スマートフォンも、ゲーム機も、そして電車の制御システムといった製品の中では、砂からつくられた小さな「チップ」が黙々と働いています。
しかし、そのチップがどのような材料から作られ、どのような工程を経て、私たちの手元に届くのか、その流れを具体的に思い描ける人は、そう多くはないでしょう。
そこで本稿では、砂の状態から最終製品に組み込まれるまでを「旅」に見立てて、半導体の一生をたどってみます。
旅の出発点は「砂」──シリコン原料ができるまで

半導体チップの多くは、「シリコン」という素材から作られます。
シリコンはもともと、石英砂の中に豊富に含まれている元素で、これを精製して金属不純物などを取り除き、高純度のシリコンに作り上げます。
シリコンがこの旅の主役として選ばれている理由として、主に次の3つが挙げられます。
- 地殻中に豊富で、安定的に調達しやすいこと
- 絶縁体と導体の中間的な性質(半導体特性)を持ち、電気の流れ方を制御しやすいこと
- 高温プロセスに耐えられ、既に大規模な製造技術と設備が整っていること
精製されたシリコンは「ポリシリコン」という状態を経て、溶かされ、次の工程で「単結晶インゴット」と呼ばれる大きなシリコンの柱へと姿を変えていきます。
そして、ここから半導体の本格的な“旅”が始まるのです。
円盤状の「舞台」をつくる──インゴットとウエハ加工

精製シリコンを溶融し、種結晶をゆっくり引き上げながら回転させて育てたものが「単結晶インゴット」です。
これは、内部の原子が一定の規則で並んだ“きれいな結晶の柱”であり、この段階で結晶方位なども管理されることになります。
このインゴットは、次のステップで薄い円盤状にスライスされ、「シリコンウエハ」と呼ばれる形になります。
- 外形加工:インゴットの外周を研削し、一定の直径・形状に整える
- スライス:ワイヤーソーなどを用いて、インゴットを薄い円盤状に切り出す
- ラッピング・エッチング:切断で生じた傷や厚みのムラを、研磨と化学処理でならす
- CMP(化学機械研磨):最終的に、鏡のように平らでなめらかな表面に仕上げる
CMPまで終えたウエハは、肉眼で見ると「ただの銀色の円盤」にしか見えません。しかし、この平らさと清浄さが、ナノメートル単位の微細な回路をつくるための土台になります。
ウエハに「回路」を刻む──前工程でトランジスタをつくる

ウエハができたら、いよいよ「回路」を作り込む工程に入ります。
ここからが、いわゆるクリーンルーム内で行われる「前工程(フロントエンドプロセス)」と呼ばれる工程になります。
前工程では、ウエハ上に何十層もの薄い膜を積み重ね、パターンを写し取り、不要な部分を削り取りながら、トランジスタや配線の構造を作っていきます。
- 薄膜形成
- フォトリソグラフィ
- エッチング
- ドーピング
この工程でよく登場するのが、「ナノメートル(nm)」という長さの単位です。
コピー用紙1枚の厚さは約0.1mm=10万ナノメートル。
最先端のチップでは、数十ナノメートルという極小の単位で加工が行われています。
こうした微細加工を支えるのが「クリーンルーム」です。たとえば「ISOクラス5」では、直径0.5μm以上の粒子が1立方メートルあたり3,520個以下に抑えられています。
「空気そのものを洗っている部屋」と表現できるレベルの清浄度です。
チップを「守り、つなぐ」──後工程とパッケージング

前工程を終えたウエハは、碁盤の目状に回路パターンが並んでいます。ここからが後工程です。
- ウエハテスト
- ダイシング
- 実装・接続(ワイヤボンディング/フリップチップ実装)
- アンダーフィル・モールド
- 最終検査
近年はチップレットや3次元実装など、後工程の技術が主役級の重要性を帯びています。
先端パッケージングはサプライチェーンでも重要な役割を果たしているのです。
「世界を旅する」チップ──組み立て品からあなたの手元へ

完成したチップは、スマートフォンや自動車、工場設備などへと出荷されます。
製造の流れは以下のような多段構造です。
- 材料メーカーが供給
- ファウンドリ/IDMが前工程を担当
- OSATが後工程を担当
- モジュール/最終製品メーカーが組み立て
アジアに拠点が集中する一方、欧米や日本でも分散化が進んでいます。
最終的に、あなたのスマホの中で、静かにそのチップが働いているのです。
半導体は「製品」であると同時に、「巨大な協業の結果」
半導体は、石英砂から始まり、数千の工程を経て完成します。
地味な作業の積み重ねが、ナノスケールの超精密なチップを作り出しているのです。
また、多様な専門企業の協業なしには、この旅は完結しません。
どこか1社が止まれば、チップ全体の供給も止まってしまうのです。
その意味で、半導体は「製品」であると同時に、「巨大な協業の結果」でもあるのです。
こうした“見えない旅”を理解することは、産業や人材育成にとっても重要です。
今後も本シリーズでは、「どんな会社がどの分野を得意としているのか」「日本企業はどこで強みを発揮しているのか」といった半導体業界のさまざまな側面を解説していきます。
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読者の疑問にもできるかぎりお応えしながら進めてまいります。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- Semiconductor 101: SK hynix on How Chips Are Made & Operate
- How are Silicon Wafers Made?(D&X)
- Shift to Larger Diameter Silicon Wafers (Part 2): How Silicon Wafers Are Made(Nisshinbo Micro Devices)
- Semiconductors have a big opportunity—but barriers to scale remain(McKinsey & Company)
- Let’s explain to junior high school students simply! What is a nanometer?
- What is an ISO 5 cleanroom? Design, certification and requirements