ニュースでは「NVIDIA(エヌビディア)が最高益」「TSMCが新工場を建設」といった見出しが頻繁に登場します。
しかし、あらためて「この会社は半導体業界のどの部分を担当しているのか?」と聞かれると、すぐに答えられない人も多いのではないでしょうか。
半導体ビジネスは、ひとつの会社がすべてを担っているわけではないのです。
巨大な“まちづくり”のように、
• 新しい半導体を考える企業 = どんなビルを建てるか考える人(企画・オーナー)
• 半導体の設計図を作る企業 = 図面を引く設計事務所
• 半導体を作る工場 = 実際に工事を進めるゼネコン
• 製造装置や材料メーカー = クレーンや生コン、ガラスを供給する装置・材料メーカー
といった役割を、多くの企業が分担して進めています。
本稿では、この構造を「ビル建設プロジェクト」にたとえながら、それぞれどのポジションで仕事をしているのかを、具体的な企業名とともに見ていきます。
まず“設計図”を描く:半導体ビジネスは5つの役割に分かれる

最初に、これからの章立ての“前提となる設計図”だけをシンプルに整理しておきます。
半導体ビジネスは、ビル建設プロジェクトにたとえると、次の5つの役割に分けて考えることができます。
① 企画・オーナー(最終製品メーカー)
スマホメーカー(AppleやSamsung Electronics:サムスン電子)、クラウド事業者(Amazonなど)、自動車メーカー(トヨタ、ホンダなど)。
② 設計事務所(ファブレス)
エヌビディア、Qualcomm(クアルコム)、MediaTek(メディアテック)など。
③ ゼネコン(ファウンドリ)
TSMCやサムスン電子のファウンドリ事業。
④ ハウスメーカー型(IDM)
Intel(インテル)やRenesas(ルネサス)など。
⑤ 重機・建材・特定ビル(装置・材料・特定デバイス)
東京エレクトロン、信越化学、SUMCO、Sony、キオクシアなど。
この“5つの役割”という地図を頭の片隅に置きながら、順を追って企業とビジネスモデルを見ていきます。
「設計事務所」としてのエヌビディア──ファブレスの強み

1. エヌビディアは“図面とソフトウェア”で稼ぐ会社
エヌビディアは、自社工場を持たないファブレス半導体企業。
GPUおよびデータセンター向けプラットフォームを中核とし、AIチップ市場でも支配的な立場にあります。
“フルスタック”でリードし、設計+ソフトウェアまで含めた高付加価値ビジネスを展開しています。
2. ファブレスの強み:設備投資よりも“頭脳”と“プラットフォーム”
ファブレスは、工場投資を避け、設計技術とソフトウェアに集中できるモデル。
エヌビディアはGPUに加え、CUDAやAIフレームワークとの統合、リファレンス設計なども提供しています。
3. エヌビディア以外の設計事務所たち
• クアルコム:Snapdragon設計
• メディアテック:中価格スマホ向けSoC
• AMD:TSMCに委託する設計型プレーヤー
ファブレスは、軽やかな反面、ファウンドリの状況に影響されるリスクも持ちます。
ゼネコンとハウスメーカー──TSMC・サムスン電子・インテル・ルネサス・ラピダスのポジション

1. TSMC:世界最大の“ゼネコン専業”ファウンドリ
ファブレス企業からの設計を受託し、先端プロセスで製造。
製造サービスに特化し、自社ブランドチップは持ちません。
2. サムスン電子:メモリ+ロジック受託の二刀流
メモリ製品ではIDM、ロジックではファウンドリを展開するハイブリッド型。
3. インテル・ルネサス:ハウスメーカー型IDMの現在地
インテルはファウンドリへ転換中、ルネサスはHondaと協業でSoC設計をTSMCに委託。
IDMも単独完結型から協業型へ変化しています。
4. ラピダス:日本発の“2nmゼネコン候補”
北海道で2nmパイロットラインを構築中。
IBMやimecと連携し、先端技術導入を進めています。
クレーンと建材、専門ビルで支える日本勢──装置・材料・特定デバイス

1. 東京エレクトロンなどの製造装置メーカー:現場の“重機”
成膜・エッチング装置、テスト装置を提供。
前工程に不可欠な“重機”を供給しています。
2. 信越化学・SUMCO:地盤となるシリコンウエハ
信越化学・SUMCOは世界的なシリコンウエハ供給企業。
半導体の“基盤”を支えています。
3. ソニーのイメージセンサ:カメラ付きの“高機能ビル設備”
スマホ向けCMOSイメージセンサで世界トップ。
高機能センサを提供する“専門ビル設備”企業です。
4. キオクシアとメモリ勢:NANDフラッシュという“物流倉庫ビル”
キオクシアはNAND専門、Micronは高速HBMで日本拠点を展開。
“倉庫ビル”型のインフラとして重要な存在です。
各企業の“立ち位置確認“が大切

本稿では、半導体ビジネスをビル建設になぞらえて構造を整理してきました。
「この会社は設計事務所か? ゼネコンか? 建材メーカーか?」と俯瞰することで、業界全体の理解が進みます。
これは、投資やキャリア選択にも役立つ視点です。
今後も本シリーズでは、半導体業界のさまざまな側面を解説していきます。
知りたいテーマがあれば、画面右側のコメント欄からお寄せください。
読者の疑問にもできるかぎりお応えしながら進めてまいります。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- NVIDIA Corporation Form 10-K 2025
- AI Chipset Market – Global Forecast to 2030(MarketsandMarkets)
- TSMC Files Annual Report on Form 20-F for 2024(TSMC/BusinessWire)
- 2Q25 Foundry Revenue Surges to Record High(TrendForce)
- Hondaとルネサス、SDV用 高性能SoCの開発契約を締結(本田技研工業ニュースリリース)
- ラピダスへの先端半導体製造技術開発支援(経済産業省)
- Rapidus Corporate Information/Interview
- Japan’s Sublime Semiconductor Supply Chain(Reuters Plus)
- Annual Report 2025(Shin-Etsu Chemical)
- Smartphone Image Sensor Market Share Q2 2025(TechInsights)
- Integrated Report 2025(Kioxia Holdings)
- マイクロンメモリ ジャパン、経済産業省からの支援決定に関するニュースリリース(Micron)