在宅ヘルスケアとウェアラブル——血圧・心拍・睡眠を“測る半導体”

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イントロダクション

2025年4月15日、オムロン ヘルスケアが家庭用血圧計の新機種を国内発売し、脈間隔の乱れを知らせる機能を一般家庭の測定体験に持ち込んだ。8月にはIDCがウェアラブル市場の回復基調を発表し、スマートウオッチやリング型への期待が再び高まった。そして、9月11日にはApple Watchの高血圧“兆候通知”がFDA承認を取得し、9月15日から提供開始した。

これらの“家庭の健康デバイス”を下支えするのが半導体である。それは、PPG(光学)・ECG(電極)・IMU(慣性)のセンサが拾う微小アナログ信号を、AFE(アナログ前段)とA/D変換で確実にデジタル化し、BLE(Bluetooth Low Energy)対応SoCが省電力でスマホへ送る。そして、端末内では軽量な信号処理がノイズを抑え、読み取れる数値を日常の意思決定に使える形へ整える、という流れになる。

本稿は、在宅ヘルスケアとウェアラブル製品に搭載されている半導体の役割と、その最新動向を整理する。

PPG・ECG・IMUの役割分担と実装のコツ

まず以下で、PPG・ECG・IMUの役割分担などを解説する。

PPG(光学)

緑/赤外LEDを皮膚に当て、戻り光から血液量の微小変化(脈波)を読む。

・波長の役割:緑(≈530nm)は表層の血流に敏感、赤外(≈940nm)は肌色差の影響を受けにくい。両者の差分や比で外光の揺らぎに強くできる。
・機構と配置:受光窓周りの遮光壁、LED・PDの距離/角度、手首バンドのテンションがS/Nを決める。
・動作の賢さ:IMUで静止/低動作を検知した瞬間に優先サンプリングし、動作中はレートを落とす。

ECG(電極)

体表の微小電位(μV級)を読む。これが不整脈スクリーニングの要となる。

・電極接触:皮脂・汗でインピーダンスが跳ねる。電極面の微細テクスチャと筐体の微小な面あたり圧で接触安定化。
・取り回し:腕時計/リングはリード数が限られるため、基準電極の位置と接触の再現性が肝要。

IMU(慣性)

加速度・ジャイロで体動を把握。

・役割:運動/姿勢/睡眠の判定だけでなく、PPGのモーションアーチファクト(動き由来ノイズ)を見分ける“参照信号”になる。
・使い方:歩行周期や姿勢変化を特徴量化し、PPGの外れ値マスクや計測タイミング制御に反映する。

センサ融合の要点

ECGのQRSピークとPPG脈波の到達差であるPTT(脈波伝播時間)は、個体内での血圧変動と相関があり傾向観察に有効。ただし個体差・条件依存が大きく診断用途ではない。個体ごとのベースライン較正を前提に“長期の変化をみる指標”として扱うべきである。

また、センサを増やせば電力は増える。必要な時間だけ動かすスケジューリング(静止優先、就寝中レート最適化、イベント駆動起動)が設計の決め手になる。

アナログ前段とA/Dの基本

最初に信号を受け止めるAFEは、カメラでいえばレンズである。

・低雑音の原則:PPGはPD電流をTIA(トランスインピーダンスアンプ)で電圧化し、入力換算雑音を最小に。ECGは高CMRRの計装アンプ+チョッパ安定化でオフセット/1/fノイズを抑える。
・環境ノイズ対策:照明フリッカや外光ドリフトは同期サンプリング(LED駆動とAD変換を同期)や多波長差分で相殺。ECGはアクティブノッチで商用電源由来をカット。レイアウトではガードリングと帰還パスの極短化が効果的だ。
・帯域内のENOB(実効ビット数)を確保:心拍/睡眠は100Hz前後、ECGは250〜500Hz程度。≥16bitを原則に、帯域内のENOB(実効ビット数)を確保する。ΣΔ(シグマデルタ)型でオーバーサンプリング+デシメーションを行うと量子化ノイズが下がり、後段処理が安定する。
・“前段で失わない”設計:LED波長/出力、PD面積、遮光構造、基板スタックアップ(アナログ/デジタルの帰路分離)まで一体最適化する。前段で失った1dBは戻りにくいという前提で臨むべきである。

BLE SoC・電源管理・無線実装

毎日使う機器は、充電の頻度が満足度にも影響する。中心部品はBLE SoCとPMICである。

・通信の間引き:BLEは広告・接続インターバルを長くするほど省電力になる。心拍のような高頻度更新を除き、バッチ送信にまとめる。センサ側FIFOに貯め、閾値到達で起床→送信→即スリープが基本。
・深いスリープの使いこなし:最新世代SoCは待機/送受信電流が低い。ハイバネーション+高速ウェイクに最適化し、FWは割り込み駆動を徹底してポーリングを排す。必要なときだけクロックを上げるDVFS/クロックゲーティングも有効である。
・無線の現実:手首近傍は人体でアンテナ整合が崩れやすい。金属筐体/曲面対応のパターン設計とチューニング余地を最初から確保する。2.4GHzの混雑(Wi-Fi/電子レンジ)には、接続パラメータ更新のタイミングとチャネル選択で逃げ道を用意。OTA更新は差分配信+バックアップバンクで失敗時の復旧路を持つ。
・セキュリティ/再送:LE Secure Connectionsで暗号化し、ホワイトリストで接続を制御。切断時は一定期間ローカルに保持して再送、データ欠損を抑える。

半導体の設計が日常生活に寄り添うことが大切

在宅ヘルスケアは、ガジェットから準医療的インフラへと歩を進めた。連続的に“測る”ことが当たり前になり、日々の傾向から「そろそろ受診を」という行動のきっかけをつくれる段階に入った。

半導体が担う役割は明快である。第一にAFE/光学/メカの作り込みで良い信号を取り、A/Dとデジタル処理でノイズを抑える。第二にBLE SoCと電源管理で“測る→寝る”のデューティを最小化し、毎日装着できる体験を支える。第三にIMUを核にした賢いスケジューリングで、静止/就寝など“測りやすい条件”を逃さないこと。

“測る→わかる→行動する”を家庭でうまく行うためには、半導体の設計が日常生活に寄り添うことが決定打になるのだ。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク

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