近年、半導体業界は、グローバルサプライチェーンの再構築と地政学リスクの高まりに直面している。この背景には、米中対立や台湾有事リスク、パンデミックによる物流混乱などがある。そしてこれにより、アジア一極集中の時代は終わりを告げつつあるのだ。
そんな中、世界有数の半導体パッケージング企業である米国に本社を置くAmkor Technologyが、ポルトガルのポルト市に大規模な新工場を建設し、欧州における製造能力の強化を加速させている。この動きは「欧州回帰(Reshoring to Europe)」と呼ばれ、欧州域内での半導体製造能力確保とサプライチェーン強靭化を目指す世界的な潮流の一部だとされている。
本稿では、Amkorのポルトガル新拠点の背景と狙い、そしてAmkorのこの動きは、日本企業にとってどのような戦略的示唆をもたらすのかを紐解いていく。
欧州回帰の背景とAmkorの決断
半導体業界は、従来からアジア(特に台湾・韓国・中国)を中心とした製造拠点に大きく依存してきた。しかし近年は、米中の技術覇権争いや台湾有事リスク、さらにはCOVID-19パンデミックによる物流混乱により、アジア一極集中のリスクが顕在化している。このため、欧州や米国では、半導体サプライチェーンの分散化と域内製造能力強化の動きが加速している。
この状況の中、半導体パッケージング・アセンブリ・テスト・エンジニアリング・製造サービスを提供する世界有数の企業であるAmkor Technologyは、2025年、ポルトガル・ポルト市に50万平方フィートの新工場であるAmkor Portugal(ATEP)を新設し、欧州初の本格的な後工程製造拠点を確立した。この拠点は、EU域内の自動車向け半導体需要の高まりに応えるとともに、地政学リスクへの対応力を強化するための戦略的な投資と言える。

ATEPの特徴と役割
1. ATEPの概要
ATEPでは、設計からウェハレベルのパッケージング、MEMSやセンサ技術、テストソリューションまで、開発チェーン全体をカバーする。特に自動車向け半導体の製造・テストに強みを持っており、欧州の自動車メーカーやTier1サプライヤに対して、迅速かつ安定した供給が可能である。
さらに、Amkorはポルトガル工場でIATF 16949(自動車産業向け品質マネジメントシステム)の認証を取得し、欧州域内のサプライチェーンにおける信頼性や素早い対応力を高めている。加えて、Global Foundries(GF)のドレスデン工場からポルトガル・ポルト市のATEPへ、300mmバンプ・ソート生産ラインの移管が行われ、欧州初の本格的後工程製造拠点としての地位を確立している。以下にATEPの概要をまとめた。
| 項目 | Amkor Portugal(ATEP)の概要 |
| 所在地 | ポルトガル・ポルト市 |
| 工場規模 | 約50万平方フィート |
| 主な技術 | ウェハレベルパッケージング、MEMS、センサ |
| 認証 | IATF 16949 |
| 主な顧客 | 欧州自動車メーカー、Tier1サプライヤ |
| サプライチェーン | EU域内での迅速・安定供給 |
2. ATEPの欧州における立ち位置
欧州では、マイクロエレクトロニクス分野の自律性強化が国家的な課題として認識されている。EUは「マイクロエレクトロニクスアジェンダ」や「EUチップ法」などの政策を推進し、域内の生産能力・イノベーション・人材育成を強化するための投資を加速している。ATEPは、この政策の一環として「マイクロエレクトロニクスアジェンダ」プロジェクトのコンソーシアムリーダーを務め、欧州の半導体産業の自立を牽引する役割を担っている。
この動きに日本企業はどう対処すべきか

このようなグローバルサプライチェーンの再構築は、日本企業にとっても重要な経営課題と言える。欧州や米国での現地調達・現地生産体制の強化は、地政学リスクや物流リスクの回避につながるからだ。特に、自動車や産業機器分野では、安定した半導体供給が事業継続の鍵となる。
だからAmkorのATEPは、欧州域内で半導体サプライチェーンを支える新たな「拠点」として、日本企業にとっても戦略的なパートナーとなり得るのである。今後は、欧州や米国での現地調達・現地生産体制の強化と併せて、サプライチェーンの多様化と強靭化を推進することが求められるだろう。
半導体サプライチェーンの「新たな地図」に

Amkorのポルトガル新拠点設立は、単なる工場建設にとどまらず、欧州における半導体サプライチェーンの自立と強靭化を象徴する存在と言える。米中対立や台湾有事リスク、パンデミックによる物流混乱など、グローバルなリスクが高まる中、欧州回帰(Reshoring to Europe)は半導体業界の新たな潮流となりつつあるのだ。
そして、欧州や米国での現地調達・現地生産体制の強化は、日本企業にとっても重要な経営戦略である。今後は、サプライチェーンの多様化と強靭化を進め、地政学リスクに強いビジネスモデルを構築することが求められる。Amkorの挑戦は、その先駆けとなり、半導体業界全体の「新たな地図」を描き始めているのである。