拡大するSEMICON Taiwanと揺らぐ技術安全保障――昨年との比較で見えた「光と影」

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30周年を迎えたSEMICON Taiwan         

2025年9月、アジア最大の半導体展示会「SEMICON Taiwan」が台北で開催された。今年は30周年という節目であり、イベントは過去最大規模へと拡大した。出展企業は1,200社超、ブースは4,100以上、来場者は10万人規模と見込まれ、いずれも昨年を上回る数字である。AIやHPC向けの需要が世界的に高まるなか、台湾は依然として“世界の半導体ショーケース”であり、製造・実装・材料・装置までが一堂に会する生態系の結節点となっている。各社の発表やデモンストレーションは、微細化だけでは届かない性能向上を、実装の創意工夫で切り開く方向へと確実に舵が切られていることを示した。

昨年比で強化された点

昨年との比較で目立つ強化点は三つある。第一は規模の拡大だ。2024年は約1,100社・3,600ブース・8万5千人規模だったが、今年は各指標が一段押し上げられ、台湾に集まる注目の高さを裏づけた。第二はテーマの多様化である。AI/HPCに直結する先進パッケージングに加え、サイバーセキュリティが前面に打ち出された。製造装置の安全性を対象とする世界初の標準「SEMI E187 Certification」が披露され、「作る力」と「守る力」を並列に扱う時代へ移行しつつあることが可視化された。第三は会期の設計である。「International Semiconductor Week」と銘打ち、9月8~9日のフォーラムと10~12日の展示を連動させ、経営・技術・政策の議論を横断的に接続した。

先進パッケージングの現在地

3DICとChipletsは、演算と記憶を近接配置し、帯域と電力のトレードオフを最適化する“設計思想”の刷新である。HBM(High Bandwidth Memory)の広帯域を短距離で引き出すためには、インターポーザやRDLの配線密度、ビアの形状、熱拡散経路、アンダーフィルの機械特性など、複数要素の同時最適が欠かせない。FOPLP(Fan-Out Panel Level Packaging)は大面積基板でコストカーブを引き下げ、歩留まりと再現性の制御が競争軸になる。CPO(Co-Packaged Optics)は電気I/Oの物理限界を光で突破し、スイッチ/アクセラレータの入出力を根本から変える可能性を持つ。これらは単なる流行語ではなく、材料・装置・EDA・計測に広がる“総合戦”であり、OSAT・Foundry・材料ベンダー・装置メーカーが並走してロードマップを磨き込む段階に入っている。台湾の強みは、設計から量産までを実地で統合し、学際的な最適化をスピード感もって回せる点にある。

サイバーセキュリティと“守り”の基盤

今年のSEMICON Taiwanで前面に出たのが、製造装置と工場ネットワークのサイバーセキュリティである。接続点が増えるほど攻撃面が広がり、OT(制御)とIT(情報)の断面に脆弱性が生まれやすい。量産ラインを止めるリスクだけでなく、設計データやプロセスレシピ、装置ログといった知財の流出は、競争優位を根こそぎ奪いかねない。こうした状況に対し、SEMIは装置レイヤに焦点を当てた「SEMI E187 Certification」を提示した。装置の開発・導入・運用の各段階で、SBOM(ソフトウェア部品表)の整備、脆弱性の通報と是正、暗号化や認証の実装、ログ監査、ネットワーク分離の原則など、地味だが実効性のある対策を“仕様化”していくアプローチだ。各社ブースでは、ゼロトラスト、リモート保守の安全化、ファームウェアの署名更新、アラートの標準化といった具体的な運用例が共有され、サプライヤー選定の条件として「守りの設計」を織り込む動きが明確になってきた。

2ナノ技術漏洩報道の衝撃

セキュリティの議題が強まる背景には、現実のインシデントがある。報道によれば、元TSMCエンジニアの陳氏は、同社を退職後、東京エレクトロンの台湾現地法人(Tokyo Electron Taiwan Ltd.)に転職し、そこでの関係を通じてTSMCの2ナノ製程に関する機密情報の入手を試みたとされる。台湾当局は国家安全法に基づいて厳格に対処しており、先端ノードは“国家的コア技術”として扱われることが改めて明確になった。事件の詳細は司法手続きの進展に委ねられるが、少なくとも産業界に対しては二つの教訓を突きつけている。第一に、技術の価値が上がるほど“内部からの流出”のリスクが増すということ。第二に、装置・材料・設計・運用のどこにボトルネック(脆弱点)があるかを可視化し、契約・教育・監査の仕組みで継続的に締める必要があるということだ。

