宇宙産業と半導体──民間打ち上げ企業が求める「放射線耐性IC」の新常識

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民間ロケットや月面探査の台頭で、宇宙機に載せる半導体に求める機能が急速に変わっている。従来の耐放射線に特化した特注品的な“ラッドハード(rad-hard)一択”から、市販ベースの製品を宇宙向けに仕立てるCOTS(Commercial Off-The-Shelf)品へ変わってきている。

たとえば、日本でも専用の射場から人工衛星搭載ロケットの打ち上げを行う日本初の民間企業であるSpace Oneの商業ロケットや、ispaceの月面挑戦が続いており、海外では米Fireflyが北海道での打ち上げ可能性をほのめかすなど、低コスト・短納期・高信頼を同時に満たす“宇宙用IC”の需要が一気に現場化している。

本稿では、このように変わりつつある民間打ち上げ企業が求める「放射線耐性IC」の新常識を考察する。

1. 試行錯誤が続く一方で、市場自体は拡大

日本の宇宙スタートアップ企業であるispaceは、2025年6月の2回目着陸を失敗した。しかし、商業月面輸送はこのように試行錯誤が続く一方で、市場自体は拡大している。

一方、人工衛星搭載ロケットの打ち上げを行う日本初の民間企業であるSpace Oneは、2024年12月の初号機が飛行中止した。このため、国産民間ロケットの信頼性向上と並行して、衛星側の部品調達・設計の平準化が急務となっている。さらに米国の航空宇宙企業Fireflyは、北海道スペースポートでの打ち上げの可能性を示し、日本は2030年代初頭に年間30機の打ち上げ目標が報じられるなど、需要の裾野拡大は確実と言える。

2. COTSベース宇宙用ICとは?

COTSベースとは、市販ICを宇宙向けスクリーニングや追加データ(トレーサビリティ、WLAT、RLAT、SEE/TIDレポート)で“宇宙級”に仕立てる発想。Analog Devicesは「Standard Space(ASD/ASD-Lite)」という標準スペース品を提供し、QMLV製造ラインでの品質や放射線試験レポートのパッケージ化により、SCD依存を減らしつつ短納期・量産性を高める選択肢を提示している。

パッケージや放射線レベルを複数グレードから選べるメーカーが増えている。軌道×寿命に応じた“必要十分”設計が現実的になっている。

実際、NECスペーステクノロジーが国産COTS転用案件を決定した。「COTSで宇宙へ」を国産部材で支える動きが始まっている。

3. 放射線設計の新ポイント

さて、次に放射線設計の新ポイントについて紹介する。部品選定では、TIDが100 krad級を要する箇所はRT PolarFire/SoC等のラジトレ/ラジハイで対応する。SEEはSELしきい値、SEU断面積、EDAC(ECC/SECDED)等を最優先チェックすることが必要だ。

アーキ設計では、局所二重化+投票(TMR)、エラーログ常時監視、ウォッチドッグ、フェイルセーフ復帰など“ソフトで守る”仕立てがCOTS活用のリスクヘッジになる。

検証は、LOT別TIDレポート、SEE(重イオン/陽子)特性、RLATを資料入手→設計値化→試験合意まで“3点セット”で運用するのが王道だ。

4. 直近1年の製品動向

ここで各企業の直近1年の製品動向をみていこう。

  • Microchip:RT PolarFireで新デバイス資格の進展とSoC提供を発表。非揮発アーキテクチャで構成アップセット免疫、低電力が特長。
  • Infineon:512 Mbit QSPI NOR FlashがQML-V/Pを取得。セラミック/プラスチック両パッケージを揃え、ブートや設定ストレージの“宇宙級”選択肢である。
  • Texas Instruments:最大200Vの宇宙グレードGaN FETゲートドライバを公開。ラジハイ/ラジトレ、セラ/プラのレベリングを横串で選べ、電源の高効率化=熱設計余裕に直結。
  • Analog Devices:ASD/ASD-Lite等のBroad Market Spaceを拡充。QCI(Group-B/C/D/E)、WLAT、トレーサビリティの標準化で、SCDレス運用も見据える。

5. “ラジハイ一辺倒”から“ハイブリッド設計”へ

これまでみてきたように、今後はただ単に機械的なラジハイでは、コスト・納期が市場のスピードに追かないだろう。とはいっても逆に、COTSの無差別採用はミッション継続性を損なってしまう恐れがある。

そこで、これまでの考察から導かれる答えとして、ラジハイとCOTSの良いところバランスよくとった、ハイブリッド設計を提案したい。日本の民間打ち上げが本格化する今後の5年、宇宙用ICを速く・安く・確実に届けるサプライヤが重要になってくる。

各各社とも今後の製品ロードマップには、同一機能で“ラジハイ版/標準スペース版/産業COTS+アップスクリーン版”の三層構成を用意し、共通ピンアウトと代替容易性を初期から仕込むのが得策ではないだろうか。国内企業は国産COTS転用の動きを取り込み、海外打ち上げ活用期でも日本発の供給選択肢を増やす──これが“スピードと信頼”を両立する近道なのだ。

付記(用語メモ)

  • COTS:市販品。宇宙向けでは追加試験・トレースを付与して“宇宙級”運用に。
  • TID:Total Ionizing Dose(総線量劣化)。
  • SEE/SEU/SEL:単一事象(ビット反転/ラッチアップ)。
  • QML-Q/V/P:米DLA認定区分(品質・パッケージの厳格度)。
  • 標準スペース品:QMLVライン等で製造し、QCI/WLAT/トレースや放射線試験の整備を標準化した宇宙向け量産カテゴリ。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。

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