦略の探索を加速させる技術として期待が寄せられています。
出典: 元記事を読む
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