関税やCHIPS廃止など——トランプ政権が半導体に及ぼした影響とは?

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2025年の米国は、輸出管理・関税・対外投資・補助金運用を連動させ、半導体産業の“前提”を新たにした。年初はAI向け半導体の規制再強化で幕を開け、春に一律10%の相互関税フレームが発動。3月にはCHIPS廃止要請と実装加速という相反するメッセージが同月内で並立し、夏には関税の延伸・追加改定に加え、「半導体に最大100%」という強い関税方針が表明された。

本稿では、2025年1〜9月に公表された内容に基づき、企業の調達・価格・収益・立地に波及した具体的な変化を、時間軸に沿って考察する。

2025年1月:第三国経由やクラウド経由での調達を難しくする

1月13〜16日、米商務省BIS(産業安全保障局)は先端計算向け半導体の輸出規制を更新し、BISが発行している貿易上の取引制限リスト「エンティティ・リスト」の追加とともに追加の「適正評価手続き」や「買収監査」の導入を告示した。

対象は、HPC/AI用途の半導体や関連技術に広がり、第三国経由やクラウド経由での調達を難しくするという設計である。BISは販売後の保守・部品供給・フィールドサービスも統制の射程に含め、データセンター向けの利用形態や、クラウド上のAI計算資源にも“再輸出”相当の視点を適用した。

これにより、業界にとっては、高性能GPUのダウングレードSKUや量的上限制への対応に加え、契約上の停止条項・ログ保存・地域固定といった運用面の整備が避けられない段階に入ったと言える。

2025年3月:CHIPSを「止める」要請と「進める」という二面性の同居

3月5日、大統領はCHIPS法(補助金総額527億ドル)の廃止を議会に要請し、補助金を債務返済に回すと主張した。他方で3月31日にはUnited States Investment Acceleratorの設置を指示。許認可の迅速化や省庁横断の投資調整によって、半導体を含む大型製造投資の実装速度を引き上げる方針を打ち出した。

結果として、補助金の対価(ガードレール)強化と投資実行の前倒しという二面性が同時に進む構図が固まった。米域内比率の引上げが一段と重視され、設計(EDA/IP)から前工程・後工程・基板に至るまで、原産地要件と公共調達を意識した工程配列の再設計が進む。

2025年4〜5月:一律10%“相互関税”の発動

4月2日、大統領文書により「相互関税」枠組みが発動した。ベースライン10%を全輸入品に課しつつ、各国の対応や不均衡に応じて上乗せを認める構造である。これに先立ち2月の大統領メモで貿易慣行の再点検が指示され、4月1日に調査結果を受領した上での実装となった。

続く5月12日の命令(公報は5月21日掲載)では、特定国との協議反映として、一部の追加関税の一時停止や再適用手順が示され、運用に“国別の可変性”が加わった。

調達現場では、CIF×(1+関税率)という原価式に置き換わることで、ケミカル・ガス・ウエハ・CMPパッド・治工具・装置部材などの部材コストが一斉に再計算された。HSコードの厳密化と原産地(ルール・オブ・オリジン)の精査、分類裁定・宣誓書の整備は、通関後の事後調査に備える“新しい日常”となった。

価格転嫁(関税パススルー)は、更新周期が長い車載・産業用途と、短い民生用途で運用が分化し、長期オフテイクの再設計や四半期サーチャージが現実解として定着することになった。

2025年7〜8月:半導体を含む輸入品に「最大100%」の関税を課す

7月7日、相互関税の延伸が発表され、7月10日には連邦官報で実務通知が示された。7月31日のファクトシートでは、国別交渉の進捗を踏まえた追加改定の方針が公表され、“10%ベース+国別上乗せ”の運用を前提に、猶予や一時停止の扱いも段階的に手順化された。

そして8月6日、大統領は半導体を含む輸入品に「最大100%」の関税を課す考えを表明した。米国内で生産中または生産を約束する企業は除外するとの説明と併記され、関税=国内立地の強制力として用いる姿勢が鮮明になった。

報道各社は、詳細設計は後続の行政文書に委ねられる一方で、既に米国内投資を進める大手(例:TSMC、Samsung、SK hynix、米IDM各社)には影響が相対的に限定的になり得る点を指摘した。

サプライチェーン上は、後工程(OSAT/RDL/FC-BGA)の北米化や、USMCA圏のモジュール化による原産地要件の満足が、関税負担とリードタイムの双方を抑える解として浮上している。

2025年9月:“更新に強い運用”への移行

9月5日、ホワイトハウスは相互関税の適用範囲を再定義し、通商・安全保障協定の実装手順を示す新たな大統領文書を公表した。背景には、国別交渉の進捗差や安全保障上の配慮があり、0%への引下げや232条関税の修正も、合意の内容次第で可動と明記された。

夏以降、相互関税は固定税率ではなく“動的運用”のフェーズに入っており、企業側には契約・供給地・BOMの切り替えを平時運用に落とし込むことが求められる。

価格面では二価格見積(米域内/海外)とTCO比較が標準化し、立地面では米域内比率のKPI化が進む。規制対応では、輸出管理・投資審査・関税という三変数が同時に変動しても、停止・再交渉・代替供給に即時移れる“運用としてのレジリエンス”が競争力の差を生む。

大切なのは「更新に強い運用」を自社能力として内在化すること

2025年の米政策は、価格に響く関税、技術フローを制約する輸出管理、資本の流れを制約する対外投資、補助金の対価強化を同時に進め、半導体のサプライ網・価格体系・拠点戦略に多大な影響を及ぼした。

これに対応するために企業に必要なのは、第一に可変費としての関税と固定費としての立地を明確に分解すること、第二に米域内比率・原産地要件・公共調達を踏まえた工程配列を設計すること、第三に規制の変化を前提にした契約と情報統制をSOPへ格上げすることだ。

政策は今後も更新される。だからこそ単発最適化ではなく「更新に強い運用」を自社能力として内在化する——それが、価格転嫁の確度、納期安定、資本効率の両立を実現する最短の道なのだ。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
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