仮想垂直統合で進化する日台半導体連携——九州と台湾、二つのシリコンアイランドが結ぶ未来

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2025年10月8日、九州半導体産業展において、台湾工業技術研究院(ITRI)産業科学技術国際戦略所 所長の林明憲氏が登壇した。
テーマは「台湾半導体産業の発展および九州との連携展望」。講演では、台湾の産業戦略を概観しながら、AI時代における新たな国際分業の形として「仮想垂直統合(Virtual Vertical Integration)」の概念を提示した。

台湾が先導する先進製造と産業集積

林氏はまず、世界の先端プロセスが実験段階を超えて商業化フェーズに移行していると指摘した。2nm・3nmノードが量産段階に入り、TSMCはすでに1.6nm・1.4nmの研究開発を進めている。半導体需要は2025年に前年比11%増、特にロジックICが23.9%増とされ、AI・自動運転・AIoTなどの応用領域が成長を牽引している。

台湾ではこの需要拡大を背景に、TSMCとASE(日月光)による先進封装アライアンスが発足。100社以上が参加し、設計から製造、封止、アプリケーション層までを貫く「産業の縦の最適化」に挑む。林氏はこれを「仮想垂直統合」と呼び、国境を越えたデジタル連携による擬似的な垂直統合体制として位置づけた。研究・製造・人材・資本を台湾と日本で分担しながら、一体的に運用するという新たな構造である。

南台湾のS型クラスターとAI融合戦略

台湾南部では、台南・嘉義・高雄・屏東を結ぶS型半導体クラスターが形成されつつある。台南はAIチップ製造、嘉義は先進封装、高雄は封測、屏東は量子・AI算力拠点として整備が進む。高鉄(新幹線)で南北1.5時間という地理的密度が、集積と分業を支えている。林氏は、AIがもたらす変革を「AI産業化(AIを産業にする)と産業AI化(産業にAIを取り込む)」の二軸で説明。南台湾はその実証基地であり、製造・医療・観光・金属加工など多様な中小企業が、AIを通じて生産性向上とデジタル転換を進めているという。

日台の分業モデルと人材交流の深化

研究開発体制では、国科会(NSTC)傘下のTSRI(台湾半導体研究センター)が前段階(TRL 1–4)、経済部傘下のITRIが中後段階(TRL 5–10)を担い、産学官の“接続型エコシステム”を形成している。ITRIは非営利法人だが、政府60%+企業40%の収益構造で市場との連動性を保ち、実用化までの橋渡しを行う存在だ。 人材面では、台湾の「精創計画」によりAI×半導体融合教育が進む。六つの国立大学が半導体学院を設置し、年間1.5万人を育成。TSMCだけで年間7万人の人材需要があるとされ、供給不足が課題となっている。また、九州大学・福岡工業大学などとの学術MOUを通じ、日本側でも学生・研究者の相互派遣が始まっている。林氏は「オンラインでは信頼は育たない。実際に会い、共に学ぶことが協力の第一歩だ」と強調した。

「兄弟のシリコンアイランド」——歴史が育んだ絆

講演の終盤、林氏はこう語った。「台湾と九州は兄弟のシリコンアイランドである。」この言葉には、単なる産業連携を超えた意味が込められている。戦後も日本文化への親近感を保ち、技術・倫理・勤勉さなど、多くの価値を共有してきた。その上で、今は「対等な立場で共に未来を築く“兄弟”」としての関係を目指す——それが林氏の「兄弟のシリコンアイランド」構想の真意であるのではないか。

包括的協力で描く未来

ITRIはすでに日本企業と共同ファンド(ITIC)を設立し、林氏が支援した台湾企業の中には日本上場を目指す例もある。「仮想垂直統合」は、こうした資本・技術・人材の多層連携を束ねる枠組みとして機能し始めている。

林氏は締めくくりにこう述べた。 「AIとサステナブルな未来を創るために、台湾と日本は一つのチームになる。兄弟のように助け合い、補い合う関係こそが、これからの競争力だ。」台湾と九州、二つのシリコンアイランドが、いま静かに新たな時代の絆を築いている。

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