ChatGPTのような対話型AIや、画像生成AIを日常的に使う人が増えています。
しかし「このAIは、どんな“仕組み”で動いているのか」と聞かれると、すぐに答えられる人はまだ多くないでしょう。
一方で、半導体市場が急速に拡大しています。
世界半導体市場統計(WSTS)の2025年秋季予測によると、2024年の世界半導体市場は前年比19.7%増の約6,300億ドル、2025年は22.5%増の約7,700億ドルに達する見通しです。
こうした3年連続の高成長は、生成AIを見越したデータセンター投資と、それを支えるメモリやGPU(画像処理用プロセッサ)などの先端チップが牽引していると分析されています。
つまり、AIブームの主役はソフトウェアだけではなく、「AIを駆動させる半導体」そのものでもあるのです。
本稿では、ChatGPTのようなAIがどのように計算しているのか、その計算を担うGPUという半導体がどんな役割を持っているのか、そうしたAI向けチップがどのように作られ、どこで動いているのかを順にたどりながら、「AIの裏側で半導体がどのように働いているのか」を、できるだけイメージしやすい形で解説していきます。
ChatGPTの「中身」は、ひたすら計算を繰り返す仕組み

1. 言葉を数字に変えて、確率を計算
ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)は、人間のように問い合わされた事柄の「意味」を理解しているわけではありません。
実際には、入力された文章を細かい単位(トークン)に分解し、それぞれを巨大なベクトル(数字の並び)に変換し、膨大な行列の掛け算を何百層も繰り返しながら「次に続く確率の高い単語」をひたすら計算しています。
たとえば「今日は寒いので、暖かい◯◯が飲みたい」という文章が入ってきたとき、「コーヒー」「ココア」「スープ」などの候補ごとに確率を計算し、一番確率の高い言葉を選んで出力する、というイメージです。
この処理は非常に計算量が多く、しかも同時に大量のデータを扱う必要があります。
ここで威力を発揮するのが、GPUと呼ばれる半導体です。
2. CPUとGPUの役割の違い
CPUはOSやアプリの制御など、さまざまな仕事を器用にこなす「少数精鋭の頭脳」です。
一方、GPUは「単純な計算を大量に並列して処理する」ことを得意とします。
CPUが「少人数の秀才チーム」だとすれば、GPUは「同じ作業を一斉にこなす大人数の作業班」と言えるでしょう。
行列計算を大量にこなすAIの計算は、このGPUの特性と非常に相性が良く、現在の生成AIブームはGPUの発展抜きには語れません。
3. AIの「モデル」と「重み」とは何か
AI関連のニュースで見かける「数千億パラメータのモデル」とは、ニューロン同士をつなぐ「重み」の数を指します。
ChatGPTのようなLLMでは、この重みが数千億個規模に達し、それぞれが数値としてメモリ上に保存されています。推論時には、これらを使って行列計算をひたすら実行します。
AIの「頭の良さ」は、重みの配置と数値の組み合わせに宿っており、それを高速に読み出して計算する役割をGPUやメモリが担っています。
AI向けGPUは、何が「特別」なのか

1. 大容量のメモリと高い帯域
最近のAI向けGPUでは、「演算性能」以上に「メモリ容量」と「メモリ帯域」が重視されています。
巨大なモデルの重みを丸ごとメモリに載せ、高速に読み書きするため、大容量・高帯域のHBMが不可欠になっています。
2. 行列計算に特化した専用回路
AI向けGPUには、行列計算を高速化する専用回路が組み込まれています。
精度を多少落とした数値表現を使うことで、消費電力を抑えながら膨大な計算をこなす工夫が進んでいます。
3. GPUだけでは動かない「一式の半導体」
AIシステムはGPUだけで成り立っているわけではありません。
CPU、DRAM、SSD、ネットワークチップ、電源用半導体など、多様な半導体が役割分担しています。
GPUはあくまで中核であり、多層的な半導体インフラの一部として存在しています。
「AIの脳」はどうやって作られているか

1. 数百億個のトランジスタを、数nm単位で刻む
AI向けGPUは、3nmクラスの最先端プロセスで製造され、数百億〜1兆個規模のトランジスタが集積されています。
成膜、露光、エッチングなどの工程を何百回も繰り返し、極めて精密に作り込まれています。
2. パッケージングで「AI専用基板」に組み上げる
完成したチップは、HBMを組み合わせた2.5D/3D実装によってモジュール化されます。
冷却設計や熱対策も含め、パッケージ全体がAI専用に設計されています。
3. 大規模サーバーに組み込まれ、データセンターへ
GPUモジュールはサーバーに組み込まれ、ラック単位で並べられ、AIデータセンターを構成します。
AIブームは、サーバー、通信、電源、冷却といった幅広い分野に投資を波及させています。
学習と推論──AIデータセンターの中で何が起きているか

1. 「学習」で巨大な計算をひたすら実行
学習フェーズでは、数千〜数万枚のGPUを使い、数週間〜数カ月にわたって計算を続けます。
AIインフラへの投資は年率2桁成長を続けており、巨大な計算工場としてのデータセンターが増えています。
2. 「推論」で、世界中のユーザーとやり取りする
私たちが日常的に使うAIサービスは、推論フェーズで動いています。
今後はデータセンター向けGPUだけでなく、PCやスマートフォン向けの省電力AIチップも拡大していくでしょう。
AIブームにおける“半導体の重要度”とは

1. ソフトウェアの進歩は、ハードウェア投資の裏返し
生成AIの進化の裏側では、GPU、メモリ、製造装置、材料への巨額投資が進んでいます。
AIブームは、半導体サプライチェーン全体の成長と一体で進んでいます。
2. 「AI=GPU」と認識するだけではダメ!?
GPUメーカーだけでなく、ファウンドリ、パッケージ、通信、電源、冷却まで含めた広い視点が重要です。
AI時代の半導体ビジネスを理解するために必要な半導体への思い

生成AIの背後では、最先端の半導体技術が総動員されています。
AIのニュースに触れたとき、「その裏側で、どんな半導体がどれだけ動いているのか」を考えてみてください。
それが、AI時代の半導体ビジネスを理解する第一歩になるはずです。
今後も本シリーズでは、半導体業界のさまざまな側面を解説していきます。
知りたいテーマがあれば、画面右側のコメント欄からお寄せください。
読者の疑問にもできるかぎりお応えしながら進めてまいります。
*この記事は以下の資料を参考に執筆しました。
参考リンク
WSTS 2025年秋季半導体市場予測
WSTS Semiconductor Market Forecast Fall 2024
AMD Instinct MI350 シリーズ GPU
Gartner プレスリリース
IDC プレスリリース