
朴ソヒアシュリー
(Seohee Ashley Park)
ビクトリア大学ウェリントン校(NZ)講師
(相当職:助教授)
年率15.3%成長が示す中古装置市場の実像
「技術革新が加速する中で、中古装置に真の価値はあるのか?」
この疑問に対し、最新の市場データが明確な答えを提示している。
グローバル中古半導体装置市場は2023年の32億7,200万ドルから2030年には84億9,100万ドルへの成長が見込まれ、年平均成長率は15.3%に達する見通しだ。
これは新品半導体製造装置市場の3.9%成長率を大きく上回る数値であり、中古装置が単なる「コスト削減策」から戦略的成長ドライバーへと進化していることを示している。
地政学リスクが押し上げる中古装置の戦略的価値
米中技術覇権競争の激化は、皮肉にも中古装置市場に追い風をもたらしている。
2024年、韓国のサムスン電子とSKハイニックスが米国からの圧力により中国への中古半導体装置販売を停止し、在庫を倉庫に保管する事態となった。この動きは極めて象徴的だ。
米国が中国に対して24種類の先端半導体製造装置の輸出を禁止する中、規制対象外である中古装置が持つ希少性と戦略的重要性が急激に高まっている。新品装置の供給制限により、需給の基本原理が現実に作用していることが明確に表れている。
一方、その韓国会社は、設備の世代交代サイクルが短いため、中古半導体製造装置の主要な供給源と位置づけられてきた。しかし、2022年以降は、米国の対中輸出規制を意識して、中古装置の販売を一時中断し、倉庫で保管する動きも確認されている(ただし、一部の米国製装置を除く)。
200mmレガシー市場:メモリとロジックの二極化構造
市場セグメント別では、200mmウエハー用中古装置が最大シェアを占めており、MEMS、IoT、パワー半導体、車載チップなど成熟ノード向けの根強い需要に支えられている。
しかし、この200mm市場内では興味深い地域分化が進行している。レガシーメモリチップの製造においては、韓国と中国のメーカーが主導権を握っている。
特に2023年、中国では、SMIC(中芯国際)などの国内メーカーが政府支援の下でメモリ産業の自立化を推進しており、これらの企業向けの200mm中古装置需要が急増していた。
これに対し、産業用途やアナログ/ロジックチップ向けの製造では、台湾のUMCや米国系GlobalFoundriesなど複数のファウンドリーが供給網を牽引し、より多様な地域への装置流通が進んでいる。
パワー半導体:日本企業が真価を発揮する150mm化合物半導体の世界
特に注目すべきは、150mm化合物半導体ウェハー用装置分野における日本企業の圧倒的な存在感である。SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)、GaAs(ガリウムヒ素)、InAs(インジウムヒ素)などの化合物半導体を用いたパワーデバイス製造において、三菱電機、富士電機、東芝、ルネサス、ロームといった日本企業が世界市場で大きなシェアを占めている。
日本企業がパワー半導体分野で優位性を保持している背景には、長年にわたる技術開発と製造における高度な専門知識の蓄積がある。自動車産業や産業機械など、パワー半導体を多用する分野での国内需要の高さと、これらの業界との密接な連携が、日本企業の競争力の源泉となっている。
2024-25年の電気自動車販売の停滞は確かにパワーデバイス製造業者に打撃を与えているが、この技術セグメントは自動車以外にも幅広い応用分野を持つ。再生可能エネルギーインバーター、データセンターの電源効率改善、5G基地局の高効率化など、デジタル社会の基盤インフラにおいてパワー半導体の需要は急速に拡大している。
特にSiCパワーデバイスの市場は、2030年までに年平均成長率30%以上の拡大が予測されており、これに対応する150mm SiC装置の中古市場も同様の成長軌道を描いている。日本企業が開発・製造した高品質な装置は、中古市場においても新興メーカーから高い評価を受け、しばしば新品価格の70-80%で取引されている。
「ものづくり」の真価が問われる成熟技術分野での競争優位
東京エレクトロン、SCREENといった日本企業が長年培ってきた「日本品質」のブランド力は、中古装置市場において独自の競争優位性を生み出している。
長期使用に耐える堅牢性、精密な保守・改修技術、そして絶え間ない品質改善への取り組みに代表される日本の伝統的な「ものづくり」哲学が、中古装置の価値最大化に直結している。
