AI計算力は“実装”へ──中国聯通・青海DCを起点に〈中国 vs 世界〉を読む

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2025年9月17日、中国聯通(チャイナ・ユニコム)は、青海省西寧のデータセンター(青海DC)を公開した。特徴は、演算の中核を中国産AIチップのみで構成している点で、現状3,579PFLOPS(ペタフロップス計測基準は公開情報ベースで異なる可能性あり。)、計画20,000PFLOPSを掲げる。投資額は約3億9,000万USD、搭載AIチップは約2.3万個で、その約72%をAlibaba系T-Headが供給する。

本稿は青海DCの一次情報を起点に、PFLOPSという“共通物差し”で中国と世界のAIインフラ投資を読み解き、設備投資(CAPEX)や装置サイクルとの整合を考察する。

青海DCが示した“自給計算力”の下限値

青海DCは、中国産チップのみで稼働する大規模DCとして以下の数値を公表した。

・実効演算能力:現状3,579PFLOPS、計画20,000PFLOPS
・投資額:約3億9,000万USD
・AIチップ数:約2.3万個(T-Head比率約72%。そのほかMetaX、Biren、Zhonghao Xinying等)

ここから読み取れる論点は、“自給計算力”の下限値が具体値として可視化されたことだ。PFLOPSは毎秒1015回の浮動小数点演算を示す単位で、1エクサFLOPS=1,000PFLOPSに相当する。したがって3,579PFLOPS=約3.579エクサである。サーバ台数やGPU個数ではなく施設全体の実効性能(合計PFLOPS)で把握すれば、電力・冷却・相互接続といった実装条件と直結して比較でき、投資判断に使いやすい。

世界トップHPCと日本・米の投資

世界最高峰のHPC(高性能計算機)である米LLNLの「El Capitan」は、HPLベンチマークで1.742エクサFLOPS(=1,742PFLOPS)を記録した。HPCとDCでは目的や運用条件が異なるが、同一の桁(PFLOPS)で見れば相対位置は把握できる。青海DCの現状3,579PFLOPSは、HPCトップ級(1,000〜1,700PFLOPS台)を上回る“数千PFLOPS級”のスケールである。

日本では2025年3月、ソフトバンクとOpenAIが大阪の旧シャープ工場を150MW級AIデータセンターへ転用する計画(2026年稼働目標、総投資最大1兆円)が報じられた。米国ではAlphabetが2025年CAPEX約750億USDを再表明し、AIプラットフォーム向けのDC・サーバ投資が継続している。実務上はMW(電力)や通貨建て投資額だけでなく、以下の“変換軸”で設計・投資を評価するのがポイントだ。

・電力当たり性能:PFLOPS/MW(どれだけ電力をPFLOPSに変換できるか)
・コスト効率:CAPEX(OPEX)/PFLOPS(PFLOPS1単位あたりの投資・運用コスト)
・実装密度:PFLOPS/ラック(相互接続・冷却・給電を含む実装最適化の成果)

Huaweiの「スーパーノード」と装置サイクル

2025年9月18日、中国のHuawei(ファーウェイ)は、Ascend 950(2026年)、960(2027年)、970(2028年)の投入計画に加え、8,192個構成「Atlas 950」と15,488個構成「Atlas 960」というデータ・ストリームのセクションをカプセル化し、複数のノードを1つのノードにグループ化する「スーパーノード」を公表した。HBM(高帯域幅メモリ)の自社技術統合にも言及し、AI学習の律速要因であるメモリ帯域とノード間通信のボトルネックに踏み込む。ノード内相互接続・HBM・冷却の同時最適化はPFLOPS密度を押し上げる実装の中核であり、PFLOPS/MWやPFLOPS/ラックの改善に直結する。

一方、装置サイクルの視点では、SEMIが2025年の半導体製造装置売上を1,255億USD、2026年を1,381億USDと予測し、過去最高更新を見込む。前工程(ロジック・メモリ)と後工程(先端実装)の増強が続くかぎり、計算力の“容れ物”拡張=PFLOPSの増勢は世界的に並走する。青海DCの数値は、中国が自国産チップを“使い切る”ための受け皿整備を実装段階へ進めたことを、定量で裏づける材料である。

“何台あるか”ではなく“何PFLOPS出るか”が重要

青海DCは、3,579PFLOPS(計画20,000PFLOPS)という具体値を示し、AIチップ主体の大規模DCが量産間近の段階に入ったことを明確化した。世界の基準点としてはHPCトップ級の1,742PFLOPS(El Capitan)があり、日本では150MW級の新設計画、米国では数百億USD規模の年次CAPEXが進められている。評価の物差しをPFLOPS中心に切り替え、MWや投資額と相互換算すれば、電力契約・冷却方式・相互接続・サーバ選定までを同一座標上で比較できる。“何台あるか”ではなく“何PFLOPS出るか”。この共通言語は、部門横断の意思決定と投資生産性の可視化を促し、〈中国 vs 世界〉の現状を知らせてくれるのだ。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
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