2025年、韓国で半導体を巡る二つの動きが重なった。4月15日に韓国政府は、半導体産業支援が総額33兆ウォン(約230億ドル)への拡充を発表した。また、10月31日にNVIDIAは、次世代のAI向けGPUアーキテクチャ「Blackwell」について、韓国への26万枚超の優先供給を公表した。
このように、韓国は政策で資金とインフラの基盤を整え、需要ではAIサーバの導入が一気に進んでいる。結果として、HBM(高帯域メモリ)と先端の封止組立、ファウンドリや後工程の能力配分、データセンターの電力・用地、人材まで連鎖的に影響が及ぶ。
本稿は、4月から10月までの公式発表と信頼報道を時系列で確認し、今後韓国の現場で発生するであろう問題点を考察する。
4月——政策の「土台」が整う

4月15日、韓国政府は半導体を含む産業支援を総額33兆ウォンへ拡大した。低利の金融支援、税制措置、送電線の地下化や変電所の強化など、基盤整備を含むパッケージである。半導体は韓国の主要輸出品であり、支援の狙いは投資の前倒しと据付の停滞回避にある。
この枠組みで重要なのは、建屋・電源・空調と装置搬入の順番を崩さずに計画できる点だ。組立・検査設備の新棟や増床はユーティリティを伴う。受電容量や冷却、クリーン環境の整備が遅れると、ラインの処理時間が乱れる。資金面の裏付けが出たことで、設備発注→据付→試運転の一連の工程を、系統増強の計画と足並みを揃えて進めやすくなる。
6月——AIデータセンター投資決定

6月20日、SK hynixとAmazon(AWS)の大規模データセンター計画が公表された。建設地は韓国南東部にある工業・港湾都市ウルサン。初期100MWで2029年の本格稼働を見込み、1GW規模まで段階拡張する計画である。AIサーバは発熱が大きく、液冷と特別高圧の受電が前提になるからだ。
半導体の組立・検査と同じ圏域でデータセンターを同時に拡張すると、変電設備と配電の系統切り替えが必要になる。装置の据付カレンダーには、受電開始日や電力工事の中間目標を最初から組み込むことが効果的だ。また、液冷設備の工期も無視できない。ポンプや配管、熱交換器の据付と試運転に時間を要するため、装置側は設置スペースと配管取り合いを早期に確定しておくと手戻りが減る。
9月——HBMの量産準備が進む

9月12日、SK hynixはHBM4の社内認証完了を明らかにし、量産体制を確立した。HBMは複数のDRAMダイを縦に積み、広い帯域を得るメモリで、AIサーバではGPUの近くに配置する。封止や放熱の条件が厳しく、積層数の増加に伴い検査の負荷も高まる。samsung electronicsは、HBM4の供給に向けNVIDIAと協議を続け、現行の12層HBM3Eの供給拡大も掲げる。米国Micron Technologyは3月に、2025年のHBM供給は、供給開始前にあらかじめ供給先が決まっており、すでに売り切れと説明している。
このような、3社の発表から読み取れるのは、HBMは2025年時点で需要超過であり、電気・X線・超音波(C-SAM)などを組み合わせる二段検査の設計が律速になりやすいという点である。逆に、HBM側の立ち上げが進めば、パッケージの大型化や熱対策など、封止条件の見直しが必要になる。
10月——「Blackwell」26万枚超の優先供給

10月31日、NVIDIAは、韓国政府と韓国民間大手(Samsung、SK、Hyundai、NAVERなど)に対し、Blackwell世代のGPUを26万枚超供給する計画を公表した。公式発表は“over a quarter-million GPUs”と表現している。供給は官民クラウド(主権クラウド/AIファクトリ)に配分され、短期間にAI計算資産を積み増す構図である。
同社は先端の組立工程について、大面積の中間層(インターポーザ)を使う流れへの重心移動を説明している。これは、高密度基板、再配線(RDL)、アンダーフィル、熱対策、そして外観・X線・超音波・電気といった検査まで、複数の工程に同時に負荷をかける。調達は単品の装置性能ではなく、ライン全体での時間短縮と歩留まりに軸足を置く段階に入った。
封止と検査——ボトルネックは「ABF基板×RDL×熱×検査」の同時最適化
先端封止は、ウエハ上の組立と基板実装を経て完成させる工程である。AI向けは基板面積が大きく、配線密度も高い。そのため、ABF基板の歩留まりや供給リードタイムが崩れると全体が止まる。熱の処理も難しい。熱伝導シートや封止樹脂の選定、ヒートスプレッダの設計、液冷への配慮など、信頼性と処理時間の両立が求められる。
検査は外観(AOI)、X線、超音波、電気テストが柱で、AI向けではインラインのスピードが鍵となる。二段検査の配置やサンプル率の設計を誤ると、瓶頸が検査側に移る。生産側は、基板・再配線・熱・検査を一体で見て、段取り替えと搬送を含むライン全体の処理時間を優先するのが無難である。
要点は三つに尽きる。第一にHBMの確保を先に決めること。第二に封止のタクト設計を基板調達と同時に進めること。第三にデータセンターの受電・冷却の予定を装置据付計画と重ねることである。これが揃えば、「Blackwell」の導入と国内の産業支援の効果を、滞りなく生産に結びつけやすくなる。
日本勢は供給の“量”よりも“短時間”技術で勝ちを狙うべき

韓国政府の33兆ウォン支援は、資金とインフラの“器”を用意したと言って良いだろう。ここに綿密な計画と事前準備が重なると、封止・検査・電力・冷却が一斉にそろい、爆発的な生産立ち上げが起きる。
このような韓国の動きに対し、日本の半導体業界が今やるべきことは三つに集約される。第一に、韓国側のCAPEXカレンダー(据付・受電・液冷開始)と自社の装置・材料供給計画を同じ時間軸で管理し、遅延要因(基板・RDL・樹脂・検査機)の余裕枠を前広に確保すること。第二に、HBM向けの“ライン合成タクト”を指標に、基板・再配線・熱対策・検査を一つに束ね、歩留まり保証と立上げ支援を契約に織り込むこと。第三に、データセンターの受電・液冷の前提を装置据付のSOWに入れ、据付チームと電力・冷却チームの同時運転を設計段階から固定化すること。
日本勢は供給の“量”よりも“時間”を短くする技術で勝ちを狙うべきなのだ。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- 韓国:33兆ウォンの半導体支援(2025-04-15)|Reuters
- SK×AWS:ウルサンに最大1GWのAIデータセンター(2025-06-20)|Reuters
- SK hynix:HBM4の社内認証完了・量産体制確立(2025-09-12)|Reuters
- Samsung:HBM4供給に向けNVIDIAと協議(2025-10-31)|Reuters
- Micron:AI需要で25年HBM前広売り切れ示唆(2025-03-20)|Reuters
- NVIDIA:韓国向け“26万枚超”のGPU供給(2025-10-31)|公式プレスリリース(IR)
- SK hynix 公式ニュースルーム(HBM4準備完了)