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SEMICON.TODAY 5 min · 2026.09.08

株式会社ジー・キューブ|後編 半導体で培った「管理の思想」が、人工骨をつくる── メディカルへの越境、循環型教育、西村賢治が描く未来

この記事を読むのにかかる時間: 5 分

「半導体の会社が、なぜ人工骨を?」――そう問われることも少なくない。だが、西村賢治社長に迷いはない。「半導体だろうがメディカルだろうが、本質は何も変わらないんです」。半導体の世界で叩き込まれたトレーサビリティ、SOP(標準作業手順)、そして徹底した管理の思想。それは、医療機器づくりの現場でこそ生きる――。後編では、株式会社ジー・キューブが挑むメディカルへの越境、組織を貫く「自分ごと」の文化、そして西村社長が描く循環型教育と半導体の未来に迫る。

顧客ごとに会社をつくり、そして束ねる

ジー・キューブは、複数のグループ会社を抱える。その成り立ちには、徹底した顧客目線がある。

メンテナンスやエンジニアリングサポート、製造派遣といったサービスを突き詰めていくと、お客様ごとにルールもやり方も異なることに突き当たる。ならば、お客様専用の事業ができる会社をつくればいい――。そうしてローカルに本店を構え、地域で採用し、転勤もない体制を築いてきた。お客様のシフトに合わせやすく、就業規則もシンプルに済む、というメリットがある。

一方で、会社を分ければ、それぞれに管理人材が要り、法人税も別にかかる。メリットとデメリットは表裏一体だ。かつては半導体一本だったため、子会社を分けて持つ意味も大きかったが、事業が多岐にわたる今、西村社長は方針を転換。昨年ごろから約3年計画で、半導体を一つのセクションとして再構築すべく、グループの集約を進めている。分けて、そして束ねる。組織もまた、時代に合わせて姿を変えている。

「本質は同じ」 ── 半導体からメディカルへの越境

ジー・キューブのもう一つの顔が、メディカル/ライフサイエンス事業だ。半導体とは一見かけ離れた領域に、なぜ踏み込んだのか。

直接のきっかけはリーマンショックだが、西村社長の中には、より本質的な確信がある。「僕の中では、半導体事業だろうがメディカルの事業だろうが、あまり何も変わらない」。営利企業として価値を生む――その一点は同じで、違いは道具の差でしかない、と言う。

「ものを書くのに、シャープペンもボールペンも鉛筆もある。それくらいの違いなんです」

むしろ、両者の親和性は高い。半導体は、トレーサビリティやSOPといった管理が絶対とされる世界だ。そこで当たり前とされるノウハウは、医療機器を開発・製造する現場でも、そのまま強みになる。半導体で磨いた「管理の思想」こそが、越境の武器だった。

京大発の人工骨 ── 「工業の技術」が医療を変えた

その象徴が、京都大学発ベンチャー「京・クリエイト」だ。京都大学の藤林俊介特定教授の研究をもとに、3Dプリンティング技術で患者一人ひとりに適合する人工骨(椎体ケージ)を実用化することを目指す。

大学は優れた技術を持っていた。だが、資金やリソースの壁に阻まれ、なかなか世に出せずにいた。ここでジー・キューブの発想が生きる。西村社長に言わせれば、3Dプリンティングそのものは医療の技術ではなく、工業の技術だ。同社は2017年ごろからレーザー焼結などの3次元造形に取り組んできた。

「その工業的な技術を、たまたま使う先が医療だった、というだけ」。資金をバックアップし、事業化を後押しした結果、医療業界では認証まで10年、20年かかるのが常識とされるなか、スタートから数年で承認にたどり着いたという。それを可能にしたのは、半導体の世界で培った管理のノウハウにほかならない。

この事業は、医療と獣医療の融合も見据える。人工骨や関連技術を通じて、人にも動物にも貢献する――半導体で培った土台の上に、まったく新しい価値が花開こうとしている。さらに西村社長は、抗体(アンチボディ)づくりという強みにも触れた。抗体を素早くつくる力があれば、パンデミックが起きた際に、いち早く検査キットや医薬品の原料を生み出せる。社会課題にどう応えるか――メディカル事業の根には、その大きな命題が据えられている。

「Be an owner. Be a player.」 ── 自分ごとの文化

半導体からメディカルまで、挑戦を続けられる組織の土台には、明確な行動指針がある。掲げるのは、一人ひとりが当事者(オーナー)であると同時に、実践者(プレイヤー)でもあれ、という思想だ。

その核心が、前編でも触れた「自分ごとにする」だ。この文化は、独特の育成観にも表れている。ジー・キューブでは、まず自分でやってみることを重んじる。時には、あえて失敗させる。会社としては、その間に売上が下がることも分かっている。実際に下がる。だが、それが何パーセント以内に収まるかも把握したうえで、任せる。

