キオクシアとGoogleが「水力160GWh同盟」結成!──クリーン電力が「新しい工場インフラ」になる日

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2025年12月3日、日本の半導体メモリ専業メーカーであるキオクシアはGoogleと共同で、日本の中部地域にある水力発電所のリトロフィット(既存設備の高効率化)プロジェクトからクリーン電力を調達する取り組みを発表した。年間最大160GWh、一般家庭約4万世帯分に相当する電力を生み出し、その一部をキオクシアがオフテイク(長期契約で買い取る)するスキームである。供給源は中部電力グループが保有する既存水力発電所で、新設ではなく設備改修によって追加的な再生可能エネルギーを生み出す点が特徴だ。

キオクシアは、2040年度までに事業活動で使用する電力の再生可能エネルギー比率を100%、2050年度までに温室効果ガス排出ネットゼロを実現する長期目標を掲げている。

一方、Googleは2030年までに世界中の拠点で「24時間365日カーボンフリー電力(24/7 CFE)」を達成する方針を示しており、AIデータセンターの拡大で増加する排出の抑制に取り組んでいる。両社の利害が「安定したクリーン電力の確保」という一点で重なった結果が、今回の水力160GWh連携と言える。

NANDメモリのメガファブ(数千億円規模の大規模製造工場)は、電力コスト・CO₂排出・供給安定性の3つを同時に満たす電源ポートフォリオを求められる。

本稿は、この両社による水力160GWh同盟とも呼べる連携による、クリーン電力を「イメージ向上」ではなく、バリューチェーンの競争力に直結する経営資源として扱う動きを考察する。

「安定供給可能なクリーン電力」が持つ意味

キオクシアとGoogleが発表したスキームでは、中部地方の水力発電所のリトロフィットによって年間160GWhの追加的クリーン電力を生み出し、その一部をキオクシアが自社事業向けに活用することになる。160GWhという規模は、一般家庭約4万世帯分の年間消費電力に相当し、1工場分の電力を賄うには足りないものの、「安定供給可能なクリーン電力」を固定的に確保するという点では大きな意味を持つ。

水力リトロフィットは、既存ダムや水路を活用するため、新規ダム建設に比べて環境負荷やリードタイムを抑えつつ出力を増強できる。水力は天候依存度が比較的低く、ベースロードに近い安定した電源として扱いやすい。太陽光や風力主体の再エネ拡大では、出力変動が大きく需給調整が課題になるが、水力はその調整役も担える。

NANDメガファブからみると、電力単価の変動リスクを抑えられること、電力あたりのCO₂排出原単位を大きく引き下げられること、安定供給に寄与する電源を長期的に押さえられること、という3つの要素が同時に得られる。

Scope2削減は第二の原価改善

キオクシアのサステナビリティ情報によると、グループ全体の温室効果ガス排出量は、2024年度時点でScope1(自社燃料などの直接排出)が約51万t、Scope2(購入電力由来の間接排出)が約195万t、Scope3(サプライチェーン全体)が約713万tとなっている。排出量の中核が工場の電力であることが明確に示されている。

同社は、Scope2排出について「毎年1%削減」を続ける中期目標を掲げ、2024年度には約2.4万tの削減を達成した。エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの比率は4.7%にとどまるが、岩手工場での高効率空調導入や熱源システムの刷新、PFC(パーフルオロカーボン)ガス処理装置の全社展開などにより、省エネと温室効果ガス削減を同時に進めている。PFC処理装置の導入効果は、2024年度だけで約466万tのCO₂削減として報告されている。

このような取り組みは、プロセス改善や歩留まり向上と同様に「原価改善」の一部として位置づけられつつある。電力消費量あたりの生産能力を高めることは、サイクルボトム局面でも利益率の下支え要因になる。水力電源のようなクリーン電力を長期的に確保することは、将来のカーボンプライシングやCO₂排出係数の変化に左右されにくいコスト構造をつくることにもつながる。

同社の四日市工場は、世界でも有数の規模を誇るフラッシュメモリ製造拠点であり、スマートフォン・SSD・データセンター向けNANDの主要供給源となっている。同工場は環境マネジメントシステムを早期に導入し、再エネ利用や省エネ設備の導入、生物多様性保全など、環境負荷低減への取り組みを継続している。工場レベルの省エネと、電源ポートフォリオの転換が組み合わさることで、電力関連のコストと排出の両方を下げる構図が見えてくる。

グローバルメモリ大手との比較

このような脱炭素に関する目標や投資の規模は、メモリ大手各社で差が出始めている。

米Micron Technology(マイクロン・テクノロジー)は、2025年環境目標として、米国拠点で使用する購入電力を2025年末までに100%再生可能電力に切り替える計画を掲げている。さらに、2028年までに環境目標の達成に向けて約10億米ドル(約1,500億円)の投資を計画し、水処理・省エネ設備・温室効果ガス削減プロジェクトなどに既に4億600万米ドルを投じたと公表している。

韓国Samsung Electronics(サムスン電子)もサステナビリティレポートで、デバイス(DX)事業における再生可能エネルギーへの移行率が2024年末時点で93.4%に達したと報告している。韓国国内外の拠点で太陽光や風力などを組み合わせた再エネ調達を進め、2030年までのScope1・Scope2ネットゼロ達成を掲げている。

