米国VS中国の「スパイウェア」合戦第1ラウンドスタート!—— YMTCがマイクロンを名誉毀損と不公正競争で提訴

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2025年6月9日、中国の国有半導体メーカーYangtze Memory Technologies(YMTC)は、米ワシントンD.C.の連邦地裁において、米国の半導体メモリメーカーMicron Technology(マイクロン・テクノロジー)および、米国の公共政策・戦略コミュニケーションコンサルティング会社DCI Groupを相手取り、名誉毀損と不公正競争(虚偽広告)で提訴した。

この訴訟の争点は「YMTCのメモリ製品がスパイウェアを含み安全保障上の脅威になる」という言説の真偽と、それが市場での評価や販売機会に与えた影響である。

原告は、営業上の損失と評判の毀損を主張し、是正広告や損害賠償、利益返還などを求めた。本件は、技術仕様や歩留まりといった“製品の品質”だけでなく、評判(レピュテーション)が供給網の意思決定を左右する局面が来たことを示す。調達・営業・法務・広報が分断なく連携できるかどうかが、短期の受注と中長期の供給戦略を左右する。

本稿は、この訴訟の経緯などを整理し、その行方を考察する。

争点と提訴の骨子

訴状の焦点は二つにまとめることができる。第一に、言説の真実性である。原告によれば、スマートフォン向けを含むYMTC製品に「スパイウェア」や「軍事スパイ活動との関係」などの表現が結び付けられた点が名誉毀損に当たるという。

第二に、商業上の影響である。競合間の虚偽・誤認を生む主張によって顧客の意思決定がゆがめられ、営業上の損害を被ったとして、不公正競争(Lanham Act)を相当すると主張している。

被告側の初期対応は限定的で、報道時点では詳細コメントは示されなかった。訴状の主張はあくまで原告の主張であり、真偽の最終判断は裁判所に委ねられている。

手続の現状と見通し(時点)

現在、判決・和解・棄却などの最終結論は、2025年11月12日〈日本時間〉現在で公表されていない。連邦地裁の民事事件では、提訴→送達→応答書面→争点整理→証拠開示(ディスカバリー)→審理と、手続は中長期化しやすいものである。

本件は技術評価そのものよりも「市場でどう受け止められたか」が争点の中核にあるため、証拠開示ではメッセージの流通経路、顧客側の意思決定に与えた影響、失注に関する因果関係の立証などが焦点になりやすい。

一方で、両社の間には別の係争(特許関連)も存在する。技術係争と評判係争が並走する構図は、解決の時期も解決手段も見通しが立たない可能性が高い。

“二層の係争”の行方は

前述したように、両者間には今回の訴訟と別に特許関連の訴訟も存在する。つまり本件を機に、係争は二層構造となる。

  • 評判の係争(本件):言説の真実性、流布の態様、営業上の損害の立証が中心。短期に売上へ波及しやすく、広報・営業の即応が成果を左右する。
  • 技術の係争(別件):クレーム解釈、非侵害、無効化など、技術論争に立脚。審理は長期化しやすいが、評価軸は比較的明確。

この二層は勝敗決定の時間軸がずれる。したがって、両者の関係顧客などはこの係争に対応するために、①即効性のある営業・広報施策(第三者評価の提示、Q&Aの整備、顧客稟議支援)と、②中長期の法廷戦略(証拠開示、反証準備、エキスパートの確保)を同時並行で運用する体制を求められる。

さらに、地域別プレイブック(米・欧・中・日の規制と世論の差を反映した資料)を別建てで用意することで、現場の混乱を抑えることが求められる。

“運用力で損失を最小化する”姿勢が問われる

本件は、裁判所の結論が出るまで時間を要する一方で、実ビジネス面での対応は急を要するという矛盾を抱えている。

半導体のサプライチェーンは、規制・世論・情報発信の変化に敏感だ。両社の関係企業が今すぐ着手できるのは、①第三者一次情報に立脚したエビデンス営業、②番手粒度での代替設計とBOM影響の事前試算、③評判起因リスクを織り込んだ契約条項と地域別プレイブックの整備である。現時点で最終判断は出ていない。

だからこそ、結論待ちではなく“運用力で損失を最小化する”姿勢が問われる。評判は技術と同じく競争力の一部であり、証拠・代替・契約・メッセージの4点セットを平時から進めることが、次の四半期の成果に直結するのである。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
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