AI向けGPUやHBM(高帯域幅メモリ)に注目が集まるなか、その“足元”を支える材料メーカーへの関心も高まりつつある。
新潟県に本社を置くナミックス株式会社は、半導体や電子部品に使われるエレクトロケミカル材料(絶縁・導電のための樹脂材料)で世界シェア約40%を握る企業だ。
同社の2024年度(2024年4月〜2025年3月)の売上高は1,105億円、うち海外売上比率は89%。従業員は773人と、売上規模に比べて比較的コンパクトな体制で、高い収益力とグローバル展開を両立させている。
ナミックスが供給する液状封止材やアンダーフィルなどのニッチ材料は、2.5D/3D実装やHBMを使った先端パッケージで不可欠な存在だ。AI半導体の需要拡大に伴い、台湾のASEや欧州のBesiといったパッケージング大手が「先端パッケージ向け売上の倍増」や「HBM4向けハイブリッドボンディング装置の受注増加」を相次いで明らかにするなか、その裏側でナミックスのような材料メーカーへの依存度も着実に高まっている。
本稿では、直近1年の公開情報をもとに、ナミックスの事業構造と“世界シェア4割”の中身、AI・先端パッケージ時代における液状封止材の重要性、ニッチ製品を徹底的に磨く経営スタイルとグローバル展開を整理し、日本の半導体サプライチェーン全体にとっての意味合いを考察する。
エレクトロケミカル材料で世界シェア約4割を誇るナミックス

ナミックスは1947年創業の塗料メーカーを出発点とし、その後、電子部品向け材料に軸足を移してきた。現在では、事業内容を「エレクトロケミカル材料の研究・開発、製造、販売」と定義している。
主な製品は、半導体や受動部品の表面を保護する液状封止材、半導体チップと基板の隙間を埋めるアンダーフィル、配線をつなぐ導電ペースト、パッケージ基板などに用いる各種接着剤・基板材料などだ。
これらは外からは見えないが、半導体チップを「守り」「つなぎ」「固定する」ために不可欠な材料である。「CSRレポート2025」によると、同社はエレクトロケミカル材料分野で世界シェア約40%を担っていると説明しており、電子機器の内部で広く使われる“縁の下の主役”と言える。
2024年度の売上高は1,105億円と過去5年で大きく伸長し、売上の89%を海外が占める。研究開発費比率は売上高の5%とされ、材料メーカーとして継続的な技術投資を行っている。
一方で従業員数は773人(2025年3月末)と、業績規模の割には少ない。この売上規模と人員規模のギャップは、高付加価値な製品構成と、多品種少量生産による“ニッチ領域の深堀り”に主軸を置いた事業モデルであることを示している。
AI・先端パッケージ時代における“液状封止材”の重要性

AIサーバー向けGPUやHBMの普及により、半導体パッケージは急速に高度化している。2.5D/3Dパッケージやハイブリッドボンディングなど、実装技術が半導体の性能を左右する時代に入った。
世界最大のOSATであるASEは、2025年の先端パッケージ・テスト事業売上が16億米ドルと、前年から2倍超に拡大する見通しを示している。オランダのBesiも、HBM4向けハイブリッドボンディング装置の受注増を背景に、AI向け需要の強さを明らかにしている。
先端パッケージでは、高さの異なるチップを均一に埋める液状封止材や、応力を分散するアンダーフィルの性能が歩留まりと信頼性を左右する。使用量自体は少なくても、樹脂の流動性や耐久性など厳しい条件が課されるため、材料技術と評価データの蓄積が競争力となる。
AI半導体ではチップ数や封止箇所が増え、1パッケージあたりの材料価値も高まりやすい。この二重の効果により、ナミックスが得意とするニッチ材料の重要性は一段と増している。
多品種少量モデル戦略を進めるナミックス
ナミックスの経営スタイルの核は、「大量生産ではなく、多品種少量生産に特化する」点にある。
封止材や接着剤は、顧客の製造プロセスごとに最適化が必要となる。同じメーカーでもラインごとに条件が異なり、材料メーカーは共同テストを重ねながら粘度や硬化条件を調整する。こうして作り込まれたレシピは、容易に他社へ切り替えられない。
また、車載用途などでは10年以上に及ぶ信頼性データが重視される。長年にわたり実績を積み上げてきた企業ほど、このデータ資産が大きな参入障壁となる。
さらに、設計初期から材料メーカーが関わる“設計イン”の仕組みも重要だ。初期段階で材料が組み込まれると、その後の世代でも継続採用されやすい。
地方発グローバル企業の現場力──台湾・展示会での“距離の短縮”

ナミックスは本社と主要生産拠点を新潟に置きながら、売上の約9割を海外が占めるグローバル企業だ。
2025年10月には台湾新竹市に販売会社の新オフィスを開設した。TSMCをはじめとする半導体企業が集積する地域に拠点を構えることで、顧客との距離を縮め、技術サポートや共同開発を加速させる狙いがある。
また、国内外の展示会への出展を通じて技術情報の発信も強化している。地方に基盤技術を置きつつ、世界の最前線と直接つながる姿勢は、地方発グローバル企業の一つのモデルケースと言える。
日本の半導体サプライチェーンに与える影響

日本はロジックやメモリの最終製品では存在感を失いつつあるが、材料分野では依然として高い競争力を持つ。ナミックスの事例は、その象徴だ。
封止材やアンダーフィルといった「見えない部材」が、AI半導体やHBMといった最先端分野で重要性を増している点は、日本企業にとって大きな示唆となる。
多品種少量と顧客密着型のモデルは、価格競争に陥りにくく、長期的な関係を築きやすい。地方に本社を置きながら世界市場で戦う姿は、他の材料・部品メーカーにとっても現実的なロールモデルとなるだろう。
“ナンバーワンよりオンリーワン”がつくる日本発サプライチェーン

ナミックスは「オンリーワンかつナンバーワン」を掲げ、エレクトロケミカル材料に特化してきた。AI半導体需要の拡大は、同社のようなニッチ材料メーカーにとって追い風となる。
単なる生産拡大ではなく、複雑化するパッケージ構造に対応するきめ細かな材料開発が求められる時代において、ナミックスの存在感は一段と高まっている。
“見えないニッチ部材”で世界を支える企業群の厚みこそが、日本の半導体サプライチェーンの強靭さを支えていると言えるだろう。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
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