かつては、先進的とされていた「RE100(再生可能エネルギー100%)」。
「Renewable Energy 100%」の略称で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブだが、今やグローバル半導体企業にとっては「最低限の通過点」となりつつある。
このRE100の最終目標値達成を含めた「ESG(企業が持続可能性を評価する投資家の視点に焦点を当てたもの)」を強くアピールするIntel、Micron Technology、Appleなどの先端企業は、自社だけでなくサプライチェーン全体のカーボンフットプリント(製品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの量を、CO2排出量に換算して表したもの)を削減し、さらにはカーボン・ネガティブ(排出量を差し引いてマイナス)を目指すと公言する。だが、現状ではその理想と現実の間には大きなギャップがある。
本記事では、ESGアピールを競争優位性として取り込もうとする企業の戦略的意図を読み解くとともに、その達成に立ちはだかる課題、特にScope 3排出(企業の活動によって間接的に発生する温室効果ガス排出量)への対応や電力調達、各事業者のグリーン証書の信頼性といったボトルネックを明らかにする。
カーボン・ネガティブへの3つのアプローチと課題
1. Micronの「2030年までにサプライチェーン全体の炭素削減」

Micron Technologyは2024年6月、サステナビリティ・レポートの最新版にて、2030年までに「Scope 1・2・3の絶対排出量を50%削減」という目標を発表。この目標で、特に着目すべきはScope 3(サプライヤや製品使用時など、間接的排出)の比重が全体の90%以上を占めている点である。
Micronは、台湾・日本・米国など各地の拠点で再エネ導入や水リサイクルを進めるが、それ以上に求められているのは、数百社に及ぶサプライヤを巻き込んだ脱炭素の枠組みづくりである。
2. Intelの再エネ導入とオフセット活用
Intelはすでに米国、欧州の主要拠点で100%再エネ化を実現しているが、2024年2月には「2030年にグローバル全拠点でネット・ゼロを達成する」という中期目標を更新した。
特筆すべきは、再エネ調達に加え、カーボンオフセットや排出権取引(REC)を巧みに組み合わせ、実質的な排出ゼロを維持している点である。だが、RECの信頼性や施設の所在地が偏っていることには批判の声もある。
3. Appleがサプライヤに課す「ゼロカーボン要件」
Appleは自社の製造・物流工程だけでなく、主要サプライヤ(TSMC、Foxconn、Murataなど)に対しても2030年までに再エネ100%、カーボン・ニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、全体として排出量を実質ゼロにする)を義務付けている。
2024年現在、300社以上のサプライヤがこの提案に同意している。Appleは定期的に各サプライヤの排出削減状況を評価し、達成度の低い企業との契約を見直す姿勢を示しており、半導体業界における「脱炭素プレッシャー」の実質的な出発点となっている。
「カーボン・ネガティブ」戦略こそESG競争の真の差別化要因に

このように、厳格なバリューチェーンマネジメントが、取引要件や受注機会に直結する時代が始まっているのだ。サステナビリティは今やIRやブランディングだけの問題ではない。調達先の選定、設備投資の優先順位、工場立地選びなど、あらゆる経営判断に関わる「競争力の中核」へと進化している。
しかし現実には、再エネの供給制約、地域間格差、CO2排出量算定の不透明さといった複雑な問題が山積している。特に日本国内では、電力系統の制約やPPA(Power Purchase Agreement:再エネ直接契約)導入の遅れが、脱炭素対応の足かせとなっている。
今後求められるのは、単なるRE100の達成ではない。サプライチェーン全体を巻き込んだ「カーボン・ネガティブ(温室効果ガスの排出量よりも吸収量が多い状態)」戦略こそが、次世代のESG競争における真の差別化要因となるだろう。
※この記事は以下を参考に執筆されています。
参考リンク
(参考:Micron Technology Sustainability Report 2024)
(参考:Intel 2023–2024 Corporate Responsibility Report)
(参考:Apple Environmental Progress Report 2024)