これに対し、キオクシアは売上規模こそ両社より小さいものの、2040年度の再エネ100%と2050年ネットゼロを明確に掲げ、温室効果ガス排出をTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みで整理している。温室効果ガス削減が、電力コスト・設備投資・評判・資金調達コストなどに与える影響をリスクと機会の両面から分析し、経営課題として位置付けている点が特徴だ。

このように脱炭素投資の規模やスピードは各社で異なるが、電力と排出を同時に制御する仕組みを早期に構築できるかどうかが、メモリバリューチェーンの競争力の差につながっていく。

顧客が「サプライヤ工場の電力」まで視野に入れる時代

今回のスキームのもう一つの特徴は、Google側が「サプライヤ工場の電力」まで視野に入れている点だ。キオクシアの発表では、この水力電源がGoogleのScope3排出削減と自社のネットゼロ目標達成に資する取り組みであることが明記されている。

Googleは最新の環境レポートで、2019年比で温室効果ガス排出量が51%増加した一方、データセンター由来の排出はクリーン電力調達や効率化により前年から12%減少したと報告している。AI用途の拡大でデータセンターの電力需要が増えるなか、自社のScope2だけでなく、半導体などサプライチェーン上流の排出も課題となっている。

そのため、世界各地で電力会社や再エネ事業者と長期PPAを結ぶだけでなく、イタリアの蓄電技術企業とのゼロエミッション電力供給提携や、米国データセンター向けの再エネPPAなど、複数のクリーン電源確保策を組み合わせている。日本での水力リトロフィット連携は、その延長線上で「サプライヤの脱炭素」を含めて設計したスキームと位置づけられる。

キオクシア側も、気候変動への取り組みの中で、顧客からの温室効果ガス削減要請や再エネ利用拡大要請を「移行リスク」であると同時に、「対応することでビジネス機会の拡大や企業価値向上につながる移行機会」として整理している。顧客と一体で電源ポートフォリオを設計することは、長期的な取引関係の強化にも結び付く。

価格・性能・供給能力に加え、「どれだけ低炭素な電力で製造されたチップか」が調達条件に組み込まれる流れの中で、電力を含めてサプライチェーン全体を設計できるサプライヤが選好されやすくなる。今回の連携は、その関係のあり方を象徴する事例と言える。

さらに、こうしたスキームはウエハや装置・材料メーカーといった上流工程にも波及し、「低炭素な中間財」を評価するインセンティブを生み出す。最終的には、SSDメーカーやクラウド事業者が「CO₂フットプリントの小さなNAND」を選好する流れを強め、NANDバリューチェーン全体の設計思想そのものを変えていく可能性がある。

日本の電源構成とファブ立地リスク

日本政府が2024年12月に示したエネルギー政策の改定案では、2040年度の電源構成として、再生可能エネルギー40〜50%、原子力20%程度、残りを火力とする方向性が示されている。同時に、2030年度比で電力需要が12〜22%増加すると試算され、その主因の一つとして半導体工場とデータセンターの新増設が挙げられている。

これが意味するのは、半導体クラスタの拠点選択に「電力制約」がいっそう強く影響するということだ。系統容量に余裕があり、再エネポテンシャルの高い地域は工場立地にとって有利になる一方、電力需給が逼迫する地域では、大規模ファブの増設が制約を受ける可能性がある。

キオクシアのプレスリリースは、今回の水力リトロフィット案件について、「脱炭素化に課題を抱える地域において、自社の事業継続を支える再生可能電力を確保する取り組み」と説明している。四日市工場が立地する地域で、電力会社・大口需要家・グローバル顧客が協調しながらクリーン電力を増やすスキームを組むことは、将来の電力制約を緩和し、新たな設備投資余地を生み出す布石になる。

クリーン電力をどのように確保し、どの地域でどれだけの容量を押さえるかは、今後の半導体工場の立地戦略や生産能力計画にとって不可欠な要素になっていく。

今回の連携は、中部電力エリアという製造集積地で、既存インフラを活用しながらその課題に向き合う一つのモデルケースになっている。

クリーン電力は新しい「工場インフラ」

キオクシアとGoogleによる水力160GWh連携は、クリーン電力を「CSRの一項目」から「工場インフラの中核」へ位置づけ直す動きとして捉えられる。

キオクシアは、2040年度の再エネ100%と2050年ネットゼロという長期目標のもと、Scope2削減を第二の原価改善として扱い始めている。PFC処理装置や省エネ型空調などの投資に加え、水力リトロフィット案件を通じて安定したクリーン電力を長期的に確保することは、電力コストとCO₂排出の両方を制御するうえで重要な一手となる。

一方、Googleは24/7カーボンフリー電力とサプライチェーンの脱炭素を同時に進める中で、サプライヤの電力ポートフォリオにまで踏み込む形で協働の枠組みを広げている。サプライチェーンの中で、電源まで含めた設計を共同で行う関係は、長期的な取引の安定性を高める要素にもなる。

日本国内では、2040年に向けて再エネ比率の大幅な引き上げと、半導体・データセンターの電力需要増が同時に進む。どの企業がどの地域で、どのようなクリーン電力ポートフォリオを構築するかが、ファブの競争力とサプライチェーン全体の価値を左右していく。

水力という既存インフラを高度化し、メモリ工場とクラウド事業者が共同で活用する今回のスキームは、その方向性を先取りする取り組みの一つである。クリーン電力を「新しい工場インフラ」としてどう扱うか。今後の半導体戦略を考えるうえで、避けて通れない論点になりつつある。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク

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