IDCによると、スマートウォッチを中心に拡大してきたウェアラブル市場は、2024年のスマートウォッチ出荷が前年比4.5%減となり、2025年のウェアラブル全体の成長も4.1%増にとどまる見通しである。これは“単に装置に機能を搭載する”だけでは、差別化が難しくなっていることを示しており、「装置」から身体に最も長時間・広面積で触れる「衣服(テキスタイル)」側へセンシングの主戦場が移りつつあることを示していると言える。
そして、この「衣服」への移行の課題は明確で、①洗濯・伸縮・摩耗に耐える実装、②装着感(快適性)を損なわない薄型・柔軟性、③量産しやすいサプライチェーンの3点を同時に満たすことなのだ。
本稿では、「衣服」移行へ向けた国内外の実証・製品化動向と量産へ向けた動きを整理する。
1.スマートテキスタイルと e-Textile用ICとは
まず、この考察において必要な「スマートテキスタイル」と「e-Textile用IC」について説明する。
スマートテキスタイルは、電気的機能(計測・通信・加温など)を付与した布地のことである。伸縮・通気性を維持しつつ、導電糸・印刷配線・繊維内センサで信号取得と伝送を実現する。
一方、e-Textile用ICは、衣服に組み込む超小型・低電力ICのこと。柔軟基板やストレッチャブル基板上に低応力で実装でき、薄型封止で耐洗構造をとれることが必須で、人体近傍アンテナの detuning(共振ずれ)を抑える材料選定が重要ポイントとなる。
2.国内材料・実装の進展状況
ここでは、国内材料・実装の進展状況として、“柔らかさ”と“洗える”の2ポイントに焦点を置き解説する。
村田製作所と東レが柔らかい基板の道を拓く
村田製作所は2024年10月、伸縮環境でも動作できるストレッチャブル基板(SPC)を発表。衣服や皮膚上のしわ・ねじり・張力に追従する回路実装の道を拓いた。
東レは2025年7月、厚膜(~200µm)・線幅30µm級の微細加工に対応する感光性ポリイミドを公表。高アスペクト微細配線と低応力を両立し、薄型・高精細FPC/封止構造の自由度を高める。
“洗える”実装と封止
スマートテキスタイルでは、完全一体化よりも「アイランド・ブリッジ」(IC島を布の可撓ブリッジで繋ぐ)やモジュール着脱式が現実的だと思われる。これは、低温・低収縮の弾性封止で洗剤・水・機械衝撃からICを保護し、導電糸/印刷配線の冗長化で断線リスクを抑えるからだ。
村田製作所の樹脂モールド・ワイヤボンディング対応NTCサーミスタ(2025年5月発表)は、高温・高応力環境での高信頼接合と小型実装の在り方を拡張した。布中の温度・生体信号計測において耐環境性のあるパッケージ設計に有効である。

3.衣服側はどう受け止めているか
次に、搭載側、つまり衣料メーカー動向を見ていく。
NIKE と SKIMSは、2025年2月に新ブランド「NikeSKIMS」を発表し、女性アスリート向けの機能美を打ち出した。6月には米国ローンチ延期を公表した。スマートテキスタイルの本格投入前段として、着心地・品質基準の引き上げが進んでいる。
国内ではミズノと洋服の青山が2025年5月、「冷感ビジネスT/ポロ」を発売した。これは生地に、ミズノ独自の熱伝導率の高い特殊な糸『アイスタッチ』を使用している。
全体動向としては、McKinseyの『State of Fashion 2025』によると、安定した需要が見えてこないことや、まだコスト高であることよりも、機能性・将来性を見込んで投資する企業が増えると指摘している。
4.半導体側が打つべき施策とは

では、このような製品や衣料の状況に対し、半導体はどのような施策をとるべきか。
第一に、材料とパッケージの共同最適化である。ストレッチャブル基板と感光性PIを軸に、曲げ半径・硬化収縮・洗濯プロファイルをパッケージ設計ルール化するのである。
第二に、e-Textile用ICのさらなる高機能化である。
そして第三に、ファッション側とのプロトコルの整備をさらに進めること。NIKEやミズノの動きが示すとおり、ユーザーの体験価値(満足感)の作りこみが成否を分けるからだ。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- IDC Wearable Devices Market Insights(2025年8月更新)
- Stretchable Printed Circuit(SPC)技術を発表(村田製作所ニュース, 2024/10/30)
- Toray Announces Breakthrough Photosensitive Polyimide(東レNewsroom, 2025/07/03):
- 世界初、樹脂モールド構造かつワイヤーボンディング対応のパワー半導体用NTCサーミスタ(村田製作所ニュース, 2025/05/20)
- 猛暑に備えるビジネスウエア「ミズノ」×「洋服の青山」共同企画(ミズノ公式ニュース, 2025/05/29)
- NIKE, Inc. and SKIMS Introduce New Brand for Women(NIKE公式ニュースルーム, 2025/02/18)
- Nike delays launch of women’s brand in partnership with Kim Kardashian’s Skims(Reuters, 2025/06/18)
- The State of Fashion 2025(McKinsey, 2024/11/11)