この文脈で注目したいのが、人材の越境とデータの越境である。台湾の半導体産業は国際分業の最前線にあり、情報・人材・装置が国境を跨いで循環する。その強みは同時にリスクでもある。採用・退職・転籍の各局面における機密保持、クラウドEDAや遠隔サポートにおけるアクセス権限管理、研究段階から量産までのデータ分類と持ち出し統制――いずれも“産業運用”の領域だ。展示会のセッションでは、技術ロードマップと同じ熱量で、現場の標準作業(SOP)や監査可能性をどう作り込むかが語られていた。

なお、現場実装に落とす際の勘所としては、装置ごとの認証情報の分離、メンテナンス時の一時的な特権付与の記録化、変更管理(MOC)の徹底、外部委託先への最小権限付与、停止時の手動代替手順の整備など、チェックリスト運用の“習慣化”が挙げられる。

光と影の二面性

SEMICON Taiwanの華やかさは、産業の“光”を映し出す。だが同時に、情報が集まり、人材が行き交い、技術ロードマップが交錯する場は“影”も濃くする。展示会は「見せる」ことで需要を喚起し、共同研究や受注の扉を開く。一方で、何をどこまで見せ、どの粒度で語るかを設計しなければ、競争優位を削りかねない。昨年は、AIブームを背景に“量の拡大”が主旋律だった。今年は、拡大の先にある“質の転換”が問われたといえる。すなわち、性能・コスト・スピードだけではなく、レジリエンス、セキュリティ、サステナビリティ、人材育成といった非機能要件を、同じテーブルで最適化する姿勢である。

この変化は、台湾のエコシステムが“成熟段階”に入ったことも示す。3DICやChapletsのように技術選択肢が広がるほど、材料・装置・計測・設計を横断した合意形成が欠かせない。そこで価値を持つのは、個別の尖った要素だけではなく、フロント~バックエンド、実装、検査、量産運用、RMAまで切れ目なく繋ぐ“現場力”だ。SEMICON Taiwanの議論は、表層のスライドではなく、プロセス統計、装置の稼働率、レシピのばらつき、サプライヤー監査、保守のSLAといった泥臭い指標に踏み込みつつある。投資判断の観点でも、CAPEXの見栄えだけではなく、サイバー対策や教育に投じるOPEXを“競争力の一部”とみなす視点が浸透し始めた。

総括と結語

国際協力の文脈でも、今年のSEMICON Taiwanは示唆的だった。各国パビリオンが拡大し、研究機関・大学・スタートアップが連携の糸口を探る。だが同時に、各国の輸出管理や投資審査、人材の越境規制は複雑化している。ゆえに、技術を“共有”する軸と“防御”する軸を、プロジェクトの初期段階から設計図に落とし込む必要がある。共同研究契約における知財帰属、データの保存場所とアクセス権限、供給停止時のフォールバック――それらを仕様として埋め込むことが、後工程での摩擦を大幅に減らす。

総括すれば、2025年のSEMICON Taiwanは「作る力」と「守る力」を同時に押し上げる転換点だった。昨年比で規模が拡大し、先進パッケージングが深化し、セキュリティ標準が前面化した。その文脈の中で、2ナノ技術漏洩の報道は、技術の価値が高まるほど防御の重要性も増すという当たり前の事実を、改めて突きつけた出来事である。産業の成熟とは、派手な発表と同じ比重で“守りの体系”を磨くことだ。台湾の現場は今、その作業に真正面から取り組んでいる。

結語として、私たちは次の問いを共有したい。――半導体の未来は、華やかな展示会場の光と、目に見えにくい運用・契約・教育の影、その両方にかかっているのではないか。勝つために必要な技術を磨くことと、負けないために必要な仕組みを作ること。二つの営みを同じテンポで回すことができた企業と地域が、次の十年を牽引するだろう。

参考情報(報道出典リスト)

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