西村社長自身、大企業のサラリーマン時代には、こうしたマインドをなかなか持ち得なかったと振り返る。だからこそ、機動力のある企業体で、当事者意識を育てる道を選んだ。小集団活動を根づかせ、CI(コーポレート・アイデンティティ)にも早くから力を注いできた。周年イベントでは、歩んできた歴史と指針を、必ず社員へ語り継ぐ。

素直さ、やる気、協調性 ── 人を見る目

採用の中心は、業界経験者をピンポイントで中途に迎えるかたちだ。半導体メーカーの元社員が転職してくることもあり、人材紹介や人事のルートから話がつながる。もっとも西村社長は、未経験だから駄目だとは考えていない。未経験でもできる仕組みを、教育で埋めていく。理系・文系のバックグラウンドも問わない。

面接では、人物面の最終的な見極めを西村社長自らが担う(近年、半導体部門の面接は現場に任せているという)。特徴的なのは、その空気感だ。

「面接だと、みんな緊張して『武装』してくる。猫をかぶってくる。でも、そんなものは我々には必要ないんです」

だから、友達感覚に近い距離感で、本音を引き出す。所要時間は15分ほど。見ているのは、キャリアそのものよりも、やる気、素直さ、そして協調性だ。

では、実際に活躍しているのはどんな人か。答えは一貫している。「やっぱり、自分ごとにしているやつは活躍しますね」。価格の交渉になっても、「これは俺のお客さんだから」と、なぜそうすべきかを掲げて戦える人。そして、「なぜこれはこうなっているのか」と問える人。慣れで作業をこなすのではなく、工夫しようとする人こそ伸びる、と西村社長は言う。やらされる仕事ではなく、自分でやる仕事。その意識が、活躍を分ける。

循環型教育 ── 日本の半導体を、支えるために

そして西村社長がいま最も力を注ぐのが、教育の事業化だ。専門人材は取り合いの様相を呈し、労働人口は減り続ける。自社のベテランも相応の年齢を重ね、5年後、10年後を見据えれば、手を打たねばならない。

ただし、その教育観は、派遣会社のそれとは一線を画す。派遣会社は、自社が送り出す人材を教育する。対して西村社長が描くのは、デバイスメーカーの工場に入るあらゆるサプライヤーを、共通のSOPとルール、そして整った設備・環境のもとで育てる構想だ。

会社ごとにバラバラに教えていては、デバイスメーカーの稼働率向上にはつながらない。業界全体を、同じ基準で育てる。それが、稼働率の底上げに効く、という発想である。

ここに、西村社長は「循環型」という考えを重ねる。キャリアを積んだシニアや、お客様側で定年を迎えた人材に、トレーナーとして加わってもらう。ベテランの経験を、次の世代へと循環させるのだ。半導体装置は世界のどこでもほぼ変わらないため、このメソッドは海外へも横展開しやすい。すでに教育センターの開設も具体的に動き出している。「これは、日本の半導体産業を支えるために絶対に必要なところ」。一企業だけでなく、パートナー企業や顧客、公的機関も巻き込んで実現すべき構想だと、西村社長は見据える。

未来は明るい ── サービスから、ものを生む世界へ

半導体業界の未来を、西村社長は「明るい」と言い切る。AIの台頭も、20年前、30年前には考えられなかった事象だ。こうした変化が次々と生まれる業界であり、いまや半導体なしには生活が成り立たない。だからこそ、未来は明るい。

そのうえで、西村社長はさらに先の世界を見ている。半導体は、それ自体一つの「物体」でしかない。この物体を使って、どんなサービスを展開できるのか。「こういうものがあるから、こういうサービスを」ではなく、「こういう課題を解決したい、だからこういうものが要る」――サービスを起点に、必要なものをシームレスに生み出していく世界。そこへ持っていきたい、と語る。

メディカルでも、発想は同じだ。世界の社会課題にどう応えるか、という命題のもとで、事業を広げていく。半導体で培った管理の思想が、人工骨を生み、抗体を生む。専門領域を超えて価値を生み続ける――それが、ジー・キューブの存在理由そのものだ。


取材を終えて

「自由な会社でありたい。自分たちが描く夢を、叶えられる企業でありたい」。西村社長はそう語る。夢は描くだけのものではなく、実現してこそ夢だ、と。今年53歳。現役はあと数年と見据え、次の世代への承継も視野に入れる。それでもなお、新しいことに挑む姿は楽しげだ。工業ガスの営業マンとして感じた「大企業の限界」を飛び出してから20年余り。半導体工場の駆け込み寺は、いま、専門領域の壁を越えて、未来の社会に新しい価値を届けようとしている。

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