ドライブレコーダや見守りカメラは、逆光、夜間、LED点滅、被写体の高速移動での撮影が主になる。その際、被写体のナンバー、顔、動線がくっきりと「読める」ように撮影できるかどうかが、その製品の製品価値に直結する。
2024年末から2025年にかけての半導体各社の主要発表は、この評価軸に対する回答となった。ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)は、裏面照射・積層構造とグローバルシャッター(GS)を組み合わせた高画素・高速読み出しを打ち出し、米国OmniVision(オムニビジョン)は、可視光(RGB)と赤外線(IR)の両方を一つのセンサで同時に捉える技術であるRGB-IR対応と高い近赤外(NIR)感度のGSセンサを前面に打ち出している。さらに、米国Ambarella(アンバレラ)は、エッジ側における生成AIと高性能ISPの統合処理を前提とする方向性を明確にした。
本稿は、画素構造と露光方式、HDR、ノイズ処理とエッジAI、RGB-IRという四つの視点から「難条件でもきれいに撮れる映像」を設計要件としてチップ開発を進める各社の現状をまとめる。
グローバルシャッター:動体歪みを起点から抑え込む

グローバルシャッターは、撮像面全体を同時に露光する方式である。ローリングシャッターに見られる斜め歪みや引き伸ばしを抑え、対向車のナンバー、LED信号、頭部回旋といった対象の形状を保つ。2024年11月のSSSの発表は、裏面照射と積層構造にGSを組み合わせ、有効画素とフレームレートをともに高める方針を示した。高速被写体の形状保持が価値の源泉である車載・監視分野において、これは直接的な示唆である。
2025年4月のオムニビジョンのGSセンサは、1.5MP級ながらRGB-IR対応と高いNIR量子効率を前面に出し、低照度や赤外補助光下で微小特徴が安定して抽出できる方向へ設計が進んでいる。このことから、最初の一枚で形を失わないことを前提に開発が進められていることがわかる。
HDRとLEDフリッカー対策:逆光を防ぎ点滅周期との同期を行う

逆光のエントランスや濡れた路面、反射プレートは、白飛びや黒つぶれを引き起こしやすい。HDRは複数露光やマルチゲインを一フレーム内で合成して明暗差を圧縮し、階調をつなぐ。GSと組み合わせれば、動体の輪郭を保ったままダイナミックレンジ処理が可能になる。ナンバーの白地反射と黒系バンパーの同時可読は、証跡性と自動抽出の成功率を左右する。
LEDフリッカーは、照明や信号の周期的明滅に由来するアーチファクトである。実運用では、露光制御の位相合わせ(点滅周期との同期)、ISPでのフリッカー抑制、そしてGSによる露光一貫性の三点を併用する構えが有効である。これによりフレーム間の輝度揺らぎが抑えられ、物体追跡やOCRの整合性が向上する。
ノイズ処理の主戦場はエッジISP:学習型ノイズ低減や超解像、検出までを低遅延で一体処理
夜間や雨天、街灯下ではフォトンショットノイズや読み出しノイズの影響が大きくなり、ISO上昇時に偽色や細部欠落が表面化する。近年の課題は、カメラ内のイメージシグナルプロセッサ(ISP)が、画像処理・圧縮前の生のデータ形式(RAW)段寄りの処理を強化し、小型NPUと組み合わせて学習型ノイズ低減や超解像、検出までを低遅延で一体処理する構成にできるかである。
RGB-IRとNIR感度:姿勢や動線の判別を安定させる

RGB-IRは、可視(RGB)と近赤外(IR)を同一センサで扱う方式である。2025年10月のSSSの発表は、2.1μmの画素・約500万画素級のRGB-IRセンサであり、車室内モニタリングの精度向上を狙う。これはサングラスや低照度下でも視線や瞬き、口形状の検出が安定し、前方監視のGS+HDRと、車室内のRGB-IR+NIRを時刻同期させることで、同一タイムライン上で内外の事象を整合的に扱えることができる。
オムニビジョンが打ち出している高いNIR感度は、IR補助光主体の夜間監視において瞳や輪郭の保持の効果を高める。店舗の逆光エントランスや閉店後の巡回など難条件でも、RGB-IRは肌色の偏りや服飾パターンの見落としを相対的に抑え、姿勢や動線の判別を安定させる。複数波長の情報は、認識アルゴリズムの前段階で素材の信頼区間を広げる効果が大きい。複数カメラを運用する場合は、PTPなどの時刻同期方式や内蔵タイムスタンプの扱い、IR利用時の告知やマスク処理といったプライバシー配慮も合わせて設計要件に含めるべきである。
パイプライン全体の整合性が設計と運用の優劣を分ける段階に

2024年から2025年にかけての動きは、単なる高解像への挑戦から「難条件でも判読できる証跡の確保」へと軸足が移った事実を示した。GSで形状を守り、HDRで階調を接続し、エッジISPと小型NPUで意味付けまでを近傍で済ませ、RGB-IRで可視性の窓を拡張する。この四点は個別の加点要素ではなく、同時最適を前提とする標準実装に近づいている。
量産採用の現場では、動体歪みの再現性、逆光と点滅下での連続性、低照度での可読率といった難条件KPIが共通言語化しつつある。次の比較軸は、同一条件下でのアルゴリズム再現性であり、ソフトのバージョン差分を含む「測り方」の標準化が主戦場になるだろう。仕様書に記された数値だけでは見えてこない、パイプライン全体の整合性が設計と運用の優劣を分ける段階に入ったのだ。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- Sony Semiconductor Solutions to Release an Industrial CMOS Image Sensor with Global Shutter for High-Speed Processing and High Pixel Count(2024年11月19日)
- Sony Semiconductor Solutions to Release RGB-IR Image Sensor for In-Cabin Monitoring Cameras(2025年10月2日)
- OMNIVISION Launches 1.5-Megapixel Global Shutter Sensor for Automotive Driver Monitoring Systems(2025年4月22日)
- Ambarella Debuts Next-Generation Edge GenAI Technology at ISC West(2025年3月31日)
- McKinsey Technology Trends Outlook 2025(2025年8月公開)