近年の高度な人工知能(AI)の進化により、生成 AI や自動運転、映像解析などにおいて膨大なデータを一瞬で処理する能力が求められている。こうした処理の中核となるのが当然、AI チップであり、その性能を支える記憶装置、メモリが DRAM である。
しかし、AI の処理能力が上がる一方で、メモリ側がそのスピードや安定性についていけず、システム全体の足かせになるケースが増えている。
こうした課題を打破するため、次世代のメモリである「GDDR7」と「HBM4」が登場している。本稿では、この 2 つの次世代メモリが、どのように AI チップのこれまでの限界を押し広げているのか、を紹介する。
GDDR7 と HBM4 の性能と実力
1.GDDR7:ゲームや AI に対応する高速処理新メモリ
GDDR とは「Graphics Double Data Rate」の略称で、主にゲーム用のグラフィックスカードに使われてきた高速メモリである。その最新版である「GDDR7」は、2024 年 6 月に米 Micron Technologyによって発表された。「GDDR7」の性能や特長は以下の通り。
- データ転送速度最大 32Gbps。前規格の GDDR6 と比べて約60%の高速化している。
- 電力あたりの性能が GDDR6 と比較して 50%以上改善されており、省エネ性にも優れている。
これにより、画像処理や AI 演算といった負荷の高いタスクにも対応可能となり、AI アクセラレータ(処理補助装置)への搭載も進んでいる
2.HBM4:縦に積み重ねて使うタイプで、高速かつ大容量

HBM(High Bandwidth Memory)は、複数のメモリチップを縦に積み重ねて使うタイプのメモリで、高速かつ大容量という特長がある。2025 年 3 月、韓国 SK hynix は世界初の 12 層構造 HBM4 の出荷を開始した。性能や特長は以下の通り。
- 1 スタックあたりの帯域幅は最大 2TB/秒と極めて高速
- 新しい封止技術(MR-MUF)により、熱による変形や性能劣
化も抑制する
このような特長から、HBM4 は生成 AI やスーパーコンピュータなど、最高レベルの処理性能が要求される用途に最適である。
「熱問題」へどう対応するか
さて、ここで高性能 DRAM には避けて通れない「熱問題」について、この 2 つのメモリがどう対応しているのが見ていこう。
1.グラフェンを使って最適な放電設計に
高性能メモリは大量のデータを一気に処理する分、熱が発生しやすくなる。この熱によってメモリの動作が不安定になったり、寿命が縮まったりすることもあるため、最適な放熱設計が重要になる。
この最適な熱設計において注目されているのが、グラフェンという材料。グラフェンは、炭素原子がシート状につながった構造で、非常に優れた熱伝導性を持っているからだ。
2024 年 10 月に発表された研究では、特定の方向に整えたグラフェンが 47.9W/m·K という高い熱伝導性を示した(出典: NanoResearch 誌2024 年 10 月 )という。これは従来の熱伝導材料よりも高い性能で、AI チップの冷却素材として期待されている。
2.「複合素材」の活用で高性能を

もう一つの対策として、高熱伝導性を持つ複合材料の研究が進んでいる。2025 年 5 月に発表された研究では、ポリイミドという樹脂にダイヤモンドのナノ粒子や SiC(炭化ケイ素)ウィスカーを混ぜて作られた複合材が紹介された(出典:RSC Journal “MaterialsHorizons”2025 年 5 月)。この複合材の特性は以下の通り。
- 熱伝導率は 1.63W/m·K と高く、熱を効率よく逃がせる
- 熱膨張もしにくいため、急な温度変化にも強い
このような素材は、メモリを支える基板や接続部分に使われ、全体の熱安定性を高める役割を果たす。
確実に AI 時代の主役のひとつへとポジションを変えつつあるメモリ

このように AI 時代に DRAM 求められるのは、単なるスピードだけではない。
処理中の安定性や消費電力、発熱への対策を含めた総合的なバランスが重要なのだ。
GDDR7 や HBM4 といった次世代メモリは、まさにそのバランスを目指して開発されている。
さらに、放熱材料や構造設計の工夫も相まって、メモリはもはや「単体部品」ではなく、システム全体の設計要素となりつつある。
メモリは、静かに、しかし確実に AI 時代の主役のひとつへとポジションを変えつつあるのである。