実際、日本製半導体装置は中古市場においても高い残存価値を維持することで定評があり、価格競争に巻き込まれない品質差別化戦略の展開が可能だ。
特にパワー半導体製造装置においては、プロセスの安定性と歩留まりの高さが直接的な競争優位となり、中古装置であってもプレミアム価格での取引が成立している。
アジア市場での優位性と持続可能性への貢献
アジア太平洋地域は、世界の半導体生産の80%(2024年5月時点)を担う一大拠点となっており、中古半導体装置市場を牽引している。日本はこの地域において、技術的信頼性と地理的近接性という二重の優位性を享受している。
韓国・台湾のメモリ半導体やファウンドリー大手、中国の急成長する半導体メーカー(特に、AI半導体分野)との技術パートナーシップを通じ、従来の装置販売を超えた新たなビジネスモデルの構築が現実的な選択肢として浮上している。装置の販売後も継続的な技術サポート、アップグレード、性能最適化サービスを提供することで、単発の取引関係から長期的なパートナーシップへの発展が可能となっている。
環境持続可能な成長(ESG)への関心の高まりも、日本企業にとって追い風だ。新品装置製造と比較して50-70%のカーボンフットプリント削減を実現する中古装置の活用は、ESG経営の要請とも合致する。
日本企業が得意とする「改善(カイゼン)」の文化は、中古装置の単純な転売ではなく、継続的な性能向上と長寿命化による付加価値創造へと発展させる原動力となる。新品比50-70%のコスト削減効果と短期での投資回収も、依然として強力な経済的推進力として機能している。
技術文明の民主化を推進する新たな成長エンジン
技術変化が激しい現在において、中古半導体装置は日本企業に向けて新たな成長機会を提示している。
15.3%という高い成長率、地政学的制約による市場構造の変化、成熟ノードへの持続的需要、そして日本企業固有の技術的優位性——これらすべてが、中古装置市場での成功可能性を高める要因として機能している。
より深い視点から見れば、中古装置市場の拡大は単なる経済現象を超えた文明的意義を持つ。
かつて印刷技術が知識の独占を破り、産業革命が生産手段を民主化したように、半導体技術の普及は21世紀の技術文明基盤そのものを再構築している。中古装置を通じた「技術アクセスの民主化」により、より多くの地域・企業が半導体製造能力を獲得し、グローバルな技術革新エコシステムの一翼を担う機会を得ている。
中古半導体製造装置は、もはや「次善の選択肢」ではない。むしろ日本企業が誇る品質への信頼と技術力を基盤とした新たな価値創造が可能な「戦略的ブルーオーシャン市場」へと変貌を遂げた。
日本企業にとって、これは単なるコスト最適化を超越し、グローバル半導体エコシステムにおける「技術パートナー」としての新たな地位確立への道筋を示している。
この変革の波に乗ることは、技術文明の民主化という歴史的潮流において、日本が果たすべき独自の役割を体現することに他ならない。
出典リンク
Global Used Semiconductor Equipment Market
US to Block Sale of Cutting-Edge Chip-Making Equipment to China
Samsung, SK hynix Stop Sales of Used Chipmaking Kit to Brokers
Chinese Chipmakers Step Up Buying Fab Equipment
Mature-Node Shake-Up? GlobalFoundries Reportedly Seeks Taiwan’s Approval for Potential UMC Merger
Japan Aims to Lead the World in Power Semiconductors
Trends in electric car markets – Global EV Outlook 2025
Silicon Carbide Semiconductor Devices Market Size, Share & Trends Analysis Report
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Asia’s semiconductor powerhouses can thrive in the AI era
Japan companies cut CO2 emissions while expanding businesses, study shows